デザートはその後で




「ラブ師匠、何か手伝う事はないかい?」
白い雪のような花が咲いている植物を操るように手入れしているラブラドールに、ランセが声をかけた。
「うん、今は大丈夫。少し休憩にしようか」

冬の寒さも厳しくなってきた12月下旬、教会では数人の司教達が集まってクリスマスパーティーを開く準備をしていた。そう、今日は12月24日、クリスマスイヴといわれる日だ。
いつもは花達だけがあふれる庭園に、今日は赤や黄色の華やかな装飾と、それを照らすように小さな電球がキラキラと光っている。華やかなクリスマス飾り、それは教会では珍しい光景だな、なんて通りかかる誰もが眺めてしまうほどに美しく、きらびやかな庭園になっていた。
ランセの問いに手を止めたラブラドールは、そんな庭園の中央のテラスに用意しているティーセットに視線を送ると、嬉しそうににっこりと微笑んだ。

「おいしいお茶を用意してるんだよ」
「ほう、それは楽しみだね」
「おっ、ティータイムか?ラブが淹れるお茶なら俺も頂きたいね」
「おわっ!急に背後から出てこないでくれるか!驚くだろう・・・!」
「ふふっ、フラウの分もちゃんと用意するよ」

驚いて肩を震わせたランセとは対照的に、ラブラドールはフラウが来ることを始めから解っていたかのように、にこにこと微笑む。わいわいと賑やかになった会話に、ラブラドールを囲む花達も嬉しそうに花びらを開花させていた。
毎年この時期は教会の仕事も忙しく、今までこのようなパーティーを開く事は出来なかったのだが、今年はテイトくん達の為にも是非開きたいと司教達で協力した結果、今日この日を迎えることができていた。準備は順調、夕刻には、この場所はたくさんの人で賑わっているだろう。

「クリスマスパーティー、皆喜んでくれるだろうか?」
「大丈夫だよ。きっと笑顔が絶えない日になるから」
「ラブがそういうんだ。後はお前がドジをしなけりゃ上手くいくんじゃねえか?」
「なっ!失礼なやつだ。この私がドジなどするものか」
「どーだか」
「まあまあふたりとも。賑やかなのはいいけど、喧嘩はダメだよ?」

「はい、どうぞ」とふたりの間に割って入って、ラブラドールは飴色の液体を注いだ透明のグラスを差しだした。そこにラブラドールが小さな花の種を落とすと、飴色の液体の中で綺麗な白い花がふわりと花開く。

「おーサンキュ。うまそうだ。さすがラブだぜ」
「冬にしか咲かない花なんだ。甘くておいしいよ」
「うん。すばらしい味だ」
「ふふっ、ありがとう」

外の風は冷たく庭園を駆け抜ける。温かいお茶を注いだグラスからは白い湯気が立ち上る。当たり前の風景、かけがえのない大切な仲間と一緒にいる。それなのにどことなくいつもと雰囲気が違うのは、やはり彼がいないからだろうか。

「・・・・・・そういえば、眼鏡はどうしたんだい?」
「そういや見かけねえな」
「カストルなら、食材を調達しに行ったはずなんだけど・・・」

カサッ、と植物が揺れる音がして、次いでさくさくと一人の足音が聞こえてきた。ラブラドール達はその音に顔を見合わせる。聞き覚えのあるその足音は次第にこちらへと近づいてきて、予想通り、ラブラドールの前でピタリと止まった。

「ああ、ここにいたんですね。遅くなりました」
「カストル!おかえり。ちょうどカストルの話をしていたんだよ」
「私の、ですか?ああ、それはそうとラブ、たくさん収穫があったんですよ」

噂をすればなんとやらで戻ってきたカストルの手には沢山の食材が抱えられていて、ラブラドールを見て自慢げに微笑んで見せる。

「わぁ、本当だ。きっとテイト君達も喜ぶね」
「ええ、豪華な食事になりそうです」
「さすが眼鏡だね。そんな食材、どこで手に入れたんだい?」
「ふふ、私の人脈を侮ってもらっては困りますね」
「要は貰ってきたって訳か」
「うるさいですね。皆で食べるのですから問題ないでしょう?」
「そうだね、皆で食べるのだもの。あ、今カストルにもお茶を淹れるね」
「ありがとうございます、ラブ」
「……チッ、ラブはいつもお前の味方だよな」

持っていた食材を置いたカストルは、不満げに舌打ちをするフラウに「あなたと違ってラブは何て優しいんでしょう」等と文句を言っている。それを背後に聞きながら、やっぱりカストルがいるとその場がぱっと暖かくなった気がするなと、ラブラドールはすくりと笑った。

「あっ、そうだカストル、今日のパーティーが終わった後、少しいいかな?」

ティーポットを片手に、ラブラドールがくるりとカストルの方を向き直る。

「ええ、構いませんが、何かありました?」
「ふふ、それはまだ秘密だよ」

そう言って楽しそうに笑うラブラドールに、カストルは解らないと首を傾ける。
パーティーが終わる頃にはとっくに日が暮れて、空には満天の星空が輝いているだろう。それでもラブラドールにはどうしても今日中にカストルに伝えたい言葉があった。それは必ずしもパーティー後と限定しなければいけない訳ではないのだが、どうせならすべてが終わって一息つけた、ふたりきりの時に伝えたいと―――。
そんな事を考えていると周囲の空気がふわり揺れて、カストルがすぐ近くに来ていた事を知る。

「ちょっと動かないで下さい、ラブ」
「え・・・・・・?」

カストルは抱き寄せるようにラブラドールの体を引き寄せ、もう片方の手でラブラドールの髪に撫でるように触れた。

「いえ、髪に花びらがついてましたので。ふふ、本当に貴方は花達に好かれていますね」

カストルの手の平にはらりと落ちた純白の花びら。先ほど手入れをしていた時についたのだろう。

「あ、ありがとう、カストル・・・・・・」

花びらを取ってくれた事は嬉しいのだが、相変わらず抱き寄せられたままのこの態勢が恥ずかしくてラブラドールは思わず顔を伏せる。こんな庭園のど真ん中の人目に付く場所で、しかもすぐそこにはフラウとランセもいる。ラブラドールはどうにかカストルの腕から抜け出そうと抵抗してみるも、逆にさらに抱き寄せられてしまって、終にはさらりと掬われた髪の毛にカストルの口付けが落とされた。

「っ!?こ、こんなところでやめてよ・・・・・・!みんな見てる・・・」
「ふふ、いいじゃないですか。貴方は私のものだと解らせておかないと」
「〜〜〜っ、もう……!」

顔を真っ赤に染めるラブラドールの耳元で囁いたカストルは、ついでにと言わんばかりにその耳にもキスを落とした。







「・・・ったく、見せつけやがって」
「まったくだね」

そんな現場をまじまじと見せつけられたフラウとランセは、互いに ふう、と息を吐き出した。クリスマスパーティー開催予定時刻まで、あと一時間。





(ねえカストル、忙しくて伝えるタイミングを逃してしまっていたけれど、パーティーが終わったらどうしても君に言いたいことがあるんだ。12月24日、今日はクリスマスイヴでもあるけど、同時にカストルにとって特別な日だよね。誕生日おめでとう、この言葉をはやく君に捧げたい。)




デザートはその後で



20111230
まさかの祝う前ですみません!





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