水面に蝶々<アゲハチョウ>




白いお湯に浮かぶ赤い薔薇をぼんやりと眺めていた。
向き合った状態でカストルの膝の上に跨がって、水面下でカストルの熱いものを受け入れてから数。
少しぬるいお湯はほてった身体には心地好く、まどろみに沈みそうになった意識をつなぎ止めたら熱いほどの熱で繋がったままの部分に自然に意識は集中する。

「…っ、」

意識すればするほど、じわじわと熱くなって疼きだす。
乳白色の入浴剤はお互いの胸から下辺りを隠しており、見えない分、敏感になった身体に思わずカストルの肩に触れていた手に力がこもった。

「…体勢がキツイですか?少し姿勢を変えましょうか」

ちゃぷん、と水面が揺れてカストルがラブラドールの身体を少し持ち上げた。

「ぁ…ひゃっ!…動かさないで、」

腰の辺りを持ち上げられて、繋がったままの部分が内側をぬるり擦ってびくりと身体が跳ねる。
研ぎ澄まされた感覚に身体を震わせていたら、カストルは言葉のとおり動きを止めてくれて思わず安堵の溜息がひとつ。

「…ですが、このままでも辛いでしょう?」

心配げにラブラドールの顔を覗いたカストルと一瞬目が合ったけれど、気恥ずかしさにすぐに逸らしてしまった。

「…いいの、もう少し…このままでいたい」

小さく呟いたら、カストルの肩に置いていた腕をぐっと奥へと伸ばした。
そしてカストルの首筋に抱きついて、ぎゅっと引き寄せる。
カストルはくすぐったさにかくすりと笑い、乳白色のお湯から出した手でラブラドールの髪の毛をさらりと撫でてくれた。
手の平から伝わった滴がラブラドールの髪の毛を伝い、水面には無数の波紋。

本当はカストルにもっと触って欲しい、もっと深くカストルに溺れたいと思う半面、このまま生温い快楽に浸っていたいとも思う。
気恥ずかしさに目も合わせられないほどに、このままでいたいと思っているんだ。
抱き着いたままカストルの首筋に寄り掛かるように頭を傾けると、すべてがカストルとひとつになったみたいでほっとする。
自身を取り巻くすべてのものがカストルに染まって、僕のこころはふわふわと浮上。
例えるなら、まるで蝶にでもなった気分だとラブラドールは小さく笑った。

「少しは『不安』、消えたようですね」
「え…?」

不意に問われて、ラブラドールは思わずカストルの顔をみやる。

「何か不安なことがあったのでしょう?」

バラのように赤い瞳とばちりと合って、どきりとした。
逃げるように、また逸らしてしまおうと思って揺らいだ瞳は柔らかく名前を呼ばれて引き戻されて、今度は逆に、カストルの瞳に吸い寄せられて目が逸らせなくなる。まるで、真実をすべて吐きだすように、とでも言っているかのような視線だ。
確かに、不安があったのは事実。けれども、それさえも忘れさせてくれるようにカストルに抱かれて、今はそんなこと、どうでもいいように思えて「何でもない」と首を振った。
ごまかした、なんて思ってない。とおの昔から、彼はすべて知っているだろうから。

「今は幸せ。カストルに抱かれているからね」
「ふふ、可愛いことを、」
「んっ…」

カストルのくちびるが触れて、すぐさま侵入してきた舌を受け入れる。

「ぅんっ、ふ……んんっ!」

ざらりと温かいカストルの舌は、ラブラドールの舌を絡めとり歯列をなぞる。
呼吸をしようと少しくちびるを離すと、伸びた糸が口の端から垂れてそれを感じられる感覚がやけにいやらしいと思えた。
濃厚な口づけで水面が揺れて跳ねる滴も、まるで身体が汗ばんだような演出をかもし出して身体の奥の方から、あるいは繋がったままの部分がじわりと熱くなる。

「…っ、ラブ、あまり締め付けないで」
「はぁ…、っ……だって…!」

濃厚なキスに夢中になって、カストルをくわえ込んだ部分を締め付けてしまったらしい。

「…っ、カストルっ」

意識するとさらにカストルを締め付けてしまって、ラブラドールはカストルの名を呼んだ。
カストルは震えるラブラドールの額に優しく口づけを落とすと、ゆるりと両腕を水面下に沈める。

「ラブ、動かしますね…」
「え…っ、ひゃあ、あっ!」

さらりと、沈められたカストルの両腕がラブラドールの腰を撫で上げた。丁度くぼみの辺りを支えられたら身体ごと上下に揺さぶられて、思わず悲鳴にも似た声が零れた。

「か、カストルっ!」

動かされる度に水面がパシャンと音をたて、跳ねた乳白色の滴が二人の顔を濡らす。
同時に繋がった部分からは、動かされる度にカストルのものと一緒に入り込んでくるお湯がラブラドールの中を掻き乱していて、いつもと違う刺激に腰ががくんと震えた。

「ゃ、…あっ、お湯が入って……や、ぁあッ!」

カストルのものに誘われるように侵入するお湯は、水面下にもかかわらず、くちゃ、といやらしい音を激しくする。
まるで耳元で響いてるかのごとく大きな音と、うっすらと開けた瞳には近すぎるカストルの顔、その背後には乳白色に浮かぶバラ。
すべてが艶やかに脳裏に焼き付けられて、もう、耳元で響く音も水面が揺れて跳ねる音なのか、自身の中で粘液の擦れる音なのか区別出来ないほどに。

「は…、あぁ…っ、んぁ!」
「ラブ…」
「っんん、ふぁ…、」

求めあうような接吻も、ダイレクトに脳内に快楽を与えて刺激する。
ただでさえ、びくびく震える身体を抑えられなくてどうにかなりそうなのに、中を掻き乱すお湯がさらに意識を曇らせる。

「カス、トル…」
「どうしました、ラブ?」
「お湯の中では、やだ…っ」

目じりには、生理的に溢れでた涙が滲む。
ぼやける視界でカストルの赤を必死に捕らえた。

「そうですか…、では、こっちを弄るのはどうでしょう?」
「え…、あっ!ゃ……あぁ…ッ!」

水面下でラブラドール自身を探り当てたカストルの大きな手は、硬くなって震えるそれをゆっくりと上下に動かし始めた。

「そうゆう問題じゃ……ん、ぁッ…ああァ…!!」

先端を指先で弄られて、一気に電流が駆け抜けたように身体が跳ねた。
耐え切れず放った欲がお湯の乳白色と混ざり合い、溶ける。くたりとラブラドールはカストルの胸に寄り掛かかった。
仄かにあたたかい身体がやけに気持ちいいと感じながら。

「これならば、お湯は入ってこないでしょう?」
「もう、カストルの意地悪…」

荒い息を整えるように大きく息を吐き出した。ラブラドールの汗ばんで張り付いた前髪をかきあげるように、カストルの手の平が額に触れる。
その心地よさに目を閉じた。
きっと息が落ち着いたら、また再びこの乳白色の中で抱かれるに違いない。
でも、それでもいいやと思えたのは、自身を取り巻くすべてのものが君に染まって、僕はふわふわと、幸せいっぱいに瞬く蝶々でありたいと思ったからだろう。








20100623





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