清香ドルチェ




ラブラドールのいれるハーブティーの香りが部屋中に充満して、カストルは頬を緩めた。
新作だというそれを作るラブラドールは楽しそうに鼻歌を歌いながら、そんな彼の歌に花達も楽しそうに揺れている。いつ見ても不思議な光景だと、カストルは思う。花達が自然に懐くのか、ラブラドールの持っている預魂の力故なのか。多分どちらも間違ってはいないだろう。

いつも彼の傍で揺らめいていて、向けられるやわらかい笑み。少し嫉妬してしまいますね――なんて思う反面、私にも花達の言葉が解れば、野良寝したラブラドールを探すのも簡単なのでしょうがと小さく苦笑。

「ラブ?」

ふと、ハーブティーをいれていたラブラドールの手が止まったのを不審に思い、名を呼んだ。
ティーポットを片手に、目線はグラスへ注がれているようで、もっと遠い、違う世界を見ているような――
ああ、とカストルは心の内で呟いた。視ているのですね。貴方にしか見えない先の未来を…

「大丈夫ですか?ラブ」
「…うん、何でもない。大丈夫だよ」

しばらくしてハッと我に返ったラブラドールが、ゆるりとカストルの方を見て苦笑する。

「もう少し、時間をちょうだい?」
「…解りました。話せる日がきたら、私にもちゃんと話して下さいね」
「もちろんだよ」

小さく頷いて微笑んだラブラドールが、緩慢な動作で持っていたティーポットから黄金色に輝く液体をグラスへと注いだ。
そのほんの一瞬で、先ほどまでとは比べものにならない香りが部屋中に充満する。

「はい、おまたせ」
「ありがとうございます。――ラブ」

二人分に注ぎ分けられたグラスから、ハーブティーの香りと共に白い湯気が立ち上る。
カストルは、差し出された方のグラスを受け取って、その反対の手でラブラドールの腕を掴んで自身の方へ引き寄せた。

「えっ、ちょっとカストル――っ!?」

ラブラドールも片方の手にハーブティーの入ったグラスを持っているわけで、零さないようにと体を元に戻そうとしたが、カストルがそれを許さない。

「ふ……ぅ、んんっ」

不意をつかれて薄く開かれたままだったラブラドールの唇は無防備で。侵入させた舌を絡めれば、ピクリと身体を震わせて反応する。そんなラブラドールにカストルは満足したように目を細めた。
そして快楽に震えながら必死にグラスを持つラブラドールの手のひらに、カストルは自身の手を添えてやる。それにラブラドールは少し安堵した表情を見せた。
確かに、今だに白い湯気が上るこれを落としてしまったら火傷してしまうだろう。しかし、今はそんな事より、私だけに集中して欲しいですねと――

「…は、ぁ……っ」

息継ぎをさせないほどに深く咥内を味わって、ラブラドールが苦しげに眉を潜めた所でカストルはようやく唇を解放した。細い銀の糸が艶やかに繋がって伸びる。

「――っ、もう…!落としたらどうするつもりだったの…!」
「すみません…、でも落とさなかったでしょう?」
「…それは、そうだけど…」
「ですが、私が支えてあげてなかったら危なかったですね」
「誰のせい…!」

頬を紅く染めるラブラドールに可愛いですねなんて思いながら、自身も片手に持ったままだったグラスを見遣った。

「さあ、冷めない内に頂きましょう」

そのグラスを口元まで持って行けば、香り高いハーブティーがダイレクトに香る。咥内に残る甘い感覚に浸りながら、カストルは緩慢な動作で黄金色に輝く液体を一口飲み込んだ。









20110930
リハビリ文です…!





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