さよならを言うのが、こんなにつらいものなんて。



「いっやー…あかりちゃんの「あーん」の破壊力半端ねェわー…」
「……そーだな」
「ハハハ、リエーフ羨ましいだろ…」
「エっ?アッ、ハイ」
「で?可愛い可愛い後輩に「あーん」てしてもらった感想は?」
「口が痛すぎて意味が分からん」

水を飲みまくる黒尾先輩を前に、私はペンネを頬張る。いや、マジ超辛舐めてたわ。よくそんなもん食べられるねあかりちゃん。辛いとかそういう次元じゃなかったわ。涙目の黒尾先輩に首を傾げる。

「甘いもの苦手っていう言葉に納得したわ」
「でも好きな食べ物はぬれせんべい」
「…なんかほんと、弄りずれーわ」
「弄るなよ」
「しかしこっから俺のターンだ。仕返しだぜあかりちゃん」
「お前が全面的に悪いだろ」
「さぁあかりちゃん、このパフェを食べてもらおうか」

目の前に鎮座する巨大パフェ。私と夜久先輩が引き攣った表情をする。甘いものが嫌い以前に、大きすぎる。なにこれ。「このファミレス、限度がおかしいよな」という夜久先輩の言葉に頷いた。

「つーかお前、さっきのペンネじゃなくてこっちで「あーん」ってすればよかったんじゃ」
「夜久お前頭良いな」
「お前は馬鹿だけどな」

つんつん、とリエーフ君に突かれる。キラキラした表情で「ひとくち!」と言われたのでチョコソースたっぷりの場所をスプーンですくい、リエーフ君の口元に近づけるとぱくっと食いついた。…ちょっと、楽しいかもしれない。失礼かもしれないが、動物にエサを与える感覚だ。

「みろ、自然にやってるぞあいつら」
「リエーフめ…でもあれだ。身長差ありすぎてカップルには見えないな。制服着てなかったら」
「お前人のこと言えないからな。お前もカップルっていうより…父親と娘に見えたからな」
「え、何俺そんなに老けて見える?ってことはやっぱ視覚的にお似合いなのは夜久なのか…」
「おい、俺と及川を見比べて言うのやめろ」

それから30分、殆どリエーフ君にパフェを食べてもらい(すごい胃袋である)ファミレスを後にした。日がだいぶ落ち、あたりは真っ暗になっていた。

「流石に帰るか。あかりちゃんは――寮だから学校か。やだねェ、帰る場所が学校って」
「え、夜遅くまで練習できるからいいじゃん」
「メシ自分でつくらねーとじゃん?…夜久そういや料理できたな」
「まぁ一人で生きていけるくらいには」
「でも一人でメシってさみしーよな。あかりちゃん寂しかったらいつでも呼べよ。リエーフあたりなんか飛んでいくだろうからよ」
「もちろん!」

なんだろうか、この優しい人たちは。今まで、一人で居ても全然平気だったのに。おかしい。この後一人で寮に帰るのが、すこし寂しい。

「さて、帰るか。及川、学校まで送ってくわ」
「お?夜久一人で抜け駆けか?」
「お前ら言わなくても着いてくるだろ。ほら行くぞ」

そうして歩き始める。むずむずするなぁ。「あかり?」リエーフ君が私の顔を覗きこむ。「…なんでもないよ」そういうと、リエーフ君は少し悩み、私の手を取った。

「手を握ってると、寂しさ半減するよ」
「お、じゃあ俺は反対側の手でも握っちゃおうかな」

右にリエーフ君、左に黒尾先輩。私電柱の間に居るみたい。「なんかあれだ、宇宙人が捕まってるあの写真思い出した…」と言う夜久先輩の言葉にああ、と納得してしまった。

「リエーフ君、黒尾先輩」
「ん?」
「隣立つの、禁止。ってやくそく」
「まさかのここで振られるオチ」
「及川ー隣来い。リエーフは兎も角黒尾の隣は危ないから」
「どういうことデスカ」
「そのまんまの意味だ」
「あかり!俺黒尾先輩と違って無害!」
「俺は有害ってか」

わいわいと学校まで向かう。寮の前で「送ってくれてありがとうございました。楽しかった、です」とお辞儀をすると全員に頭を撫でられた。「じゃーなあかりちゃん、ラインじゃんじゃん送れよ」「あかりまた明日!」そんな言葉がこそばゆい。

「及川」
「はい?」
「よかったら、バレー部見に来いな」
「……考えておきます」
「ん。じゃーな」
「…さようなら、です」
「また明日」
「また、明日」

そうして3人は満足げに帰っていった。3人の背中が見えなくなるまで、私はじっと暗闇を見つめていた。


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