<及川徹の話>

「ごめんね徹、母さん気付いた時にはもう全部食べられちゃってたのよ」困った顔で笑う母さんに「うん…仕方ないよ」と肩を落とした。食べるにしたって全部食べることは無いだろ…ゴミ箱に捨てられた、煎餅の袋を睨みつけた。
只今リビングでは、わかりづらいなりにも落ち込むあかりを父さんが慰め中。「よ、よーし!ケーキ!ケーキ食べよう!!」なんて言う父さんに溜息を一つ。目の前に居る母さんも溜息を吐く。母さんも俺もあかりが甘いもの苦手だって知ってるのに…あの人は…。

「ま、お父さん仕事忙しくて構いたくてもあかりのこと構ってあげられなかったから…。でも徹と違って、甘やかす時は甘やかしてたわよ。お父さん」
「ぐ…っ」
「まぁ、喧嘩は…というか徹の一方的な暴言は無いようだし」
「…もう、言わない」
「…それは、それで…」
「なに?母さん」

いや、だってねぇ?と母さんが苦笑いを浮かべる。リビングから「あかりー!!愛してるぞー!!」と聞こえた。父さんに何言ったんだあいつ。

「お父さんが2人になるわねぇ…」
「は?」
「徹とお父さん、そっくりなんだもの」

げっ!と声をあげる。いや、父さんとそっくりとかまったくもって嬉しくない。「これからべったべたにあかり甘やかすんでしょうね」なんて笑いながら(若干遠い目をしながら)母さんは俺の部屋から出ていった。俺は、机の引き出しから箱を取り出す。なんか、随分とリボンかくたびれてしまった。入学式に渡そうと思っていた腕時計。リビングからの騒音を聞きながら、今日はもう無理だなと悟り、そのまま机の上に置きっぱなしで自分の部屋を出た。





▽△▽



「うわ」

リビング入って邂逅一番、目に映るのはあかりに抱きつく父さんの姿だった。羨ま…違う。絵面的によろしくない。何とも言えない顔で、あかりはされるがままだった。ソファの上からもう落ちそうなくらい傾くあかりの身体。寝っ転がりながらあかりの腰に抱き付く父。駄目だろこれ。俺は2人に近づく。若干疲れた顔のあかりと目が合った。

「あかりー」
「…なに」
「ばんざーい」
「え…ば、ばんざーい?」

よいしょっ、とあかりを抱きかかえる。俺の足はちゃっかり父さんの背中へ、げしげしと。あかり軽いし、小さいし柔らかいしあったかいし…いい匂いするし…なーんて思いながらあかりを片手で抱え、もう片方の手で父さんの腕を叩き落とした。

「徹、説教タイムだ」
「…母さん」
「お父さん?」
「ごめんなさい」

ここで一番強いのは母である。にっこりと笑う母さんに父さんはソファの上で土下座をした。その姿を鼻で笑うと睨まれた。べーっだ。
「とおるとおる」と抱きかかえたあかりが背中を突く。…名残惜しいけど、あかりを床に下ろす。真顔で「助かった」と言うあかりに笑う。父さんざまぁ。少し父さんと距離を置いて、ソファに座るあかりを悲しそうに見る父さん…を横目に俺はあかりの隣に座った。恨めしそうに見ても変わってやんない。
びくり、あかりの肩が揺れる。…ま、仲直り…らしきものをして今日初めて会うわけだし、警戒されてても仕方ないよなぁ。以前の俺なら、この時点で暴言吐いてるわけだし。なんでああ、暴言をスラスラ吐いていたのか、本当に謎だ。

というか…
ジッとあかりを見る。「な、なにとおる…」とびくつきながら俺を見る。…あかりが自分の部屋以外に居るのが珍しいんだよな…ご飯の時以外は家に居ないか、部屋に引きこもるかのどっちかだったし…。家族4人、こうやって同じ空間に居るのが珍しくて仕方がない。それが、普通のはずなのに。

「ま、俺が悪いんだけどさ」
「?」

あーあ…ほんと、なんでこんな捻くれた性格になったんだか。と俺は顔を手で覆い溜息を吐いた。今日溜息吐いてばっかりだ。つんつん、とあかりが俺の服の裾を引っ張る。うん、かわいい。「なに?」と顔を向けると

「…あげる」
「ん?」
「牛乳パン」
「…んぅえ!?」

変な声出た。牛乳パン、あかり俺の好きなもの知ってるの…!?「いらない?」と聞いてくるあかりにいやいやいやいや!と首を振った。あかりが!俺の為に!好物の牛乳パンを!!

「あ、ありがとうあかり…!神棚に祀っておく!」
「は?」

泣きそうになりながら牛乳パンを受け取る。あかりが怪訝そうな顔をしているのにも気づかずに、俺は心の底から喜んでいた。



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歪みない及川兄のデレが今始まる(?)


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