<及川徹の話>


「マジで悔しい。ウシワカに負けるより悔しい」

練習試合の結果は2-1で青城の負け。あっちの方が一枚上手だった。あっちのプリン頭のセッター君、観察力高過ぎ。1セット目はこっちが圧勝して2セット目はギリギリ負けて、3セット目であっちが完全にピースがはまった様に穴が無くなった。平凡そうにしててクソ上手い。どこに打っても完璧に上げてくるし、あのリベロも上手かった。あと黒尾うざかった。

「うああああああマジで悔しい！」
「うるせぇよ及川…」
「よく叫ぶ余力あるな…もう喋る気力もないんだけど」

こんなことなら国見ちゃん今回のメンバーに入れておけばよかった！なんてちらり国見ちゃんを見ると目が合って無表情ダブルピースされた。…随分と涼しそうな顔で…。完全サボり国見ちゃんめ、次何かあったらがっつり働いてもらうんだからね…。
あー…と体育館の壁に全員で寄っ掛っていると赤いジャージが近づいてくる。…赤が憎たらしい…！


「よぉ徹」
「…黒尾顔面ウザい」

お前にだけは言われたくないだろう、と岩ちゃんが言うと全員が笑った。なんで、こんなイケメンの顔がウザいわけないでしょ！ねっ！と言うと今度は全員から蹴られたなにこれ理不尽。

「つーわけで俺らの勝利ってことで」
「…あかりはくれてやんないよ」
「お前ほんと残念なイケメンだな」

ふーんだ！と俺はバッグの中を漁る。あったあった。四角い箱を掴み黒尾に投げ飛ばした。おい、お前…という岩ちゃんの声は聞こえないふり。

「なんだこれ？」
「あかりに渡しといて！ただのゴミ！」
「…あー、あれかあかりちゃんへの入学祝の」
「た だ の ゴ ミ ！」

あー！ゴミが無くなって清々した！と叫ぶと顔面に箱が飛んできた。ぽとり、俺の手に落ちる。言わずもがなさっき黒尾に投げた箱だった。

「ちょっと」
「お前それは自分で渡せよ。ちゃんとおめでとう、って言ってな」
「はぁ？やだよ。ていうか今更じゃん入学おめでとう、だなんて」
「俺らが勝ったらなにしてもらうか決めてなかったよな」
「むかつく！！」
「ははは、せっかくあかりちゃんとの仲を取り持ってやろうって思ってんだからよぉ」
「余計な御世話だし！別にあかりと仲良くしなくても」

お前さーもっと素直になれよー
そーだぞ及川ー
あかり泣かせんなクソ川
と外野が騒ぎたてる。…俺だって、俺だって…

「あとさ、うちのセッターが徹に聞きたい事あるみたいなんだけどよ」

うん？とプリン頭のセッター君に目を向ける。おどおどと俺と目を合わせるのを避けるそれは、あかりと重なる。

「うちのセッター孤爪研磨。ほれ、研磨…」
「………え、と…孤爪研磨……です」
「えーっと、可愛くないあかりの兄…痛っ！ちょっと岩ちゃん殴らないでよ！」
「そういうところから正して行こうと思って」
「…あかりの兄の及川徹、で？何が聞きたいのかな研磨君？」

ビクリ、と身体が揺れる。ほんと、あかり相手にしてるみたいだ。「えっと、あの、その…」なかなか言わないセッター君にイラッとする。

「あかりと…及川さん、って本当に兄妹…？」
「は？」

おっと、想像以上に低い声が出てしまった。あの岩ちゃんですら俺の声に固まってしまった。てへぺろ！俺は笑顔で答える。

「そりゃあこーんなイケメン及川さんとダメダメで可愛毛の欠片もないあかりが兄妹かーなんて聞かれたら違うでしょー！って思う人沢山いると思うけど！及川さん超人気イケメンだし！」
「あ、もういいですアリガトウゴザイマシタ」
「ぶはっ！研磨にドン引きされやんの！」

大笑いする黒尾。なんなんだよ、まったく。しかし変な事を聞くなぁ。なんでわざわざ兄妹？なんて聞いてくるんだ。同じ名字なんだから当たり前じゃないか。


違和感なんて何もない。


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