※性的描写あり

AFFECTION




綺麗だね。それ以外の言葉なんて忘れてしまったかのように、榊が土岐にそう発したのはこれで何度目だろう。

「もう聞き飽きたんやけど」
「ああ、ごめん。でも本当に綺麗だよ」
「あーもう解ったから」

綺麗な薄紫の髪は流れるように背中に落ちていて、それを強調する群青色の着物に身を包んだ土岐を榊は満足そうに眺めていた。ライトの光を受けて透明色に近くなる髪の毛先は、先ほどから着物の群青を透けて見せている。綺麗だ。この言葉以上にふさわしい言葉があるのなら教えてほしい。
男性でここまで綺麗な髪を見たのは、多分、土岐が初めてだろう。日に透ける薄い紫、猫の毛のように柔らかい髪、少し癖があるところもまた。きっとその辺の女性よりかは綺麗なんじゃないかと思う。
――と、今髪の話はどうでもいいんだ。榊は小さく息を吐きだし、目の前に立つ土岐の足先から頭のてっぺんまでを流れるように見つめた後、満足気に微笑んだ。

「似合うとは思っていたけど、本当に似合うから驚いたよ」
「気が済んだんならもう脱ぐで」
「ははっ、積極的で嬉しいな」
「なっ……!そっちの脱ぐやないで!この変態」
「はいはい」

ぎりりと榊を睨みつける土岐にへらりと笑うと、ますます機嫌を悪くしたらしい土岐が着物の帯に手をかけた。榊はその手をぐんと掴んで動きを封じる。

「駄目だろ土岐。俺はまだ脱いでいいと言ってない」
「そんなん知らんわ」
「へえ……、お願いを何でもひとつだけ聞いてやるって言ってきたのは土岐じゃなかったかな?」
「それは……」

数時間前に交わした会話を例証にあげると、土岐は榊から逃げるように視線をそらす。『誕生日に何も出来んかったから、特別にひとつだけお願いきいたる』と言ってきたのは土岐なのだ。俺は誕生日の事なんて対して気にもしてなかったのだけど、せっかくのこの美味しい誘いを断る理由もなく、それならばと今に至る訳で。

「だいたい何で着物なん。榊くんってそんな変態な趣味あったんやねー」

榊に後ろ手を取られながらも、尚も挑発的にからかうこの口。そんなところは嫌いじゃないが、この状況下でどちらが有利かは明確だろうに。どれだけ強情なんだか。

「本当に土岐は、その減らず口が減ればもっと可愛いんだけど」

掴んだ手はそのまま、ぐいっと土岐の身体を自身の方へ引き寄せて、薄紫の髪の隙間から見えている耳元でふっと笑いかけた。途端びくりと肩を震わせた土岐に「かわいい反応だね」なんて囁くと、土岐は耳朶まで高揚させて顔を俯せる。その反応に思わずどくりと、榊の中で熱い塊が動いた。

「そんなに脱ぎたいんなら俺が脱がせてやるよ」
「っ!だからそれはええて―――」

ハッと顔を上げた土岐の唇を口付けで塞ぎ、それ以上の言葉を発することを許させない。そのまま間髪入れず舌を侵入させて歯列をなぞり、口腔に縮こまる土岐の舌を捕えた。

「ぅん……っ!」

逃げようとする土岐の舌を絡めて舐めあげ、ゆっくりと上顎をなぞる。小刻みに震える土岐の身体から力が抜けてきたのを確認して一端唇を解放してやり、へたりとしゃがみ込む土岐を支えて再び唇を塞いだ。

「……ふっ……ぅ、」

飲み下せなかった唾液が口角から溢れて、髪と同じ色の睫毛に涙が溜まる。
わざと音をたてて唇にキスを落とし、貪るように深く舌を入れると、途端、待ち侘びたかのように土岐の舌が伸びてきて、榊は内心で小さく笑った。
(……あれだけ強情だったのに、しっかり感じてるじゃないか)
唇は塞いだまま空いていた方の手を乱れた着物の裾に伸ばし、布の間からするりと忍ばせる。次いでじわりと湿った下着の上から土岐のものに触れた。

「んんッ!」
「ッ!?」

土岐がびくりと体を震わせたと同時に口の中に鉄の味が広がった。

「……痛っ、噛むなよ」
「はぁ……、っ、その手があかんのや!このままして汚れたらどないするつもりなん…!」
「ああ、そんな心配してたのか。大丈夫、ちゃんと手で受け止めてやるよ」
「はあ?そういう問題じゃ…」

反発する土岐をよそにぐっしょりと湿ったそこをぐりぐりと指で刺激する。

「ひゃ、ちょっ……!あかん、て……!」
「こんなに濡らしておいて、このまま放っておけないだろ?」
「うっ……」

肯定も否定もしない、土岐らしい曖昧な返事に満足気な笑みを作る。器用に下着を脱がせて着物が汚れないように裾を捲りあげてやり、屹立し先走りで濡れるそれに直接触れてきつく掴んだ。

「うぁ……、あっ……やめ……っ」

土岐の先端に軽く爪を立て、溢れたものを手のひらに絡めた。それを潤滑油にして先走りを漏らすそれを揉みだすように激しく律動させると、くちゅくちゅといやらしい音が響く。決定的な刺激は与えず、土岐の腰が大きく跳ねた所でわざと動きを緩めると、焦らすようなそれに土岐は快楽を求めて腰をくねらせ、切ない嬌声を漏らす。そんな土岐の首筋に噛みつくような口付けを落とし、緩めたそれを再び激しく律動させた。

「ひっ……!も……あかんっ……、」

崩れ落ちそうになるのを必死に耐えている土岐の細い腰が、榊の手の動きに合わせて震えて揺れる。

「あっ、あぁ……」

根元を一際強く刺激してやると、どくんと大きく波打って土岐は榊の手の平に欲を吐き出した。

「……っと、少しだけ受け止めきれなかったな」

榊は自身の手に散った白濁のものが、捲り上げた着物に無数の染みを作っているのを見遣って小さく息を吐き出した。大きく肩を上下させている土岐はそれを見て顔を真っ青にさせ、物凄い形相で榊を睨んでくる。

「――っ、やから言うたんや……!」
「大丈夫だって、心配しなくてもクリーニング代は俺が払うから」
「はぁーもう……、当たり前のこと言わんといて」

大きく息を吐きだして、汗で頬に張り付いた髪を煩わしそうに払う。ぱさりと流れるように着物に落ちた紫と、土岐が瞼を閉じる度に涙の滴が揺れる紫。その瞼にキスをした。

「綺麗だよ、襲ってしまいたいくらいに」
「……もう襲ってる奴がいう台詞やないわ」
「まあそうだけど、これで終わりだって誰も言ってないだろう?」

殊更に言った言葉に再び機嫌を悪くするだろうかと思ったが、あからさまに軽蔑の視線を向けられて榊は思わず苦笑した。
仕方ないだろう?せっかく綺麗にしてるんだ、俺の手で汚してやりたくなるじゃないか。








20120114



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