Merry Christmas!




眩しすぎるくらい色とりどりに飾られた電球の明かりを遠目にみながら、土岐は耳元にあてた携帯電話に寄り掛かるように首を傾けた。

「こっちはイルミネーションがすごく綺麗だよ。神戸はどうだい?」
「こっちも、なかなかの物やで」
「へえ、見てみたいな」

話すたびに、吐く息が白い。ホワイトクリスマスとまではならなかったが、この時期らしい冷え込んだ空気に、土岐は小さく身体を震わせた。耳元にあてた携帯電話からは、機械を通しても心地のいい落ち着いた榊の声と、わいわいと賑わう人々の声が聞こえてくる。

「ずいぶんと賑わっとうみたいやね」
「まあね。でも、カップルばかりでうんざりさ」

街中にでもいるのだろうか。遠くの方で聞こえるクリスマスに染まった音楽と周りの賑わいに、小さくこぼれた榊のため息は瞬時に掻き消される。こんな混み合うと分かりきっている日に、わざわざ出掛けなくてもいいものを。まず自分なら絶対に街中には行きたくないなあと、そう出かかった言葉は冷えた空気と共に飲み込んだ。

「土岐は今、家かい?」
「ん?……いや、千秋んちや」

問われた質問に素直に答えると、電話越しに「へえ」と興味深気な声色が聞こえた。

「……それは、妬けるね」
「クリスマスパーティーに呼ばれとるだけやて。パーティーとか、千秋がやりそうなことやろ? まあ、俺はいま抜け出し中なんやけど」

そう言いながら、ベランダの外に出ていた土岐は後ろを振り返る。ガラスで仕切られた豪華絢爛な部屋の中では、たくさんの人々が東金家主催のクリスマスパーティーを楽しんでいた。もちろん主催者である千秋は、こういう機会こそ最大のチャンスだと言わんばかりに招待客との会話に花を咲かせている。そんな千秋を遠目に眺めながら、土岐は大勢の人混みを避けるようにひとりベランダへと抜け出してきたのだった。

「なるほど、クリスマスパーティーね。それなら土岐は正装か。見れないのが残念だな」
「女の子でもあるまいし、男のスーツ姿見てなにが楽しいん」

冗談めいた榊の言葉に笑って返しながら、土岐は視線を夜の景色へと戻す。スーツのような堅苦しい服はあまり好きではない。首元が締まって息が苦しいし、ゆっくりと身体を休めることだってできやしない。それでも、もし榊くんに見られるんやったら、もっといいもん着て行くかもしれへんなあと浮かんだ心境に、自分の中で榊がどれだけ特別な存在なのかを思い知った。

「メリークリスマス、土岐。まだ言ってなかっただろう?」
「……このタイミングで言うん? 逢いとうなるからやめてや」
「俺も、今すぐにでも土岐に逢いたいよ」

榊の言葉が、耳元でダイレクトに響く。携帯電話越しなのに、まるですぐ隣にでもいるみたいに。
夏が終わり、それぞれ横浜と神戸に別れてからというもの、今日のような電話やメールのやり取りを頻繁にするようになった。共に過ごした夏の出会いはあまり良いものではなかったのに、今では声を聞いているだけでこんなにも落ち着くのかと可笑しくなる。まだ夏が過ぎてから数ヶ月しか経っていないのに、もう電話やメールだけじゃ物足りないと感じてしまうほどに、会いたいと思う。それでも、これまで会いに行かなかったのは――。

「……来週には逢えるし、今は我慢しとくわ」

ぼそりと呟いた言葉は、電話ごしの相手にどこまで届いただろうか。「何か言ったかい?」と聞き返してくる榊に、土岐は「秘密や」と返して小さく笑った。
来週は、榊の誕生日だ。せっかくやから、その特別な日に俺から会いに行ったるわ。果たして、榊はどんな顔をするだろうか。
頬を指す冷たい風が、土岐の長い髪を靡かせる。それでも、小さな期待と楽しみで心はあたたかい。まるで、イルミネーションで溢れかえったクリスマスの街中のように、柄にもなく浮かれているのかもしれない。








20101225
20190117(加筆修正)






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