優しさに、目が眩む。




「ほら、荷物」とバッグを奪われ、更に手を取られ、歩き始める。1歩先を歩く徹の背中と、繋がれた手を交互に見ながら、私は歩く。…ぶっちゃけた話、この人は本当に徹なのだろうかと疑ってしまう。だって、暴言吐かれてないし…仲直り…は、したけど…なんだか、凄い自分の中で違和感を感じてしまう。


「あ、あの…徹」
「ん?」
「…えと…ごめん、メールとか、電話無視して…」
「いいよ。うん、いいんだ。というかメール読まずに全部消して」

あ、ごめん。言われる前に未読メール一括削除しちゃった。数件読んで…うん、全部こんな内容なのかなって。暴言のオンパレードだった。…やっぱり、ああいうの見ると違和感満点だ。仲直りして、こうも人が変わるのか。

「なんか、あかり明るくなったね」
「え?」
「むかつくけど、あいつらのおかげなのかな」

ほーんと、ムカつくけどね!なんて徹が笑った。…私が、明るくなった?首を傾げる。私は、殆ど何も変わってないと思う。なにも。

「無自覚?前より全然ハキハキしてるし、俺の目を見ても、逸らさないし」

じぃっと、目を見つめられる。…数秒して目を離してしまった。「ははは、あかり照れてる」なんて言葉に顔を下に向ける。…むぅ、徹のキャラが違い過ぎてついて行けない。そのまま歩いていると、見覚えのある車と人。


「お父さん」
「……」
「…?」
「………あかりー!!!」

むぎぃあ、と変な声が出る。徹と繋がれていた手は離れ、その代わり視界にはお父さん。ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。「ひさしぶりあかりー!!」と鼻声で叫ぶお父さんを、徹が鼻で笑った。

「父さん、恥ずかしいから早く車乗ってよ」
「手を繋いで歩く徹には言われたくないな」
「兄妹手を繋ぐの、普通でしょ?」
「高校生にもなって手は繋がないし、それを言うなら父と久しぶりに会う愛娘が抱き合うのも普通だ!」
「おっさんが女の子抱きしめてる姿とか、通報物だよね」
「実の父をおっさん呼ばわりするな!」
「あかり、もうおっさんほっといて車乗ろう。勿論俺と後ろね」
「あかりはお父さんの隣で助手席!徹は一人で後ろだ!」

2人がこうやって言い合いをするのを初めてみた。お父さんのテンションは、まあいつもの事だけれど。私を置いて、2人はヒートアップする。夜と言えども、まだ人通りはある。じろじろと2人を見る通行人、たまにくすくすと笑い声が聞こえる。…なんと、居づらい事か。「ねぇ」と私が声を掛けると「なに?」と2人の声が重なった。

「うるさいから早く帰ろ」






「…」
「……」
「…納得いかない」
「それは父さんの台詞だぞ徹」

運転は勿論お父さんで、助手席には不機嫌そうな徹。私は後ろの座席に座り、スマホを弄る。あ、夜久先輩からライン来てる…リエーフ君からも。ちなみにこの期間中黒尾先輩はブロックしました。東京帰るまでさらばです黒尾先輩。
ちらり、車からの景色を見る。まだ半年すら経っていないというのに、酷く懐かしい気がした。あ、白鳥沢。若さん元気かな…明日、あの公園に居たらロードワークしている若さんに会えるだろうか。ぽけーっと見ていると、お父さんが「あ、そういえば!」と楽しそうな声をあげた。

「あかりー!今日はケーキ買って来てるぞー!」
「………え…」
「うっわ…父さんあかりの好きなものと嫌いなもの知らないの?」
「えっ」
「あかり、ぬれせんべい食べる?」
「た、たべる…!」
「あ、それ家に合ったやつ?父さん食べちゃった」
「父さんちょっと土日の間家に帰ってこないで」

…どうやらぬれせんべいは無いようだ。残念。べつに…好きだけどどうしても食べたいとかじゃないし…いいもん…。ところで、徹はなんで私の好きなものを知っているのだろう。当然、言ったことはないのに。首を傾げながら、喧嘩をし始める2人の声をBGMに、ぼーっと窓からの景色を見ていた。



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徹の実の父親です。徹は父親似です。
つまり、そういうことです。


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