armonioso




華やかで、輝いていて、聴き手を楽しませる情熱的な演奏。今まさに、目の前でそんな音楽を奏でている千秋を、蓬生はぼんやりと視界に捕らえていた。
いつ聴いても千秋の演奏は心の奥深くまで浸透して、沈んだ心を掬い上げるように高鳴り、響く。聴いていて安堵感が生まれるような、情熱的な音に同調されていく心が孤独から救われた気分になる。こんな風に感じるのは俺だけやろうか。

千秋に誘われてヴァイオリンを始めて、いつの間にか千秋の音色を引き立てることが楽しみになっていた。
俺にしか奏でられない音色があるのなら。その音で千秋の音をもっと引き立てる事が出来るのなら。俺の音が合わさって、千秋の音色にきらびやかさが増すのなら。それが本望。

そんな自己中心的な思いばかりが先走って、自身の音色の変化には気付かず。「お前の演奏は愁いを帯すぎている」いつだったか千秋に言われた言葉を思い出す。「だが俺の音と合わせることで艶がでる。自分で気づいているか?」本当は、俺の音が千秋によって引き立てられていた。そんな情熱的な音色に誘われん奴なんておらんやろ?だからこれは自然の道理だと強情してみる。

音色とはまるで、淡い星の光りのようだと思う。または緩やかな風に舞い踊る小さな蝶。しかし千秋の音色はこのどれとも似つかわしくない、寧ろ正反対の。

(千秋は『星』より『太陽』やんな。それに『蝶』やのうて言うなれば『鷹』や)

対照的だからこそ惹かれ合うものもある。違う観念を持っているからこそ、俺は千秋の音色を引き立てられると思った。それが何より嬉しくて、楽しいとも。「お前と合わせるのが一番いい」そう言った千秋は、こんな俺の刹那的な楽しみにとっくに気付いてたんやろな。


高鳴り響く音色で現実に戻された視界に、今度はハッキリと千秋を捕らえた。練習なのに楽しそうに弾きよる。この曲は千秋の好きな曲なんやろか。華やかで抑揚のある音楽は千秋の醍醐味やんな。視界がそこだけに固定されてしまったように見入って、魅了されるのは何度目だろうか。

ふと、千秋がこちらを振り向いてその目と目があったから蓬生は柔らかく微笑んだ。音色を合わせる刹那的な時間でも、そうでない普通の時間でも。俺は千秋の傍にいたい。


「蓬生、聴いてるか?体調悪いなら無理するなよ」
「きいとるよ。体調も悪ない」
「それなら休憩は終わりや。今の曲、合わせるぞ」
「ええよ。俺の音色で、千秋を存分に引き立てたるわ」









20110624





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