お久しぶりです、さようなら




『校門で待ってる』と徹にメッセージを送り、私は校門前でスマホを弄っていた。ドキドキがまだ止まらなかった。そういえば、音駒のバレー部に入部してから練習しか見てなかったなぁ。試合なんて、まだ一度も見た事がない。あっちでも、同じ感覚に陥るのだろうか。それとも、今日限りの話なのだろうか。心臓を押さえる。なんだろう、すごく…楽しい?

「…この胸の高鳴りをどうしてくれようか…」
「それは恋だよ!」
「……誰です、貴方」

突然声を掛けられ、「それは恋だよ!」が開口一番とかなんなのでしょうか。じっと目の前でにこにこ笑う人を見る。

「ねー、君ここの生徒?」
「違います。兄がここの学校で私は東京です」
「超都会!!トーキョー人!」

私はたじろぐ。なんだろうこの人、めちゃくちゃ絡みづらい。ヘルプリエーフ君!と視線をずらすが、ああここは宮城。リエーフ君居なかった。誰かたすけて。人慣れしたとはいえ、結局私は人見知り。口を閉じる。


「俺、白鳥沢の天童覚!」
「…しらとり、ざわ?」
「そうそう!そこのバレー部!超強豪だよ?」
「ばれー…部…?」
「白鳥沢のゲスモンスターって呼ばれてるゲスよ!」
「さようなら」

くるり、その人に背を向ける。危ない人だ。「いやー!ちょっとまって!?そういう意味じゃないから!ゲスって下衆って意味じゃないから!推測のGUESSだから!」と腕を引っ張られる。知らないでゲス。つーん、と無視して去ろうとするけど流石に男の人の力にはかなわなかった。むぅ、諦めてその人と目を合わせる。


「君の名前は?」
「黙秘権を行使します」
「えー」
「なんで白鳥沢のバレー部さんが、青城の学校前にいるんですか」
「んー?若利君のロードワークに無理矢理付き合わされたんだけど、ペースが速いのなんの。2周するだろうからゆーっくり歩いて若利君待ってようと思ったら目の前に君が居たの」

…若利君…はて、なにか…聴き覚えが…ある名前…。若利…若…若さん?白鳥沢・バレー部・ロードワーク・若。キーワードを組み合わせる。どう考えても知っている人です。


「え、ちょっと。ロードワークでここ走るんですか?」
「え?うん偶にね」
「早くどっか行ってください。早く早く」
「え、ちょ、なに?」
「はーやーくー!」



「あかり?」

ぴたり、身体の動きが止まる。ぎぎぎぎ、と声の方へ視線を向けると徹と、見知らぬ(多分)バレー部の人たち。マズイ。私は知っている。徹と岩泉さんは若さんが嫌いである事を。それはきっと、部内でも同じこと。やばい。
徹の眉間に皺が寄る。久しぶりに見る岩泉さんも、顔を顰める。

「ちょっと、白鳥沢のゲスモンスター君。人の妹に何ちょっかい出してるの?」
「…へ?妹?及川君の妹?えっ」

そうなの?似てないねー!と頭をぐしゃぐしゃに撫でられる。ちょっと、私の事は良いので早くどっか行ってください。


「あかりから離れろ!」
「へー!あかりちゃんって言うの。よろしくねー」
「はーなーれーろぉー!」

この時点で一触即発なのですが。ぐしゃぐしゃにされた頭を整える。後ろよし、前よし。右左おっけー。


「ゲス男さん」
「ゲス男さんは止めて!?」
「貴方がここでゆーっくりしてから何分経ちますか?」
「えー…結構?」

アバウトすぎる。どうしよう。いやきっとまだ間に合う。さっさとこのゲス男さんに去ってもらって、私たちも「及川?」…もうしらない。


「あっ、わっかとしくーん!見てみて!この子!」
「げっ!ウシワカ!」




「ん?そこに居るのはあかりか」
「…若さん、お久しぶりです…」


「は?」「え?」と何人かから声が漏れる。青城メンバーは顔を歪ませる。徹は…なんかもう、般若になっていた。対照的に無表情な若さん。…もうどうにでもなってしまえ…。


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