少しだけお別れ



広がる静寂がひどく心地好い時間に感じる。
お互い体温を持たない身体に熱を注ぐように抱き合って。手を繋いで、抱きしめて、抱きしめられて、たまに唇を重ねて笑い合う。静かな静寂だけが僕らを包んでいた。

伝わる熱に冷え切っていた身体が温められて、満たされるような感覚。いや、感覚だけじゃなくて、本当に満たされるんだ。心も体も。
まるで本当に生きているみたいに、今にも鼓動が動き出すんじゃないかと思ってくすりと小さく笑った。

「ラブ?」
「ううん、温かいなと思って」

ふたりの声と小さな微笑の音色に、続いていた静寂が少しだけ崩壊。
ベッドの向かいにある窓からは、淡い月明かりが僕らを微かに照らし出しては優しく揺れている。
今夜は星が綺麗なんだろうなと場違いな思考を途中で打ち切り、抱きしめてくれる温もりに答えるように回していた腕を強く絡ませた。
その行為に再び強くなるかと思っていたカストルの腕は、するりと動いて僕の髪を優しく撫でる。そんな行為がくすぐったくてまた笑った。

「眠れませんか?」
「違うよ。まだ、眠りたくないんだ」

聖職者である自分達が、こんなふうに愛を確かめ合う時間がいつもあるわけじゃないから。
今この時をいつまでも。この温かさと静寂に包まれたまま。この時間を切り取って、記憶のアルバムに永遠に貼っておけたらいいのに。
蓋を開けたら綺麗な旋律を奏でるオルゴールのように僕の心にだけ閉じ込めて、鍵をかけておく。そして開けた時には旋律と共に温かい思い出を。

僕はカストルの瞳をゆるりと捕らえる。カストルは少し驚いたけど、すぐに優しく笑って「私もです」と囁いてくれた。
同時に唇に落ちてくる温かくて湿った感覚に無防備な僕はされるがままで、それでもその行為に答える。深く深く、暑い吐息と粘液の絡まるイヤらしい音に静寂がまた、崩壊。

「ですが、そろそろ眠らないといけませんよ」

ゆっくりと離れた温もりに生まれる名残惜しさを押し殺して。
優しく奏でられた言葉に肯定の意を示す。

「そうだね、」

絡ませた指先からは確かな熱が伝わって、触れ合った身体は奥の方からはじわじわと心地好い温もりが生まれている。眠くないと、眠りたくないと強がる意識も、そろそろその温もりにさらわれてしまうだろう。
一層深みを増す夜の闇、幸せな時を奪う闇、星だけがひっそりと輝く。それでも、また光りが射せば『おはよう』と言える朝が来るのだから。
その時を楽しみに。

「明日もまた会えるしね」
「ええ、朝一番に」

ぎゅっと抱きしめれば変わらず返してくれる温かい腕。広がる静寂。伝わる温もり。優しく揺らぐ月明かり。そのすべてに包まれて。
明日『おはよう』と言うために、僕は闇という一時のお別れに意識を引き渡そう。


「おやすみなさい、ラブ」
「うん、おやすみ」


同時にキスをして、瞳を閉じる。静寂が生まれる。
広がる闇でも一緒にいれるように手を繋いで絡ませて、そして今日にさようなら。

おやすみ、(夢でもなんて贅沢は言わないから)
明日また、会いましょう。










20091126





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