「夜久さん」
ふらり、孤爪が目の前に立ちはだかった。そういえば今日の部活、黒尾と巳がうるさくて耳塞いでどっかに消えてたな。「どうした?」と聞くとじっと俺の目を見つめてきた。鋭い瞳に、俺はたじろぐ。
「早く、言った方がいいと思う」
「…は?」
「じゃないと「もにーとかまち」に取られちゃうよ」
は…。俺が口を開く前に孤爪は行ってしまった。…もにーとかまち、ってあれだよな。葛城の友達。…取られる?
何を、だなんて分かりきっている。
「研磨一体どうした?…夜久?」
「…孤爪に背中押されるとか…ていうかなんで孤爪葛城の事」
「おーい夜久ー戻ってこーい」
あーもー…頭を掻き毟る。そりゃいつか腹括って言わなきゃいけない事だけど。でも、葛城を誰かに取られるのは、嫌で。
「…明日部活休みだっけ…」
「おー、体育館使えないから自主練もできねーよ」
「…ふーん」
「夜久ほんとどうした?」
「黒尾うるせぇ」
「なにこの理不尽」
▽△▽
孤爪君と別れた後、ずっともやもやしていた。…自意識過剰、って言い聞かせてたけど…なんかね、近付きたいとか…思っちゃうんだよなぁ。
結局私はあまり眠れずに朝を迎えた。今日も良い天気。眠れなかったくせに、朝は酷い眠気。うー、と唸りながら電車を待つ。…あんまり、夜久君に会いたくないなぁ、なんて。いっそガツンと
「おはよう葛城」
ガツンと、言ってくれれば…
「…おーい、葛城−?」
「はっ…!夜久君いつの間に」
「…うん、もう席あいてるぞ」
「え、いつの間に」
いつの間にか夜久君が目の前に居て、通勤通学ラッシュ電車がだいぶ空いていた。いつの間にこんなに進んでいたんだろう。「座るか?」という言葉に頷く。
「なんかぼーっとしてるな」
「…あんまり、眠れなかった」
「俺も」
「ふーん?何かあったの夜久君」
「何か起こすの」
そう言って夜久君は向かい側の窓を見つめた。…何か、起こすの…?何かって何だろうか。ゆらゆら揺れる電車に身体を任せ、一緒に揺れる。
「なー葛城、今日の放課後暇?」
「うん、バイトもないし暇だよ」
「…そっか、じゃあ放課後校舎裏の花壇に居てくんない?」
「…うん?いいよ」
ありがとう。という夜久君。…え、いや違うよね。校舎裏とかベタだけど違うよね。夜久君だっていつもの夜久君だ。…自意識過剰禁止、です。
「葛城顔赤いけど大丈夫か?」
「自意識過剰なので気にしないでください…!」
「は?」
顔を両手で押さえると確かに熱かった。うう、なんだよもう。自意識過剰とか、禁止禁止!なんて。もう自分の中ではっきりと答えが出てるじゃないの。
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