弾む水色



一枚の花びらが落ちた。ひらひらと優雅に宙を舞って、静かに落ちる。その花びらに今、人工的に降り掛けている水色が落ちて、軽やかに弾んだ。
(雨が降る、)
直感的にそう思った。そう思ったということは、それはすでに決まったという事。
(もうすぐ雨が降るのなら水はあげなくてもいいね)
くすりと笑って、僕は水をあげていた手を止めた。

「もう終わったのですか?」

かさりと草木の鳴る音がして、カストルが少し遠慮がちに声をかけてきた。
草木に触れた振動で先程降らせた水色が跳ねて、また弾む。

「うん、もう必要ないんだ」

柔らかく笑って必要最低限の言葉だけで返すと、「どういう意味です?」と、少し首を傾げたカストルにくすりと笑う。
この時一体何個の水色が地面に弾んだことだろう。僕はそれを数える術までは持ち合わせていない。そんな事を考えている間にもしたしたと落ちては弾む水色。
そんな人工的な水色の、不規則で否律動的な音を確認して、確信して、そして予言と言える言葉を付け足した。

「もうすぐ、雨が降るから」
ぽたぽた、と新たに二滴の水色が落ちて弾んだ。まだまだ人工的な水玉だけど。
「ああ、そういう事ですか」
僕の言葉を全部信じてくれるカストルは、僕の言う先(未来)のことに「納得です」と言って笑ってくれた。本当に優しいんだから。

まだ綺麗なブルーの空を一緒になって仰ぐ。
こんな青空をみて雨が降るだなんて言っても信じてくれるのはカストルだけだよね、と微笑する。少しして、ああフラウもかな、と思い出してまた微笑。

「雨なんて久しぶりですね」
「うん、花達も喜んでる」
「私も嬉しいです」
「カストル、雨好きだったっけ?」

思いがけない言葉に驚きと、理由を問うた。そんな僕にくすりと笑い、僕の方を向き直る。僕も自然にカストルの方を見つめ直した。重なる視線に、ありもしない鼓動が跳ねる、そんな感覚。

「あなたを独り占めできますからね」

再びくすりと笑うカストルの声がやけに心に響いてくるんだ。
じわじわと熱くなる顔から生まれる動揺、喪失する平常。唯一ひとつだけ同じだったのは、一枚の花びらから落ちた水色が地面に落ちて弾んだこと。

「、いつも、一緒にいるじゃない…」
「雨の日は特別に、という意味ですよ」
「…言っていて恥ずかしくない?」
「いいえ、全く」

そしてお互いに笑う。そんな僕らの間を優しい風が駆け抜けた。
その風が運んでくるのは予言した雨の水色と、僕らだけの時間。
弾む、弾む、心の鼓動。

「あ、降ってきたね」

ふわりと一枚の花びらが舞った。風に乗りひらひら落ちる。その花びらに空から降ってきた水色が跳ねて、弾んだ。楽しそうに、リズムよく。
大地を(僕らを)優しく潤すんだ。









20091114





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -