揺れて朽ちる




「ランセがくれた木の芽、大きくなったんだよ」

広葉樹の葉の隙間から差し込む陽射しが実に心地いい。
緑のカーテンからこぼれる光りは、温かく柔らかく淡い髪の彼を包んではゆらゆらと揺れる。それはまるで神秘的。
そんな彼に見とれていたものだからつい、紡がれた言葉に返事を忘れそうになったけど無事にこの口は動いてくれたようだ。

「そう、それはよかった」

少し前に彼にあげた時はまだ小さかった木の芽も、今は葉を増やし背丈30cm程はあるだろうか。
緑のカーテンからの温かい陽射しを浴びてすくすくと順調な成長ぶりと言えるだろう。彼はそのすぐ傍で優しく微笑んでいる。

「きっと、ラブ師匠が愛情を込めているからだね」
「ランセの目利きがいいんだよ」
「まさか、ラブ師匠には敵わないさ」
「ううん、ランセがくれる子達はみんないい子だよ」
「そうかい?では次も期待していておくれと言っておこうか」
「うん、楽しみにしてる」

愛らしく笑うその笑顔はまぎれもなく自分に向けられたもので少しの自惚れ。
これでハッピーエンドのエンドロールが流れると最高なんだけど。あいにくハッピーエンドは用意されてないようだと少し肩を落とす。
今、彼にとって私との関係は親友、同僚、仲間、きっとこれぐらいの関係。この関係でも十分嬉しいのだけれど、望むならもう少し親密に。
何度かこれから先に踏み込もうとしてみたけれど、どれも成果なくして無残に散った。

「ランセは優しいよね」

呟かれる言葉にゆらゆらと揺れる木漏れ日が彼を照らし出してまるで幻想的。

「明るくて楽しいし、僕はランセのそんなところ好きだな」

そんな彼に虜になっている私はなんて愚考。

(『好き』などと簡単に言ってはいけない。誤解してしまうじゃないか)
叶わないと分かっている恋物語のページを開きたくなってしまうよと心の内で呟いて
「ラブ師匠は―」
言いかけた言葉を無理矢理飲み込んだ。

「ランセ?」
「いや、なんでもないよ」

ゆらゆらと揺れる木漏れ日は変わらずにそこにあって、思いを伝えられない小心な私の心は朽ちていくばかり。
開きかけた物語のページは、始めのページ以外は白紙も同然。それでも白紙だからこそ、これからの物語を作っていけばいいと前向きに捕らえられている思考はまだ辛うじて朽ちてはいないようだ。
笑えるね。本当に。笑える。この儚い恋物語を進展させないのは彼じゃなくて自分自身じゃないか。

「ラブ師匠、今度はどんな子をお望みかな?」
「…そうだね、花を咲かせる子がいいな」
「了解。任せておいて」

揺れる木漏れ日が照らすこんなにいい天気に暗い思考は似合わないよとくすりと笑う。もちろん自分自身に対して。
『明るく楽しく』が私の取り柄なら、それを最大限に発揮してあの花のような笑顔を引き寄せればいいだけの話しさ。
とても簡単な事。今まで通りの私でいればいいのだから。
揺るがず、朽ちることも無く。


さあ、白紙のページに新たな楽土の物語を綴り始めようじゃないか。











(ラブ師匠は― 私の想いを知っているかい?)

20091204





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -