<夜久衛輔の話>



「どうしてこうなった」

ぐぉおおお!と苦しそうな奇声を上げる黒尾、黒尾にヘッドロックをかます及川兄。それを白い目で見つめる俺と青城エース岩泉。その他大勢。泊まりが青城の近くだったため「じゃあ遅くまで練習しない?勿論賭け事をして」という及川兄に「いいぜ、覚悟しろ」と答えたのは黒尾だった。お前ら、練習試合で賭け事すんなよ。と俺と岩泉の声が重なった瞬間だった。


「夜久ちゃーん。なに遠くから様子を窺ってるのかな?」
「は、いや…」
「あかりに手ェ出したらゆるさないから」
「クズ川の言う事はすべて無視しろ夜久」

はははは…最早笑いしか出てこない。多分俺の目は死んでいるだろう。俺にまで絡んでくる原因を作ったのは、間違いなく黒尾のせい…かと思いきや、まさかの孤爪のせいである。まぁ、及川兄を嗾けたのは俺ではあるんだけど。事の発端は30分ほど前に遡る。





「勝ったー!岩ちゃんナイス!流石岩ちゃん!!岩ちゃんかっこいい!及川さんの次に!」
「…死ね…よ、クズ川…」

何セット目だかもうわからない。どっちも体力は限界な筈なのに、それでも及川兄は全力だった。他全員、息も絶え絶えである。
そこに倒れてる孤爪を見ろ、もう死んでるぞ。あっちの真ん中分けの奴も倒れたまんま動かねーし。大丈夫かあれ。というか部員全員死屍累々。俺も立ち上がるの辛い。「さーて!」視点が合わない及川兄が黒尾を指さす。いや、指してるんだろうけど…指の先には誰も居ないぞ。大丈夫か及川兄。

「じゃあ俺のしっつもーん!あかりの事好きって奴、だれ?」

びくり、肩が揺れたのは俺…と…山本?がばっと山本が立ちあがり真っ直ぐ及川兄を見る。ぎらり、睨みあう。なんだこれ。

「え?もしかして君?」
「…好き…とかではない!念願の女子マネ!大人しくて可愛い女子マネ!口数は少ないしあんまり笑わないけど気は利くし、ごーーくたまに見せる笑顔はとても眩しい!俺のモヒカンを見ても物怖じせず真っ直ぐ俺の目を見てくれるあかりさん!これは最早女神!!」

山本何言ってんだー落ち着け―。倒れたままの黒尾が言う。物怖じせずに真っ直ぐ俺の目を見る…ってお前が目を逸らすよな殆ど。「なんか山本先輩に嫌われてるような気がする」なんてぼやいていたあかりを思い出した。

「あかりにちょっかい出したらぶっ飛ばす」
「俺にそんな勇気はない!!」

お前、それ言いきるなよ。男としてどうなのソレ?と誰かがぼやいた。山本はそう言う奴なんだ。どうあがいても多分その性格は治らない。

「…手を出す気は、ない…と」
「寧ろ手を出す輩からあかりさんを守る!」

お前なんで後輩にさん付け?なんてぼけーっと眺めていたら山本と及川兄がガシッと握手をした。…なんだあれ。暑苦しい。

「及川さんの中で良い奴と認定してあげよう」
「あっざーす!お兄さん!!」
「お兄さんっていうなぶっ飛ばすぞ」

及川兄は何処まで行っても及川兄らしい。「じゃああかりの事好きなのだれー?」と倒れ込む黒尾に馬乗りになり胸ぐらを掴みぐらぐらと揺らす。チンピラの喧嘩かリンチに見える。「やめろ徹…なんか出る…内臓的なのが…うぐ…っ」宙を泳ぐ腕、なんとなくこちらに手が向いているような気がするけど見えない見えない。「夜久…たすけ…」なんか聞こえるけど気にしない気にしない。練習試合で賭け事なんか始めたお前らが悪いんだ。

少し体力が回復して、ドリンクを取りに立ち上がる…と、倒れこむ孤爪に足を掴まれる。うつ伏せ状態で顔は見えない。


「…大丈夫か孤爪、ドリンク飲むか?」
「…飲み物ですら吐きそう…でも喉乾いた…」
「ドリンク持ってきてやるから取り敢えず仰向けになれ」
「……しぬ…」

生きろ孤爪。本格的にヤバそうな孤爪に持ってきたドリンクを飲ませる。一息。「…夜久さん」いつもより更に覇気のない孤爪に「どうした」と返す。


「このままだと、全員死ぬ」
「お、おお…そこまで深刻か…」
「うん、だからごめん」
「なにがだ?」
「…ごめん。あかりのお兄さーん」

…ん?孤爪が及川兄を手招きする。「なになにーネコのセッター君」と近づく。あ(察し)

「あかりのことすきなの、夜久さん」

まさか孤爪が裏切るとは思ってなかった。呆然とする俺と「へぇー?そうなんだ、へぇー」と俺の頭を鷲掴みにする及川兄。あ、しぬ。



-------------------
長くなるので分けます


<< | >>
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -