灼熱に蝕まれる




土岐の行動は、一見気まぐれのようにみえて実はとても規則正しい。灼熱のように熱い日は木陰で休憩している姿を見かけるし、ふらりと立ち上がったかと思えば決まって東金絡みの用事だ。それ以外は大概、スタジオで練習か菩提樹寮で夕涼みといったところだろう。 ―――何故、こんなにも土岐の行動を把握しているのだと、思わず榊は自分にツッコミを入れた。

額の上でかざした手のひらで灼熱の日差しを遮って、ヴィオラケースを片手に榊は木陰を目指した。広大な森の広場の木陰は無数にあれど、北風が通る涼しい木陰は数限られている。榊はその中でも一際涼しい木陰へと赴いて、ふぅ、と息を吐き出した。思えばこの場所は、先ほどまで思考を埋め尽くしていた人物がよく涼んでいる場所だな、と思わず口元が弧を描く。

心ではありえないと思っているのに、どうしても土岐のことが気になって仕方がない。実力をからかわれたあの日から、土岐の事をもっと知りたいと思考はフル回転している。東金以外の誰にも隙を見せず、計算された表情で他人と付き合う彼が、榊に対して少しだけ垣間見せた本心。同じ男とは思えない華奢な体つきをして、背中に流れる髪、内心を隠した笑み、漂う麝香。想像しただけで、ざわりと心が熱く揺れ動く。
隠された本当の土岐を知りたい。もしかして、自身の中で燃えたぎるこの熱のように、土岐もこちらに気があるのではないかとありえない深読みをして。今も土岐がここに来るのを浅はかに期待している。 ―――いや、確信だろうか。今日のように日差しの強い日は、土岐は決まってこの場所へとやってくる。いつものお気に入りの場所に君が嫌う先客がいて、あの時のような内に秘めた本心を見せてくれたら最高だ。

「あれあれ、先客がいるとは思わんかったわ」

さくさく、と微かな足音と共に現れた期待通りの人物。榊は、口元が弧を描くように釣り上がるのが分かる。それを隠すように得意のポーカーフェイスに塗り替えて、熱さのせいかいつも以上に気怠げな土岐を見た。

「やあ土岐、何か用かな」
「いや、用はないんやけど……。ここは俺の指定席やのになあ。この場所、涼しくて休憩するのに調度ええんよ」
「はは、でも今日は俺の方が先だろう?」
「ま、そうやね。違うとこ探すわ」

くるりと踵を返した土岐が、灼熱の日差しに顔をしかめて息を吐き出したのを見逃さない。暑いのだろう?それならここで休めばいい。太陽の光りで透明度が増した艶やかな髪は、まるで蝶のようにふわりと揺れて、捕らえたい衝動に襲われる。この存在をここに留めたい。そう思った時には、既に「土岐」と名を呼んでいた。

「君がよければだけど、一緒に休憩しないかい?」
「……は? 一緒に、やなんて、榊くん熱でもあるんやないの……?」
「酷いな。土岐が暑そうだから、しばらく休んでいけばいいと思っただけだよ。……まあ、確かに俺らしくはなかったかな」

冗談混じりに笑って見せたが、きっと得意のポーカーフェイスは失敗していただろう。君が来るのを待っていた、なんて口が滑っても言えない。くだらないプライドが邪魔をする。こんなプライド、捨ててしまえたらふたりの関係はもっと良好になるはずなのに。

「……なんや、企んどるって顔しとおよ」
「まさか、土岐の気のせいさ」
「そう? ……まあ、確かに暑うてたまらんし、ちょっとお邪魔させてもらおかな」
「えっ、……ああ、そうしてくれ」

意外にもあっさり了承されたことに少し驚いた。灼熱の日差しから木陰に入ってきた土岐は一息ついて、驚く榊を見てわずかに笑みを作っている。これは、してやられたなと、榊は心のうちで苦笑した。
そうやって他人の心は探ろうとするくせに、自分の本心は見せない卑怯な君の仮面を剥ぎ取りたい。東金にしか見せない君がいるように、俺にしか見せない君というのも興味深い。少なくとも、こうやって含み笑いをしている土岐は、榊だけしか知らないのだから。
風が通る木陰にふたりきり、特に会話はないけれど、それでも嫌じゃないと思う心は、もうすでに灼熱に蝕まれはじめている。











20101123
20181106(加筆修正)






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