<夜久衛輔の話>



「へぇ、そっか。夜久ちゃんがそっかそっか、へぇー」

鷲掴みされた頭が痛い。ミシッと音がしたのは気のせいじゃない。目を、合わせないようにする。目を合わせたら殺されるマジで。というか夜久ちゃんって何だ。


「夜久ちゃん、あの馬鹿妹のどこが良いの?根暗でいつもおどおどして、可愛げなくて、居ただけで空気が悪くなるような奴」
「クズ川ー思ってる事と間逆のこと言うんじゃねーよ」
「はぁ?心の底から本音だし」

だいぶめんどくせぇ性格…。取り敢えず掴まれた手を思い切り払いのける。及川兄の発言にちょっとイラッとした。拗らせているのは知っているけど如何せん、堪えがたいものがある。なんであかりは及川兄を嫌わないのか不思議でしょうがないくらいだ。はぁ、と溜息を吐き及川兄を見る。何故か及川兄がたじろいだ。

「あいつ、あかりはどれだけ暴言吐かれても及川兄の事を嫌ってないし、確かにおどおどした性格だけど、それを治そうとこっちで頑張ってる。最近友達も増えて楽しそうにしてる。部活だって、入部してからそんなに日は経ってないけど、一生懸命なのは伝わってくる」

最近(主に黒尾に)きっつい事言う様にもなったし。人付合いだって慣れてきた。そこまで及川兄に暴言を吐かれる謂われは無い。体育館に居る全員が、俺らに注目する。
俺の言葉に、及川兄の顔が歪んだ。目が、揺れたのがわかった。気にするもんか。俺は続ける。


「及川兄が『そういう性格』っていうの分かってるけど、可愛い後輩の暴言って聞いてて良く思わない。あんまり、あかりを悲しませるような事言わないでくれるか?」
「…うるさい」


俺はあかりから、その言葉を一度も聞いたことが無かった。「兄に嫌われている」とはしょっちゅう言っていたが、あかりからあいつの事を嫌う言葉は一度だって聞いたことが無い。悲しむか、落ち込むかのどっちかだ。


「お前さ、あかりに一度でも「嫌い」って言われた事あるか?」

「――うるさいよ!」

及川兄が声を荒げた。数名が、目を丸くする。荒い息をする。目を伏せ、うわ言のようにうるさいうるさい、と言う。ギッと俺をひと睨みして、及川兄は体育館からふらふらと出ていった。

「…あいつには良い薬だな」
「お前んとこの主将使い物にならなくなったら悪い」
「粗大ごみの日に捨ててくるから気にすんな」

ま、ちょっとくらいフォローしてくるわ。あいつ妹の事になるとほんとに浮き沈み激しいから。そう言って岩泉が及川兄を追いかけ体育館を出ていった。はぁー、重い息を吐く。

「夜久、徹の傷抉ったな」
「…やっぱあかりへの暴言聞いてたら言い返したくなって」

ははは、徹ざまぁ!と黒尾が笑った。青城数名も「それな」と笑う。奴の味方は岩泉だけなのか。岩泉ですら味方か怪しいけど。「あーあ、つっかれたー!もう片付けて帰ろうぜ」と立ち上がる。ほんとに疲れた。ポキポキと骨が鳴った。
つんつん、とジャージの端を引っ張られた。

「どうした孤爪」
「…夜久さん、あかりへの気持ち言わずにあやふやにした」
「ばれたか」
「お兄さん、立ち直ったら絡んでくるよ絶対」
「…心しておく」

ところで、そこに倒れてるやつ未だにピクリとも動かないけど大丈夫か?



----------------
及川兄の傷を抉る回
倒れてる奴=国見君
折角練習試合おさぼりできたのに、エンドレスゲームで駆り出されグロッキー。生きろ国見。


<< | >>
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -