グリーディーサマー





唇にあたたかい何かが触れた。軽く触れるだけで一度離れて、2度目は食むように唇を覆う感覚。熱を帯びたざらざらしたものが唇の形をなぞる様に動いて、無意識に固く結んだ唇を解くように攻められる。
浅い眠りでうつらうつらとしていた土岐は、ふと訪れたそれに意識を引き上げられた。息苦しさにうっすらと瞼を開けると、そこにはよく見知った人物の姿が。

「え、ちょ、な、なにしてん榊くん……!?」
「おっと」
思わず勢いよく身体を起こしてしまい、ぐにゃりと視界が揺らいでバランスを保てなくなった土岐の身体は、その人物によって受け止められた。
「ほら、すぐに動くから。熱を測ってただけだって」
「……嘘や。完全に襲っとったやないか……」
寝込みを襲っておいて、よくそんな口が聞けたものだ。それに接吻で体温を測る奴なんて聞いたことがない。強く咎めたくても未だ治まらない眩暈のせいでそれは叶わず、土岐は素直に榊に身体を預けて、うまく動かない頭を必死に動かした。

目が覚めたら榊がここにいて、見渡す限り、他は誰もいない。カーテンは閉められてはいるが、差し込む日差しからしてまだ昼間だろう。そもそもなんでこんな状況に。今日も朝から蒸すような暑さで、練習できる場所を探しに行くと先に出かけていった千秋と芹沢の元へと向かおうと外へ出て、それから。
それから、どうしたんやったっけ。確か途中で気分が悪くなって、無理しては駄目だと木陰を目指した。しかしその後、千秋の元にたどり着いた記憶はない。容赦なく照りつける太陽に朦朧とする意識の中、遠くから誰かの声が聞こえて――、

「土岐はもう少し自分を大切にするべきだと思うよ」
ああ、そうか。また、倒れたんやな。しかも榊の前で。
二度、三度、落ち着かせるように榊の掌が背中を上下する。ゆっくりと身体をベッドに横たえられながら、額に宛がわれた掌の熱を感じた。
肌に張り付いた髪を丁寧に掃う指先は男性とは思えない程繊細で、それでも肌を滑る指は皮膚の厚い、ざらざらとした感覚。心地よくて瞼を閉じてしまう。

「ただの熱中症で大げさやで」
「熱中症でも放っておくと命に係わるんだ。そのくらい知ってるだろう」
手際よく、枕元の氷を変えられた。相変わらず気持ち悪いくらいの手際のよさに抵抗する余地もなく、されるがまま、もうここまでくると観念するしかない。いつか仕返しに榊を介護してやろうと思っているが、これがなかなか、榊が寝込むことは滅多にないらしい。
「あんたが寝込んだら絶対介護したる」
「へえ、それは楽しみだね」
「はあ、もうええから、さっさと練習行ったらどうなん」
この大切な時期に、こんなところで油を売っていていい筈がないのだ。俺らを負かしてファイナルに進んだからには優勝せんと許さんからな。軽く睨みつけると、もちろんそのつもりだと榊は笑う。

「ああ、そうだ。下の冷蔵庫に和菓子を入れておいたから、元気になったら食べてくれると嬉しいな」
「なんや、明日は嵐やろか」
「はは、酷いな。誕生日プレゼントくらい素直に受け取りなよ」
「……え」
「昨日、誕生日だったんだろう?ひなちゃんに聞いた。勝手にごめん。でも、言わない土岐が悪い」
榊の長い指が土岐の髪をくるくると絡め取り、くん、と引っ張った。小さな呻き声をあげて顔をしかめると、楽しそうな榊の笑い声が耳に入ったものだからその手を力いっぱい抓ってやった。
「土岐、流石に痛い」
「お返しや」
「体調が戻ったみたいでなにより」
お互いに手を離して、榊の掌は再び土岐の額へと。いい加減しつこいと、その手を払いのけた。

「もうすぐ東金達がくる。それまで、俺に祝わせて欲しい」
「……ならもう一回、キスしたって。特別なやつな」






真夏の日差しに負けないくらい、情熱的なキスをちょうだい。






20120824



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