「飛雄、一緒に帰ろう」

当然のように俺を待つ藤乃にキリキリと胸が痛んだ。まったく、俺は何をやっているんだろうか。違うだろ、お前が手を差し伸べるべき人間はもっと違う奴だろう。心と身体が反発する。今日も俺は、藤乃の手を取った。
互いになにも言葉を発せず、帰り道を歩く。

ふと、前に及川さんに言われた事を思い出した。「お前ってば本当に贅沢人間だよね。ムカつくほど天才で、可愛い可愛い幼馴染が居てさ…俺も可愛い幼馴染欲しいからとりあえず藤乃ちゃんちょうだい!」この後岩泉さんと、後なぜか国見に殴られていた。贅沢、という言葉に俺はその時首を傾げたが、本当に贅沢だ者だなと今は思う。本当に、馬鹿じゃないのか。俺も、こいつも。なんでこいつは、俺を見捨てない。

「お前はさ、俺の事好きじゃないだろ」

藤乃に告白まがいなことをされてから数日後、堪らず言ってしまった言葉。言ってはいけない言葉だろうと自覚はしていたのに、俺は口に出してしまった。その時、藤乃は笑ったのだ。どういった意味の笑みなのか。ただ、綺麗に笑う藤乃にその時だけは見惚れてしまった。


「飛雄?ぼーっとしてどうしたの?」
「あ?いや、ぼーっとしてただけだ」
「そう…。そういえば飛雄たまにボール持ってどっか行くの見るけど、どこで練習してるの?」
「…校舎裏の隅…」

高校でも続ける気のある奴らは、部活に交じって練習してるんだけどな。金田一とかよく体育館行くの見かけるし。…国見は知らない。あいつ上手いのにやる気ねぇし。
…俺が居るだけで雰囲気悪くなる部活に、行けるわけがなかった。

「飛雄、あのさ」
「悪い藤乃、先に帰るわ」

藤乃の言葉を遮る。前方に待ち構えるように金田一と国見が居たからだ。俺は駆け足でその横を素通りする。「おい、影山!無視すんな!!」という怒鳴り声も無視して。今更あいつらに、なんて言えば良いんだよ。





▽△▽


「金田一が悪い」

なんでだよ!という金田一。いや、だってさ…

「金田一君…顔すごく怖いよ…」

俺と高槻が若干引くくらい、金田一の形相はヤバかった。あれ、誰でも避けるんじゃない?一見危ない奴だもん。そういうと金田一は固まった。「俺、そんな怖い顔してたか…?」なんて言うから2人して頷いた。

「…悪い」
「ううん、ありがとう」

金田一君、部活の邪魔してごめんね。と高槻が言うと金田一は動きを止めた。「お、俺達部活引退したって言ったじゃん。だから放課後超暇だし」悪い、俺お前が部活行ってるの高槻に言ったよ。心の中でそう言う。しかし、まぁめんどくさい。影山捕まえるのにも一苦労だ。







あいつが、周りを見ようとしなかった事が悪い。そして俺達が影山を見限ったことも悪い。寧ろこっちの方が最低ではないのだろうか。もっと前に、影山と話をしていたら何かが変わっていたかもしれない、なんて今更くだらない後悔をする。

「どいつもこいつも、めんどくさいね」
「ごめんね」
「俺も、めんどくさい奴の1人だけど」

本当に面倒だ。面倒だから取り敢えず影山に喧嘩売りに行くよ。そういうと「うん……うん?え、え?」と高槻面白い反応を見せた。うん、って頷いたから殴るくらいは許容範囲だよね。というと更に面白い反応を見せた。

「え、お前そんな青春漫画みたいなことすんの?なに?殴り合い?」
「は?殴り合うわけないじゃん。一方的に殴るだけ」
「ただの暴力じゃねーか…」
「だ、駄目だよ?国見君手に怪我でもしたらどうするの」
「影山への暴力はいいのか…」

いや、そっちも駄目だけど!慌てる高槻の頭を撫でる。「いい加減痺れを切らしたから」という俺に、眉を下げる高槻と「あー…」と納得する金田一。「ほら、帰るよ」と俺は高槻の手を取る。

「国見、高校でうんたらかんたらって言ってたくせに」
「嫉妬はしないけど、ずるいとは思ってる」
「それ、嫉妬じゃねーの?」
「うるさい」
「殴るっていうから国見がやる気見せたのかと思えば、私怨じゃんか」
「ついでにバレー部なんとかしてやろう程度かな」
「お前…」

首を傾げる高槻に「気にするな、結局国見は国見だったんだ・・・」と金田一の訳のわからないフォロー。

「暴力、駄目だからね」
「言葉の暴力だったらいい?」
「え、う、うん?」

あ、影山死んだな。なんて金田一の呟きが耳に入った。うるさい金田一。


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