すべては楽園の藪のなか




ふと通り掛かった庭園の片隅で、ゆらゆらと揺れる蔦の花に誘われた。
ランセは誘われるままに庭園の奥へと足を運ぶと案の定、そこには庭園の主が気持ち良さそうに夢の中だった。
導いてくれた蔦の花はラブラドールの後方にすうっと引いてゆらゆらと、主を包み込むように優しく揺れる。
ランセはラブラドールにそっと近づき、同じ目線の高さまで腰を落として暫くどうしようか悩む。
いつものように優しく呼びかけて起こすのもひとつの手だが、ここはひとつキスでもしてあげようかと思案して静かに微笑。

閉じた瞳のふさふさとした長い睫毛にほのかに色づいた頬、薔薇のように艶やかに潤う唇にゆらゆら漂う甘い香り、見れば見るほど―、そのすべてにそそられる。

さくりと小さな音を立て、ランセはラブラドールの方へと軽く身を乗り出した。
あとほんの少し角度を変えれば唇が触れ合う、そんな距離まで近づいて。ゆっくりとゆっくりと角度を変えて、ついにラブラドールの唇を捕らえようとして、ランセはぎりぎりの距離で動きを止めた。

ああ、そうだった。君は預魂で、周りには花や蔦やたくさんの植物達がついていて、色んなことを君に教えているのだっけ。
ふう、と一息吐いて長い前髪をかきあげたら、近かった距離を元に戻す。


「……いいのかい? もう、何もなかった過去には戻れないよ」
「ふふ、遺魂の君がいう台詞じゃないね、それ」

眠っていたと思っていたラブラドールがくすくすと笑ってふさふさした睫毛を持ち上げた。

「…確かに。でも、ラブ師匠が寝たふりをするなんて、思いもしなかったよ」
「そう? 僕も、ランセに気づかれたのは予想外」
「それは光栄だ」

もう一度くすくす笑うラブラドールの周りはたちまち蔦の花で囲まれる。
本当は寝ていると思っていたのだけれど、(案外、私の勘も捨てたものじゃないね、)気づかれないように小さく微笑。
一体いつから起きていたんだい?と聞いた質問は「秘密だよ」と綺麗な笑みで返された。
それでも起きていて拒まなかったのなら、この想いを受け止めてくれると思ってもいいのかい?それとも、私がキスをしないと始めから分かっていたのかもしれないね。
もやもやする気持ちは心の中に閉じ込めて、同時に芽生えるのは( どうせなら強引に奪ってしまえばよかったよ )
歪んだ理念。

開かれた瞳は紫水晶のように引き込まれるようで、きめ細かな頬、小さく開いた艶やかな唇に触れてみたいと思うのは、一度は散ったはずの掻き集められた塵のような本音なのだろう。










20100210





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