至福の時間に終止符を、




目が覚めて、隣にいつもあるはずもない温もりがあることに驚いた。が、ふと昨夜のことを思い出して『ああ、』と一人納得する。
昨夜のこと、草木の間で眠っているラブ師匠を見つけ、声をかけたが目を覚ますことはなく。
仕方なく近かった自室に運んでベッドに寝かせたまではいいものの、そのまま自分も眠ってしまった。それも彼を寝かせたベッドの中で。
つまりラブ師匠の隣に寝そべる形で。
言っておくけど、やましい事は何一つしていないから。
自分でも凄いと思うよ、あんな無防備な寝顔を見せられてキスの一つもしなかったなんて。
(いや、実はちょっと危なかったけどね、)

花のような淡い色の髪に、透き通るような白い肌、近寄れば微かに花の香りが漂って、見れば見るほど触れたくなるような。
これにそそられない方がおかしいだろう。それも無防備というおまけつき。
(危険だよまったく)

まあ、色々とそんな事があって今に至る訳で。
普段、彼が部屋にいないと知ると必ず探しにくるあの眼鏡、カストルは今は巡回司教の仕事でここにはいない。
だからこの温もりを朝まで傍に置いておけたのだ。
言わばチャンスだったのでは?と、少し後悔の波が押し寄せるが、思い返してみれば呼んでも起きなかったラブ師匠に何をしたとて、
ただの自己満足で終わっていただろう。

そんな思考の渦をぐるぐるさせながら、傍らに眠る姿に目をやればなんとも気持ち良さそうな寝顔に自然に微笑みが生まれる。

(今日は良いことがありそうだね)

目覚めて一番に見たのが尊敬する(愛する)ラブ師匠の寝顔なんて。
きっと今日の運勢は素晴らしいに違いない。

(眼鏡に見つかったら殺されるかもしれないけど)
何もしてないけど、この光景は見せられないよ。とばっちりを受けるのは自分なのだから。
いや、むしろ感謝されるべきでは?野良寝していたラブ師匠を部屋に運んだのだから。その運んだ部屋が問題なんだけど。
まあ、そんな過去のことは置いといて、確か巡回司教の交代日は今日だったはずだ。
だとすれば、帰ってきて一番に彼に会いに来るに違いない。その前にラブ師匠を起こしておかないと。

「まったく、愛されてるよね」

ふふ、と愁いを帯びた笑いがこぼれた。
自分が想ったとて相当敵いそうにない彼らの絆。悔しいけれどこれが現実。
今は傍に入れるだけでも十分だよ、と自分に言い聞かせて前にかかる前髪をかき上げた。
隣の温もりが少し、身じろいだ。
(さて、そろそろ祈祷の時間だし、)
この至福の時間に、終止符を打つ言葉を掛けよう。




「おはようラブ師匠、もう朝だよ」









20091104





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