「クロが来るから、あかりは早く帰りな。きっと絡まれるから」そう言う研磨さんに背中を押され、私は店を後にした。まだスーパーが開くには早すぎる時間だ。他に時間を潰す場所もないし、一度部屋に戻ろう。とぼとぼと歩いていると、前方に赤い、ジャージ。

「夜久先輩」
「っ、と。あかり」
「おはよう、ございます」
「おぅ、おはよ」

寝不足、大丈夫か?という言葉に私は頷いた。「部屋戻って、9時間くらい寝ました」と言う「寝すぎだろ」と笑われた。私もそう思います。

「随分と早くから外に居るな」
「お腹空いたので、朝マックしてました。研磨さんと一緒に」
「…へー」
「あの人、女子力高いですね。パンケーキとアップルパイ食べてました」
「それを飯として認めるわけにはいかないぞ孤爪」
「私はハンバーガーとポテトとコーラ、あとナゲット食べました」
「孤爪とあかり食べるもん逆だろ」
「私、甘いもの苦手です」
「そーだったな」

つーか孤爪朝早いな、朝弱いのに。そうぼやく夜久先輩に「Wi-Fi繋げてゲームしたかったらしいです」というと凄く納得された。

「あかりはこれからどうすんの?」
「…え、と…食糧がないのでスーパー開く時間にもう一回外出て食料調達してきます」
「おやつに?」
「ぬれせんべい」
「ははは。なんか煎餅とか、微妙に高いよな」
「です。ぬれせんべい好きですけどそんなにしょっちゅう食べたいわけじゃないのでお財布にはそんなに痛くないです」
「あ、最近たいやき屋が出来たんだよ。駅前」
「クリーム、だめです」
「ハムたいやきとかあった。タコたいやきとか」
「タコなんですか鯛なんですか」
「たいやきだろ」
「たいやきですか」

たいやきがゲシュタルト崩壊です。ちょっと食べてみたい…。「今度行くか?」と言う言葉に思い切り頷いた。




部室棟前、既にジャージだから部室には来なくていいんじゃ…?なんて思ってたら「いや、荷物置かなきゃだし」と言われて納得。私に付き合わせてしまったかと思った。…そう言えば、昨日ここで言えなかった事…。今なら、言える気がする。なんて思っていたら夜久先輩が口を開いた。

「昨日さ、悪かったな」
「……なにが、ですか?」
「あー…と、顔触ったり」
「そこまで酷かったですか、隈」
「まぁ、そこそこ」
「御心配をおかけしまして」
「いや、それは良いんだけど…黒尾がなんか変な事言ってさ…」
「え、キスとかなんとかのあれです?」
「気に、するなよ?」

気にするも何も、ねぇ…。私は、グイッと夜久先輩の胸元を掴んで自分に近付けた。「え」と声を漏らす夜久先輩。約10cmの距離。

「これくらい近づかないと、キスしてるように見えないですよね」
「は」

手を離すと、夜久先輩の顔は離れて行った。虚を衝かれた顔。少しだけ、私は笑ってしまった。

「お、ま」
「ごめんなさい、ほんの出来心です」
「……、すげーナチュラルにやったけど。なに、したことあるの」

すこし、悩む。口元に指を近づけ「さぁ、どうでしょう」と言うと「え、は?」と夜久先輩は面白い反応を見せた。…どっかの誰かさんとは、大違いだ。



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どっかの誰かさん、とは(次回発表)


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