【国見英の話】

朝から及川さんのシスコントークが始まる。及川さんの幸せそうな顔がとても腹が立つ。「その気持ち、痛いほどわかるぞ国見」と岩泉さんに肩を叩かれた。その顔は疲れ切っていた。あ、この人及川さんに毎晩電話でシスコントークしてるんだろうなと悟る。
最近では花巻さんと松川さんまでもがシスコントークに加わっているから意味がわからない。この人たちあかりと面識合ったっけ?
それを何故だかきらきらした目で見る金田一もわけわからない。なんなのこいつ。ていうかなにこの空間。すごく居心地悪い。

「今朝もあかりめちゃくちゃ可愛くて、うとうとしながら俺の見送り玄関まで来てくれてさぁー。ほっとんど意識ないみたいで「あー」だの「うー」だの言って。起きろー!ってぺちぺち頬叩いて、そのあとむにむにして、めちゃくちゃ柔らかかった」

なんだろうか、変態発言に聞こえなくもない。いや、むしろそうにしか聞こえない。

「で、一度外に出たんだけど。やっぱり戻って見てみたらあかり玄関で立ちながら寝てた」
「なんつー器用さ」
「なんとなく持たせた抱き枕抱きしめて。抱き枕と場所チェンジしてもらいたかった」

きめぇ…と隣の岩泉さんから聞こえた。本当にその通りです。「仕方ないから横抱きしてリビングのソファに寝かせてきたけど、ほんと天使みたいに軽かった」もうそろそろ危ない人です及川さん。暫く会っていない同級生に「頼むから危機感を覚えてくれ」と祈る。及川さんが犯罪者にならないことも願って。あ、むしろ一回くらい捕まった方が良い気がしてきた。


「なぁなぁ国見」
「なに」
「お前及川さんの妹と同じクラスになったことあるんだろ?」
「…まぁ…」

金田一、そのくらいの小さな声でそのまま話してくれ。同じクラスだった、というだけで及川さんに聞かれたら何されるか…あの人ほんと妹に関して心狭いから。特にここ最近。ツンツンツンがデレデレデレになってかなり気持ちが悪い。なんだあの極端。あー、で?なんだっけ…あかりと同じクラス…

「2年の時だけ。一年の時は影山と一緒だった筈」
「は?影山と一緒?」
「バッカ!お前声がでか」



「そこの2人はなんの話してるのかな?」

こんの馬鹿金田一め…




▽△▽


体力(精神力)を根こそぎ持っていかれた俺は、昼休憩中もう誰とも会話しないと心に誓い体育館を出て外をふらふらとしていた。

ふと、校門へ目を向ける。…あー…あれは…。と顔を引き攣らせた。今朝から話題の中心、及川あかりが校門前で棒立ちをしていた。

あれか、兄の練習試合を見に来たのか。及川さんちゃんと体育館の場所教えたのだろうか…。教えていたらああにはならないか。俺は溜息一つ吐きあかりに近づく。
別にあかりが苦手なわけではない。シスコン及川さんに関わりたくないだけなのだ。結果、あかりにもあまり近づきたくないで…巻き込まれるのは御免被る。まぁ、体育館までだったら(多分)大丈夫だろうし。この多分はフラグではない。








「国見君」
「うん?」
「が、頑張ってね!」
「…あー…」

ぎゅっとガッツポーズをされて微妙な気持ちになった。だってあれだよ、及川さんの闘志半端なかった。あれ、及川さん一人で25点取る気満々だよ。下手に手出したら逆に邪魔になるパターンだ。なら、じっとしていた方が良い。下手に動かされて合宿の二の舞は御免だ。マジで死ぬかと思った、というか死んでた。

「頑張らない」
「ぅんえ?」
「なにその声。今日及川さんが全力だから俺頑張らない」
「えええ?」
「あ、いや…ちょっと待って。サボってもばれない様に頑張る」

俺の今日の目標、頑張らない様に頑張る。もうこれ以上体力を持っていかれて堪るものか。複雑そうな顔をするあかりに手を振り、俺は体育館へと入って行った。





「よぉ国見」
「ゲッ…って花巻さんか」
「及川じゃなくてよかったなー」

ケラケラと笑う花巻さん。本当にその通りです。生き死にに関わることですからそれ。「どんだけ深刻なのさ」と笑う花巻さん。あんた及川さんを甘く見過ぎだと思う。



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及川兄が自重しなくなる
この話の国見ちゃんは苦労人です


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