きっと明日は、晴れるでしょう。
息を切らせながら私は新幹線の椅子に腰かけた。バッグに入れたペットボトルを取り出し一口、そして息を吐いた。電車が動き始める頃、そういえば徹に返信しなきゃと思いだしスマホを取りだした。
「ええっと…今、電車に乗りました。っと…仙台に着くのは…2時間後ぐらいで…」
家着くのどれくらいだろう。そういえば在来線の時間とか全然チェックしてなかった。調べなきゃなぁ…なんて思っていたらスマホが震えた。
【了解、仙台まで迎え行くから】
え、仙台駅まで来るの?それに、この時間に即返信…徹部活はどうしたのだろうか。「いい、最寄駅まで迎えに来てくれれば」なんて返す。そもそも、迎えなんて来なくても…というかなんでわざわざ迎えに来てくれるのだろうか。
【父さんが車出して仙台まで行くから】
お父さんも来るの、わざわざ車まで出して。…車なら、いっか。【わかった、仙台駅で待ってる】と返信し、一度スマホから目を離した。2時間後には宮城かぁ…目を閉じる。うん、大丈夫。ちゃんと、言える。
「…やっぱり、ちょっとこわいなぁ」
うとうと、緩やかな睡魔が襲う。ちょっと寝よう。
私の意識はまどろむ。
▽△▽「…ん、…な…ぁ?」
ぽけーっと外を見る。東京に比べて随分と明りが少ない。どこだここ。時計を見ると、あと少しで仙台駅に着くくらいの時間。腕を伸ばすとぽきぽき身体の骨が鳴った。…変に寝ると更に眠くなる。車内アナウンスが目的地を告げる。スマホを開くと【改札の前に居るから】とメッセージ。なんか、凄く不思議な気分だ。完全に電車が停止したところで、私は立ち上がった。
「大丈夫、だいじょうぶ」
改札へ向かう。近付くにつれて、なんだか心臓が痛かった。スマホが震える。今日は働き者なスマホの画面を見る。またも徹かと思いきや、表示されていたのは夜久先輩の名前。しかもメールやラインではなく通話。端の方へ避けて、慌てて電話に出る。
「もし、もし?夜久先輩?」
『ん、あかりお疲れ。今電車?』
「丁度降りて改札向かう途中です」
『そっか、電車じゃ電話出来ないもんな』
「どうしました?」
『いや…余計な事言うつもりは無かったんだけど。あかりなら大丈夫だろう、って思ったんだけど黒尾が電話しろ五月蠅くて』
「?え、と」
『難しい事考えずにさ、久しぶりに家族に会うくらいの気持ちで行けばいいと思うよ。あれ話さなきゃとか、これ話さなきゃとか考えずにさ』
「…結構、それが難しいんですよ」
『ははは、まぁ、あれだよ。一言、当たり前の言葉を言ってやればいい。多分効果絶大だから』
ぎゅ、っと手を握り締める。ひとこと、言えばいい。家に帰るように、一言。…昔の私は、それを言うのが嫌でいつも無言で家に帰っていたなぁ。
「夜久先輩」
『ん?』
「私、東京戻ったら言いますから、ちゃんと返してくださいね」
『おう、勿論』
「――行ってきます」
いってらっしゃい、優しい声が聞こえた。
画面をタッチする。行ってきます、だってまともに言ったことなかったのに。なんて私は笑った。
改札を抜ける。先には、久しぶりに見る徹の姿。なんだか、すこし不機嫌そうに見える。でも、気にしない。私は駆け寄る。
「あかり、遅――え」
徹の服を掴む。両手でぎゅっと、握り締める。「え、ちょ…なに?どうしたのさあかり」なんて、少し焦ったような声が頭の上で聞こえた。
顔をあげる。徹の顔、まともに見るのなんてどれくらい振りだろうか。さっきの不機嫌な顔とは打って変わって、なんだか変な顔になっている。少しだけ、笑った。
「とおる、えっと…ただいま」
きょとん、とした顔。なんだか、顔が熱くなる。力を込めていた手をゆるゆると離そうとすると、頭に手が乗っかった。
「おかえり、あかり」
今まで聞いたことのない様な優しい声で、なんだか泣きそうになった。
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いっていきます・いってらっしゃい
ただいま・おかえり
この一言って大切ですよね
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