きらきらと未来をみつめて





意味もなく、私は自分の手首を見つめた。厳密に言うと、手首に巻かれたものをじーっと見つめていた。

「…かわいい」

昨晩徹に貰った腕時計。ピンクゴールドのフレームが何とも女の子っぽい。可愛いけど、可愛すぎて私には似合わないなぁ…。つけるけど、似合わなくてもつけるけど。
実は入学祝だったと知るのは、この後私が東京に戻って黒尾先輩が笑いながら言った時である。





▽△▽


うまく、伝えられたと思うけど。私は一人、ベッドに横たわりぬいぐるみを抱きしめていた。…うん、だいじょうぶ。私は、ちゃんと徹の妹で及川家の娘だ。ちなみにさっきの徹の暴走は全部ゴミ箱に捨てました。
そうだ、先輩達に報告しよう。とスマホの画面をタッチしたところで控えめにドアを叩く音がした。「どうぞ」と声を掛けると、ひょっこり徹がドアを開けて顔を覗かせた。私は起き上がる。

「…入っていい?」
「いいよ。…頭、大丈夫?」
「記憶吹っ飛ぶかと思った」

はははは、と遠い目をして笑う徹。母は怒らせてはいけないと私も徹も学習した。母は強し。にこにこ満面の笑みを浮かべながらフライパンを振り下ろすお母さんの姿を思い出すと、未だに鳥肌が立つ。徹の顔の傷はしらない。徹が悪いのだから。「おじゃましまーす」と徹は部屋に入り、ベッドの、私の隣に腰かけた。「どうしたの?」なんて聞くと「うーん、とね」とリボンで飾りつけられた箱を目の前に出される。なにやら、少しくたびれてる。



「あかり、これあげる」
「…なに?これ」
「プレゼント、ずっと渡せなかったんだけど」


「ねぇ、開けてみてよ」という徹に促され、リボンを解く。中から出てきたのは、可愛らしい腕時計。私は、徹を見る。


「え、えっと」
「今はもう別れちゃった彼女と選んだんだ。あかりへのプレゼント。つけてくれると嬉しいな」
「つ、つける。毎日つける」

箱ごと胸に抱きしめる。初めてもらったプレゼント、徹からの。大事に、したい。かぁっと顔が熱くなる。さっきは、大丈夫だったのに今になって凄く泣きたくなってしまった。ぐっと涙を堪える。


「こんなことになるくらいなら指輪の方が良かったね」
「徹部屋戻って」
「さっきも言ったけど彼女と別れたから今フリー」
「とおる出てけ」

涙なんかすっかり引っ込んでぬいぐるみをバシバシと徹に叩きつける。私は徹について色々考えなければいけない様だ。





▽△▽



というのが昨日の顛末である。徹は部活に行ってしまった。一応、午後にはあっちに帰る予定だ。一回徹のところに顔を出して。若さんとあんまり喋れてないけど、仕方ないよね。連絡先教えてもらったし、後で電話してみよう。


「…帰りたいけど帰りたくない…」

東京のみんなに早く会いたい。たった2日、されど2日。リエーフ君ちゃんと練習頑張ってるかな。黒尾先輩はいつも通り意地悪そうな顔をしているのだろうか、あ、ラインブロックしてたからしょんぼりしてるかな。夜久先輩は、うんきっと真面目だから黒尾先輩注意してるよね、練習逃げようとしてるリエーフ君捕まえてたり。…東京、帰りたいなぁ。
でも、まだこっちにも居たい。岩泉さん達とご飯行こうね、って言われたし、久しぶりに会った国見君ともあんまり喋ってない。国見君のお友達の金田一君だって、全然お話できてないし。


ぴろりん

メッセージを受信する電子音が響いた。スマホの画面に目を向ける。あ、


「夜久先輩だ」


<おはようあかり、そっちはどうだ?>そんなメッセージを見た時、何故だか居ても経ってもいられなくなった。


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