バラ色に溺れる、否




あつい吐息が耳元にかかって身体がビクリと跳ねた。

綺麗に敷かれた真っ白いシーツに押し倒されてくしゃりとシワがつく。
ベッドサイドに散りばめられたブルーローズは艶やかに、室内は芳しいお香に満ちて、控えめに落とされたライトは妖しく幻想的なムードをかもしだす。この室内にいるだけで変な気分になりそうだ。
 
ラブラドールに覆いかぶさる体勢をとっているカストルはラブラドールの反応を見るなり小さく笑い、今度は首筋へと顔を近づけて、痺れるような感覚と紅い跡を残された。
きつく吸われ、痺れる度に身体が熱くなるのが分かる。
嗅覚はカストルの匂いとお香の芳しさで支配されている。
視界は、自ら吐き出さる熱い息と、ほてる頬、写るバラ色が切なくて潤む瞳に歪んでいる。

「…花に囲まれると、あなたは本当に美しさを増しますね」
 
首筋で囁かれてあつい息にまたビクリと跳ねた。いつのまにか司教服はするりと脱がされ、カストルのざらりとした熱い舌が首筋から徐々に下へと。わざと音を立てながら吸われる行為に片方の手で顔を覆って恥ずかしさに堪えてみても、身体は正直に震えて声が出るだけ。

「…っん、」
「もっと声を出していいのですよ」
するりとカストル指が滑らかに移動して、ラブラドールの双丘に触れた。

「…っ、あ!」
摘むように弄られて、その片方をかちりと歯で噛まれるとたちまち電流が走ったようにビクリと跳ねて触れていたシーツから腰が浮くのが分かる。
何度触れられても、ここは敏感だから苦手なんだ。男なのに。胸なんかで。

「ふ…んっ、」
それでも、カストルの巧みな指使いに溺れている僕を満足げに笑ったカストルは、尚も指を止めることはなく。
やっと双丘から離れてくれたと思ったら片方の太股をぐいっと持ち上げられて今度は小さく疼く蕾をなぞられた。
 
「ひゃ…!」
「ここも、触って欲しそうにしてますね」
「そんなこと…ゃあ、!」

カストルの指が疼く蕾の中に容赦なく入ってきて、いやらしい音をたてながら中を掻き乱しはじめた。
静寂が支配する室内にぴちゃ、と粘液の絡まる音が入り込む。
「やめて!」と口にしようとした言葉は呆気なくカストルの接吻に塞がれて、舌と舌が絡まればまた新たな音が静寂の中へと。
羞恥に瞳を閉じたら余計にそれを感じてしまって、下で容赦なく音をたてて動くのがカストルの指だと、そう思うだけでもおかしくなりそうなのに。

動いていた指を引っ掻くように抜かて、変わって大きくて熱いものを押し当てられた感覚に。
血の気が一気に引くような震えが押し寄せた。
 
「まって…カストルっ……ああ、っ!!」

ラブラドールの制止を無視して一気に入ってきた熱に、悲しくもないのにひとすじ、涙が溢れた。
余りの圧迫に強張った身体は唇に落とされた接吻によって優しく解かれ、ゆるりと腰を動かされるとびくびく震える身体が止められない。

「あんっ…あ、あっ、カストル…っ!」
「いい顔ですね、ラブ」
 
いつもは優しいのに、こんな時のカストルは意地悪だ。
僕の弱いところを知り尽くしているカストルはピンポイントにそこだけを追い詰めて。巧みな指と舌と、カストル自身に僕なんてもうとろとろで溶けてしまいそうなのに。なのに、今日に限っては酔うような芳しいお香とローズまで…!

「ほら、花たちにも見られてます」
 
思考を読み取ったかのように小さく笑ったカストルは、ベッドサイドに散らばるブルーローズをちらりと見やる。
暗闇に散らばる青い花はまるで星明かりのように淡く光って、僕らを照らしているようでやけにいやらしい。

「やぁ…んんっ、…だいたいっ、何で花を…っ」
「おや、忘れましたか?先日あなたが言ったのですよ」 
「…え?」
カストルの言葉に思わず思考が停止した。

「私よりも花たちが好きだ、と。だからあなたの大好きな花たちを連れてきたのです」

「あ、あれは…!」
言われて、数日ほど前の出来事が脳裏をよぎる。
些細なことで喧嘩をして、思わずカストルに言ってしまった言葉―



『カストルよりお花さん達の方が好きなんだから!』



「あれは…!ちゃんと謝ったじゃない!」
そう、でもあれは後でちゃんと謝ったんだ。カストルも許してくれたはず。なのに何で…!
焦りと困惑で、身体全体の血液が濁流のようにどくどくと流れている。
縋るように見上げたカストルの瞳はまるで静寂に鎮座する青いバラのように冷たくて、悲しく光るようなそれに思わず息をするのを忘れてしまいそうなくらい。

「謝るだけなら、誰にでもできるでしょう?」

「そんなっ…ひゃぁ、!」

止まっていた腰の動きが急に再開されて叫びにも似た声が零れた。
ガクガクと身体が震え、先程よりも激しく、確実に奥を突かれて快楽に溺れてしまいそう。

「カストルっ…もぅ、ゃ…ああっ!!」
堪えられず欲を出しそうになって寸前で大きな手の平に止められた。余りの苦しさに思わず息を飲んで、縋るように見つめたカストルの瞳は、相変わらず青く光るバラのように切なくて心の中の鼓動がひとつ、跳ね上げた。
 

「ラブ、あなたにとっての一番は誰です?」

耳元で囁かれる声がダイレクトに身体に響いてこだまする。
締め付けられた部分はどくどくとまるで心臓になったかのように急かしているのに。瞳からこぼれる雫のせいでいまカストルがどんな顔をしているのかすら伺えない。本当にいじわるだ。本当に。
そんな事を聞かなくとも、僕の一番は君しかいないと、知っているくせに。

「…っ、あ…カストルしかいない…!」

「ふふ、その言葉が聞ければ十分ですよ」

必死に告げた本心は、満足げなカストルの笑顔と優しい接吻と共に溶け、達するのをせき止めていた手の平はゆるりと解放された。
「ひゃあ、っんん…あ…っ!!」
詰めていた息を軽く吐き出して、それを確認したカストルが一際強く奥を突くと嬌声と共に放たれた欲が皺くちゃになったシーツにはたりと落ちるのだ。



くたりと全身の力が抜けたように横たわるラブラドールの髪をカストルの大きな手の平が優しく撫でる。
その手の平がベッドサイドに散りばめられたままのブルーローズへと伸びて、一輪のバラがラブラドールの髪にふわりと飾られた。

「本当に花の精のような人だ」
「い、言ってて恥ずかしいとか思わないの…?」
「あなたも、そろそろ言われ慣れたらどうです?」

私が毎回のように言っているのにいつも顔を赤くして。くつくつ笑うカストルに僕は「しょうがないでしょ!」と軽く怒ることしか出来ない。
素直に喜べばいいのに。嬉しいのは本当なのだから。
赤くなっているであろう顔を隠すために埋めたカストルの胸は心地いい温度でふわりと僕を迎えてくれた。そんな感覚に酔いしれる。

「…まあ、そこが可愛いのですがね」

こんな恥ずかしい事も普通に言えてしまう君に、僕はいつもいつも。夢中になって、顔を赤くして。
今日のようにバラ色に染められた室内でも、きっと、ふわりと笑うカストルの笑顔だけに僕は溺れているんだ。








20100417





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