校舎裏、一人で練習をしていたら国見が目の前に現れた。相変わらずの無表情で、何を考えているのかさっぱりだった。
「影山、こんなところで一人で練習?」
嘲笑うように吐き捨てる国見にカッと頭が熱くなった。何か言い返そうとして――俺は止めた。その様子をつまらなそうに睨みつける。なんだこいつ、喧嘩売りに来たのか?
「喧嘩売りに来たのか?って顔してるけどまさにその通りだよ」
「は、…んだよ…別にバレー部に顔出してないし、お前らとの関わりはもう無ぇんだからほっとけよ」
「お前が沈んでるのはどうでもいいんだけどさ、高槻に迷惑かけるの止めてくれる?」
あいつの名前を聞いただけで、ぎりぎりと胸が痛む。分かってる、そんなことは分かってる。あいつはなんの関係もないのに俺の幼馴染だからというだけで被害を被ってるということくらい。それでも何も言わず、俺の隣に居てくれるあいつに、酷く甘えている事くらい、わかっている。
「お前の隣に高槻が居なかったら、お前はとっくの昔に折れてたのかな。お前はバレーを止めて、本当に赤の他人になってたのかな」
そうかもしれないな、と俺は笑った。
「ほんと、俺はお前が嫌いだよ」
「…知ってる」
国見が俺を睨んだ。
▽△▽
影山が馬鹿なのは重々承知だ。今の俺の沸点が大分低くなっている自覚もある。が、影山の一言で苛々が止まらなくなる。一年の頃はまだ仲良かったと思ったが、そんな記憶は何処かへ置いてきた。
「お前さ、いくら幼馴染だからって高槻に甘えまくりなのどうかと思うんだけど」
「っ、自覚はあるし分かってる」
「じゃあ離れろ」
結局影山に嫉妬してるんじゃないか。馬鹿じゃないのか俺。大分口調が厳しくなった俺に肩を竦める。それでも、思う事があるようで口を開いた。
「く、国見にとやかく言われる筋合い…ねーだろ。今、俺とあいつ、一応付き合ってるわけだし」
ブチッ、っと自分の中で何かが切れる音がした。
「なに、お前高槻の事好きなの?違うだろ。ただお前が高槻に依存してるだけでさ。馬鹿なお前でもそれくらい分かってる筈だろ?お前らの間に恋愛感情はない。馬鹿なくせに一丁前に付き合ってるとかほざいてんじゃねーよバレー馬鹿のくせに」
「…お、おう…」
「俺さ、高槻の事好きなんだよね。だから早く高槻の隣、空けてくれる?」
静寂。するりと影山の手からバレーボールが地面に吸い寄せられるように落ちる。影山は目を見開いている。暫くして、「は…え、…は?」と言葉になっていない声を発する。あーあ、馬鹿じゃないの本当に。本人に言う前になんで影山に告白しなければならないんだ。
「……あー…その、」
「お前がバレー部と蟠り持ったまま卒業とか、別に俺としてはどうでもいいんだけどさ」
「ほんとお前俺が嫌いだな…」
「当然。高槻の事が無かったら影山の事なんて普通にほっとく」
「…いつから、藤乃の事」
「なんで影山と恋愛トークしなきゃいけないんだよどうでもいいだろ」
ハァ、と大きく溜息を吐くとビクリと影山は身体を揺らした。なんでそんなビビってんのこいつ。取りあえず、言いたい事は…まだ沢山あるけどお終いにしよう。もう、この時間なら他の連中集まってるだろう。なぁ、と俺は声を掛ける。
「試合でもしようか、影山」
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