満ち足りた愛敬




「あなたの言葉や仕種には本当に愛嬌がありますね」

カストルの言葉と共に長い指がゆるやかな風のように伸びてきて、頬をすべるように移動した指先は耳元を隠す髪の毛の間に滑り込む。さらりと髪をすくわれて、そのまま持ち上げられると手の平から零れたいくつかの髪が重力に従ってさらりと落ちた。
それが首筋にあたるものだから、ラブラドールはくすぐったくてくすりと笑った。
手先が器用なカストルの長い指が髪の毛を弄る度、なぜだかとても心地好い感覚に満たされて、子供を寝付ける時に髪を撫でる仕種、それに似ていると思った。

カストルは尚もラブラドールの髪を撫でる。撫でて、指ですくって、重力を受けてさらりと落ちる。そんな動作をしばらく繰り返した後、その横髪をラブラドールの耳にかけて満足げな笑みを浮かべた。

「小さくて可愛い耳ですね」なんて、丸見えになった片耳を褒めたたえるカストルの思考が分からなくて、「耳なんてみんな同じでしょう?」とラブラドールは首を傾げただけだった。「そんなことはありません、とても可愛いですよ」カストルの指先はまるで生まれたての雛でも触るように、優しく軟骨辺りから耳たぶへと縁をなぞりながらゆっくり滑る。
正面にあるカストルの顔がやけに近くに感じて、赤く染まる頬を隠すように僕は顔を俯けた。なんで耳なんかを、と言いかけた言葉は耳から背中に走る快楽によって沈められ、こんなことでも感じてしまう自身の身体の羞恥さに今度は耳まで赤くなりそうだ。

「可愛いですね」
「…っ、」

もう何度目だろうか、その言葉に息が詰まる。可愛いと言われるたびに反応するこの身体をきっと彼は知っていて、その反応を楽しむように繰り返す。
(あなたの言葉や仕種には本当に愛嬌がありますね)
この言葉と共に始まった愛の詰まった遊びはまるで、坂道を転がり落ちる石ころのように加速して、終わりがくるまで止まらない。終焉までも共にして、そして愛情と連鎖する。

耳を包み込むように触れたカストルの指先が、耳の裏側をなぞると、身体がびくりと震えた。きっとまたあの言葉がかけられる。それを阻止する為に僕は強引にカストルを引き寄せて口付けた。予想通り、驚いた表情のカストルにくすりと笑ってみせる。

「本当に、いつも言ってるけど意地悪だよ、カストル」
「これは私の愛情表現ですが」
「どうみても僕で楽しんでいるようにしかみえない」
「おや、ばれていましたか」
「それも分かっていたでしょう?本当に意地悪なんだから」

ふいっと頬を膨らませて拗ねた真似をする。また、「可愛いですね」とだけ返したカストルの指先は再び片耳をふわりと撫でて、僕はその感覚を刻み付けるようにただ目を閉じた。











20100819





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