夜明けまえ




早く起きすぎたなぁ、と 蓬生は閉め切られたカーテンの向こう側、まだ太陽が登っていないであろう薄暗い空を想像して溜息を零した。隣に眠る幼なじみを起こさないように、ゆっくりと起き上がらせた身体に朝の冷えた空気が突き刺さる。ふるりと身震いがして、思わず自身の体を包み込むように腕を回した。
夜が明けるまで、あとどれくらいあるのだろう。近くに携帯電話があるはずだと見渡してはみるものの、眼鏡をかけていないぼやけた視界では無理だと断念。もう一度寝直そうかとも考えたが、どうにも目が覚めてしまった。

夜から朝に変わる瞬間は好きだ。夕闇の仄暗い淋しさとは違う、朝焼けの眩しくて澄んだ色が、まるで心の闇までも晴らしてくれているようで。全てを受け入れてくれているかのように錯覚する。そんな朝焼けが好きだと言っておきながら、心の何処かでは光りに消えゆく闇のように、自分も清々しく消えれたら――。なんて、昔はよく思っていたものだ。身体が弱くて周りに迷惑ばかりかけるくらいなら、いなくなってしまった方がいいのではないかと。今ではあまりそうも思わなくなったけれど、例えばこうやって千秋の温もりを感じたままなら、終わりがきてもええかなあ、なんて。こんなこと、千秋が聞いたら怒るだろうなとその表情が安易に想像できて、蓬生は思わず口元が緩んだ。

あたたかい布団から抜け出して、冷えた床に足をつく。
薄暗い室内をぼんやりとした視界のなか、ぺたりぺたりと窓際まで足を進めると、閉め切られていたカーテンを少しだけ開けてみた。残念ながら、朝焼けにはまだ早かったらしい。窓の外は薄暗く、夜の空には白く浮かぶ月と、ほのかに輝くひとつ星。
蓬生は静かに息を吐き出して、隣で寝ていた千秋の方へと視線を戻した。いまだに起きる気配のない相方は、一体どんな夢を見ているのだろう。どうせなら一緒に朝焼けを見てみたい気もするが、そんなもの、千秋は特に興味ないやろうなあと、ひとり想像して笑った。
今は閉じられている、光りに満ち溢れた瞳。こんな風にひとりでふらふらしてしまう俺を、しっかりと支えて導いてくれる情熱的な赤。――ああ、早くその瞳に捕らわれてしまいたい。

「千秋、はよ起きて……。 俺のこと、ちゃんと捕まえとって」









20101123
20190109(加筆修正)






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -