まだ、口には出さないの?


担任の先生にだいぶ心配されてしまい「両親に連絡入れる?」とまで言われてしまったので慌てて首を振った。ただの寝不足なのに迷惑はかけられない。取りあえず、今日はもう帰りなさい、と言われた。…帰りなさいも何も、もう放課後だけれど。職員室を出る時、保健の先生と目が合い親指立ててウインクされた。お辞儀をして、逃げるように職員室を出た。苦手人間の一人に認定してしまった保健の先生。だって、あの人すごいグイグイくる。しかも何故か「バレー部で好きな人が居る及川さん」と認定された。なんで、私殆ど喋ってないのに、一方的に喋られただけなのに。そういえば、早口過ぎて変なところで頷いてしまった…ような気が、する。…今更否定したところで、意味無いんだろうな…。あの人については諦めよう。今後あまり近づかないようにしよう。

とぼとぼ歩いていると、部室棟の前でジャージ姿の夜久先輩に会った。私を見た瞬間、なにやら複雑そうな顔をした。…?不思議に思っていると「いいや、うん。なんでもない」と言われる。なんだろうか。「それより、あかりは大丈夫か?」という言葉にこくん、と頷いた。


「大丈夫、です。…何があったのか全く憶えてないんですけど」
「リエーフが言ってたけど、足段差に引っ掛けてそのまま壁に激突だって。そのまま動かなくて…リエーフが「あかりが死んだー!?」って騒ぎたてて」

なんだろうか、その状況が容易に想像出来てしまう。しかしリエーフ君にもクラスの友達にも悪い事をしてしまった。寝不足で足元ふらついて、そして壁に激突。意識失う。迷惑極まりない…私。

「そのあと何故かあかりを担いで3年の教室に来て「先輩!あかりが死んだ!」って来てさ…思わず殴ったね。保健室連れてけよ」
「…御迷惑を、お掛けしました」
「いやいや。すやすや寝息たててるあかり見て黒尾大爆笑してたから後で蹴ってやれ。…寝顔まで撮られてるんだからもう思いっ切り行っていいぞ」
「徹底無視を遂行します」
「一番嫌なやつ行くな…」

「え、と…夜久先輩…」
「ん?」
「……あの…」

昨日…というか夜通し悩んで、それで出した答えは結局最初から自分の中で決まっていた答えで…その答えを口に出そうとしたけれど、いざ口を開くとぐちゃぐちゃになってしまう。結局何も言えない私に、夜久先輩は腕を、伸ばし…?

「お前まだ隈あるぞー、早く帰って寝…」

私の目元を指なぞる夜久先輩の動きが止まった。夜久先輩の指、少し冷たいなぁ。なんて考えていたら上の方からガチャッと、ドアの開く音。「夜久ー、俺のサポーター知らねー?」なんて、2階から黒尾先輩が顔を覗かせた。上から私たちを見下ろす黒尾先輩の動きも、止まる。

「エ、なに君達キスでもするところだった?ゴメン邪魔して。続きドウゾ。あ、スマホ取ってくるからちょっと待って」
「黒尾それ以上言ったら殺す」
「……さーて、サポーター探すかなぁー」

今まで聞いた事のないドスの効いた低い声に私の身体も停止した。いつの間にか、私の顔に触れていた指先は離れていた。

「あー…えっと、うん。あかりは早く帰って寝ろ。わかったな?」
「……、う、ぐっ…はい」

何故か頭を掴まれる、ぐぐぐぐ、と込められる力が地味に痛い。夜久先輩の顔が見えない。取りあえず返事をすると手は離れ、すぐに背を向けられた。

「…俺、部活行くわ」
「はい、頑張ってください」
「…おー」

そういうと、夜久先輩は何故か部室棟の階段を駆け上って行った。あれ、部活は…。凄い勢いで走り去り、バレー部の部室であろうドアをこれまたすごい勢いで開ける音がした。…ドア、壊れてない…かな。
「黒尾てめぇえええええ!」という怒号と「夜久お前顔超赤いぞ!」と黒尾先輩の大爆笑が、割と静かな部室棟前に響いた。
掴まれた頭を撫でる、痛かった。割と地味に痛かった。擦りながら「よくわからないなぁ」なんて呟いて私は寮への道を歩き出した。別にキスするような体制では、なかったよね。うん。黒尾先輩も夜久先輩も変なの。




---------------------------
そういった類のものでは照れない主人公(自分へ対しての好意に鈍感、とも言う)。逆に夜久君は体性なし。ぽろっと手が出て「あ」と気付いて赤くなる。


<< | >>
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -