Special Dayに99本の薔薇を捧ぐ




夜もだいぶ更けたころ、東金は菩提樹寮にある土岐の部屋を尋ねた。
ノックなどしない。電気のついていない部屋は薄暗く、ベッドライトだけが照らす室内で目的の人物は窓辺に立ち外を眺めていた。

「蓬生、戻ってたのか」
「ん?ああ千秋、もう用事は終わったん?」
「ああ、まあな」


ソロファイナルが行われた今日、8月21日。無事に優勝を手にした東金は各方面への報告などに追われ、ようやくここ菩提樹寮へと戻ってきたのだ。

「改めて優勝おめでとう千秋、最高の誕生日プレゼントやったで」

薄暗い部屋でもハッキリと分かる、土岐の緩やかな口調とやわらかい微笑み。もう終わろうとしている今日は、ソロファイナル当日と同時に土岐の誕生日でもあったのだ。

「なんで俺の優勝がお前への誕生日プレゼントになるんだ」
「それくらい嬉しいんよ、千秋の優勝」

どこまでも純粋で、まるで自分が優勝したかのように土岐の言葉からは心からの歓喜が伝わってくる。
――そういえば、ファイナル直前も人一倍緊張していたのは蓬生だったか。
蘇るのは、ほんの数時間前の記憶。珍しく心配の色を隠せなかった土岐がこの上なく愛おしくて。「お前が緊張してどうする」そんな言葉を交わした記憶に自然と口元は緩む。

「お前の誕生日なのに構ってやれなくて悪かった」
「そんなん気にしてへんよ」
「なんなら、昼間の分もこれからまとめて祝ってやろうか?」

戯れに発した言葉に土岐は一瞬瞳を瞬かせ、次いで小さく細めてみせる。

「何やそれ。…せやけど、俺のこと祝ってくれるん千秋だけやから嬉しいわぁ」

独り言のように紡がれた言葉はどこか切なく東金の胸に落ちた。自分の事には消極的で、他人のペースに合わせて本音を隠すのは土岐の悪い癖だ。だがそれが土岐らしくもあり、享楽的に振る舞う裏で儚げにたゆたう土岐を東金はけして見逃さない。

東金は心の内で笑い、土岐の立つ窓辺へと歩みを進めて肉の薄い頬を引き寄せた。

「ほんまにアホやな、お前は」
「ん?……っ、んっ」

重ね合わせた唇に一瞬肩を強張らせた土岐だったが、すぐに東金を受け入れて唇を開く。
もう何度味わったかわからない、土岐の咥内へと深く口付けてきつく吸い上げると、鼻にかかった甘く酔った吐息が漏れる。その吐息に高まりだした熱はジワジワと東金を内側から攻めたてて、内心を震わせるのだ。


離そうとした唇に もっと、とせがむように土岐の腕が伸びてくる。その行動に笑い、再び侵入させた舌に自ら絡んでくる土岐は欲情の塊だ。深く、ふたつの熱がひとつに溶け合うように。シンとした室内にいやらしい水音と甘い吐息を響かせながら。

咥内を滑る舌が土岐の上顎へと当たる度、土岐はピクリと肩を震わせてくぐもった声を漏らす。そんな色気狂う土岐を東金はたまらなく気に入っていた。

「ん、ん……っ」

何度か角度を変えて啄むような口付けの後、再び深く口付けた。溢れた唾液が口端から伝い、力の抜けた土岐の背中はガラス窓に付く。

「はぁ…、ちあ……っ、ぅ」


息づく暇を与えず貪るような接吻の後、土岐の瞳から雫が濡れ始めたのを確認して東金はようやく唇を解放してやる。銀の糸が細く引いて、互いに荒くなった息を整えながら。東金は肩で息をする土岐の髪を頭からなぞるように撫でた。

「Happy birthday.蓬生」
「…っ、ずるいわ、こんなタイミングで言うん」
「ムードってもんが大事だろ」
「そら…おおきに」

小さな明かりだけの部屋からは、窓の外の星空もよくみえる。そんなありふれた光景すら綺麗だと思えるのは、たぶん大切で手放せない存在をこの手に満たしているからだろう。撫で下ろした柔らかくしなやかな髪を手に取って、頬を染める土岐に見せ付けるような口付けを――


「今年も最高の年にしてやる。覚悟してろよ」









20110821
―――――
薔薇は99本で「とこしえの愛」という意味があるそうです
蓬生Happy birthday!



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