言葉は装飾されて本音を隠す




柚木先輩って、最近よく加地と一緒にいますよね。

そう声をかけてきたのは加地のクラスメイトだった。学校の屋上で偶然柚木さんを見かけて声をかけた、そのほんの数分後の事。
「意外です」と言う生徒に柚木さんは少し驚いた表情をしたけれど、すぐに優雅な笑顔に変えて、困ったように微笑みながら言葉を返す。

「そうかな。アンサンブルメンバーとして一緒に練習していることが多いから、そう見えるのかもしれないね」

あくまで否定を示し、遠回しに“練習の時だけ一緒だ”と主張する。その笑みの下では一体どんな本音を隠しているんですか――なんて、僕には大体想像できてしまうんだけど。

「そうだよね、加地くん?」
「ええ、そうですね。今も、放課後の練習場所を聞いていたんだよ」

クラスメイトにそう告げて、これでいいのでしょう?と柚木の方へ目線を送った。

都合よく飾られた言葉は簡単に人を惑わす。それを不審に思い、深追いして咀嚼しても、大抵良い方向へは向かわない。知ってしまって後悔することの方が多いのだ。これは僕の個人的な考えだけど。





「意外とみんな見ているんですね、僕達の距離が近いこと」

クラスメイトが去って行ったのを確認して加地は口を開いた。

「…お前が人目につく場所で話しかけてくるからだ」

先程までの笑みとは一転、呆れたように溜息を漏らした柚木が加地を軽蔑の眼差しで睨んでいる。
知って後悔することが多いとは言ったけど、これだけは、僕は知ることが出来て良かっと思っている。こんな秘められた貴方を見せてくれるなんて最高の僥倖であり、感銘。至福。あなたの全てを明かしてもいいと、あなたに認められたようで嬉しかった。

「心外だなあ。この前は柚木さんから話しに来てくれたじゃないですか」
「あれはちゃんと練習の誘いだっただろ」
「そうですけど、ひとつ違います。正確には、練習と 練習後のデートのお誘いでしたね」

加地の真実を告げた言葉に、柚木は不快感をあらわにして眉間にシワを寄せた。

「あれ、僕何か間違ったこと言いました…?」

否定をしないと言うことは、貴方も認めてるという事でしょう?
加地は微かに口元を緩ませて、わざと柚木の耳元に顔を埋めるように近づいた。

「…そうでしたよね、“梓馬”さん?」
「…っ、お前!いい加減にしろよ」

予想通り肩を震わせた柚木に、加地は満足げに笑って。

「僕は貴方にも笑ってほしい。作った笑顔じゃなくて、本当の柚木さんの笑顔で」

この言葉に偽りはないと、どれだけ貴方の心に届いただろうか。

「ふふっ、顔を赤くしてどうしたんです」

言葉に迷うように、何かを言おうとして止める、そんな柚木をみて加地は言葉を続ける。

「嘘じゃないですよ。僕は柚木さんが好きです」
「…俺は嫌いだよ、加地くん」
「知ってます」

それが本音を隠す為に飾り立てられた貴方らしい言葉だということも。
だからこそ、そんな貴方に興味があるんだ。

貴方が囁く言葉は装飾されて、秘められた本音をキレイに隠すものだから。








20110802
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