<夜久衛輔の話>


ガコン、とドアらしからぬ音を立てたが無視だ。爆笑する黒尾を仁王立ちで睨みつける。爆笑の黒尾の手にはスマホ。おい、何するつもりだったお前。笑い過ぎたのか、目元が濡れている。「いやー最近面白い事あり過ぎて笑い死ぬわ」と腹を抱えて未だに笑う黒尾。そのまま死んでしまえこの野郎。

「このすやすや寝ているあかりちゃんの写真を徹に送りつけようと思っていたら、まさかのスキャンダルが転がって」
「ねーよ!勘違いすんな!」
「でもあかりちゃんの顔触ってたよな?割と近づいてたよな?」

にやにやする黒尾を思いっ切り蹴ってやった。ムカつく、そのにやにや顔止めろ!つーかなんでお前部活行ってねーんだよ!主将なんだからさっさと行けよ!

「つーか顔マジで赤いぞ」
「…るせーよ」
「やべぇ超ウケる」
「やべー超ムカつく」

あー…もう、マジむかつくお前…。俺は床に座り込んだ。情けない息だけが漏れる。不意打ちだ、いやあかりは何もしてないけど、俺が勝手に自爆しただけで。ほんと、無意識だったんだよ。ああああ!と頭を掻き毟った。

「夜久がそうなるってかなりレアだよな。どうしたよ?」
「自覚すると恐ろしい」
「もっとわかりやすく」

だから、あーもー。
ずっと寝てた割にはまだ目の下に隈があって、若干顔色悪そうに見えたしちょっと、ほんと無意識であかりの顔に触って、そしたらなんかすごい柔らかいし…なんか、こう

「だぁああああ!」
「おーい、夜久戻ってこーい」
「…あー、もう部活行くぞ」
「エー、俺お前の心の内超聞きたい」
「うるせえ」


その日の部活はひたすら黒尾がにやにやしてた。




▽△▽


部活が終わって着替えていると、黒尾に肩を組まれた。「この後ファミレスでも行こうか?なぁ?」とにやにやする黒尾に、俺は諦めて「1食おごりな」というと「まぁ背に腹は代えられないな」なんて言った。どんだけ知りたいんだよコイツ。俺らも行きたいです!と山本が名乗り出たが「悪い、今日は作戦会議なんだ」と黒尾が断った。作戦会議って何だよ。

「あ、研磨」
「いかない」
「…あ、そう」
「あんまり、引っかきまわすのやめなよ。…俺が言えた義理じゃないけど」
「?どういうことだ」
「あの子の寝不足…俺のせいかも、って話」

は?と孤爪を止める前に孤爪は部室を出て行ってしまった。黒尾と顔を見合わせると黒尾は首を傾げた。「まぁ、いっか…ほれ、夜久行くぞ」と引き摺られるように部室を出た。





「で、何がどうした?」
「無意識で手が伸びた。で、なんか自覚した」
「ほぉー」
「その顔止めろ」

はいはい、あ、おねーさーん!注文いいっすかー。と適当に注文する。ま、奢りだから遠慮するな。と笑う黒尾に容赦なく注文を叩きつけた。引き攣った笑みを浮かべたが無視だ。注文を終えると、俺はぽつりぽつりと言葉を吐きだした。

「なーんかさ、あいつ俺に言いかけたんだよ。それは俺に対してって話じゃないと思うんだけど。多分何か決めた感じで。でも、言いづらそうでさ。言うまで待ってようかと思ったんだけど、あまりにも言いづらそうにするから。顔見てたら、隈まだ酷かったし。で、手を伸ばして、触ったら目を細めるし柔らかいし」
「変態くさい」
「お前に言われたくない。で、自覚するとなんか」
「可愛かったあかりちゃんがもっと可愛く見えた!と」
「お前きもい」
「なんで俺が暴言吐かれるの?」

自分の胸に聞いてみろ、と言うと胸に手を当てて「俺は友達と後輩思いの良い奴って、俺の胸が言ってる」なんて言った。今この場所にボールが有ったらそのにやにやとした面に叩きつけてるところだ。

「リエーフと言う親友鉄壁とシスコン鉄壁徹がいるから、まぁ頑張れ」
「は?そういうんじゃ」

だれも、恋心だなん、て………?




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ここまで来て漸く本当の意味で自覚する
ただの可愛い後輩→あかりを後輩としてではなく女子として自覚(前回)→恋心…?(今ココ)


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