艶やかに混ざり合う




植物の緑と空の青が混ざり合ってよく晴れた昼下がり。斜めにさす光りに手を伸ばすように伸びる蔦に微笑みながらラブラドールは後ろからかけられた声に振り向いて、もう一度微笑んだ。

「もうお仕事終わったの?」

白く真っ直ぐにのびる通路から規則正しい足音で歩いてきたカストルは、ラブラドールの問いかけに軽く肯定をして自然にラブラドールの隣へと移動する。
斜めに差し込む光りをさんさんと浴びて大きく開花する花、その光りを求めるように蔓を伸ばす蔦、色とりどりの色彩と葉の緑が混ざり合う庭園を見下ろせる窓際にカストルとラブラドールは並んで、晴れやかな昼下がりを満喫する花々を見下ろす形をとっていた。

「あなたも終わったのでしょう?」
「うん。終わったんだけど、今日は色々とやることがあって」
「やること…とは、花たちの世話ですか?」
「それもなんだけど、もうひとつ大事なこと」

くすくすと、「カストルには秘密」と笑ってみせるラブラドールに少し目を大きくしたカストルだったがそれはすぐにいつもの柔らかい笑みに戻った。
ラブラドールの“隠し事”は今に始まった事ではないが、やはり気になるのも本音の内で。

たとえば不安な隠し事の時はその不安を閉じ込めるように不自然な笑みをみせたり、悲しい隠し事はすぐに分かる。
今にも涙が零れそうなのに無理に笑顔をつくっても、周りの花たちはとても素直にラブラドールを心配するかのごとくゆらゆら揺れる。嬉しい隠し事はあたりまえだがその逆で、花のつぼみが綻ぶように微笑むのだからそれはそれで放っておけないというものだ。
周囲の司教たちはラブラドールのことを「いつも笑っていて何を考えてるか分からない」と言う人も多いが、少なくとも自分にとってはとても分かりやすい人だ、とカストルはくすりと笑う。

「秘密、と言われると余計聞きたくなるのが普通なのでは?」
「うーん、そうかもしれないけど…それでも秘密っていったら?」
「そうですね…例えばこうして、」

耳元に息を吹きかけられるように囁かれてラブラドールの体が小さく跳ねる。

「、ちょっと待ってカストル…!」

接近するカストルに抵抗しようと伸ばした腕は呆気なく白い壁に押さえつけられ、簡単に奪われてしまう唇。
こんなところでっ!と言葉にのせることも出来ず、固く結んだ唇をも慣れた動作で侵入してきた舌にやすやすと開かれて舌と舌が触れ合うざらりとした感覚に体がびくりと震えた。

「…っ、ん」

何度も吸い付かれ、一度離れかけたカストルの唇は離れる寸前で角度を変えてもう一度味わうようにラブラドールの口腔をなめ回す。
混ざり合った唾液同士はぴちゃぴちゃといやらしい音をたてた。

「ぅんっ、…カストル、!」

つうっと銀色の糸をひいてようやく開放された唇で叫ぶように名を呼べば、それすら楽しむようにくすりと笑うカストルに、ラブラドールの方が気恥ずかしくなって頬を染めるのだ。


「…例えばこうして、あなたが話してくれるのを待つ、とか」
「……悪趣味」

軽くにらめつけるように見上げるラブラドールに「光栄です」と告げたカストルは、潤うラブラドールの唇にそっと手を当てするりとなぞる。

「…それにしても甘いこの味は…、花の砂糖漬けでも食べましたか?」

先ほどの接吻で混ざり合った液体からは、ラブラドールの味のほかに甘いハーブのような味がしたのだ。
それをカストルに言われ、ラブラドールは心中をつかれたように一瞬どきりと心が揺れる。そして自分でも確かめるように自身の手をくちびるにあてがうと、「だから待ってって言ったのに、」言葉と共に吐き出されるあまい息。

「…さっきまで作ってたんだ、カストルにあげようと思って…」

秘密にしておいて驚かせるつもりだったんだよ。もう一度カストルをちらりと見上げ、せっかくの秘密が駄目になったことにラブラドールは表情を暗くする。そんなラブラドールの言葉に驚きの表情をみせたカストルは、しばし考えるように自身の顎の下に手を持ってくる。そして数秒の沈黙。
じっと見つめられているラブラドールはさすがに不審がって「カストル?」と名を呼んだ。

「いえ、そうだったんですね。……では、お言葉に甘えて存分にいただきましょうか」
「え…、ちょっと、カストル…!」

にこやかな笑みで微笑まれ、片手でぐいっと顎を持ち上げられる。すかさず差し込まれる舌にラブラドールは抵抗する間もなくぬるりとした感覚に再びびくりと震えた。
口内の味を舐めつくすように動きまわるカストルの舌がラブラドールの舌と絡み合うたび、口の端から銀色の液体がつうっと垂れて艶やかに糸をひく。
うすべに色のバラのように、あるいは水分をたくさん含んだ贅沢な桃のように、艶やかに色ずく唇をカストルは何度も角度を変えて口腔の甘味を味わう。

「はぁ、んっ…、」

呼吸をする暇も与えられず、潤む視界と火照る身体。苦しさに助けを求めてカストルの胸元をぎゅっと掴むも、うまく力が入れられなくて。痺れる感覚に膝ががくりと落ちそうになるのを必死に耐えるのが精一杯だ。

再び音をたてて、きつく吸われる。混ざり合う熱に、混ざり合うあつい息、あたたかな温度、ふわりと優しい感触、すべてが混ざり合って、ぐちゃぐちゃに溶けて艶やかに―


「ご馳走さまです」

ごくりと、あまくあまく混ざり合った液体を飲み込んでカストルはくすりと笑った。

「…もう、!カストルには絶対あげないからね…!」
「おやおや、ではせっかく作った花の砂糖漬けが無駄になってしまいますね」
「…っ、誰のせい…!」

口元を片手で隠すように覆いながら大きく肩で息をするラブラドール。そんなラブラドールに至福の笑みをみせていたカストルはふわりと柔らかい笑みに変え、ラブラドールを自身の胸へと優しく引き寄せた。

「ふふ、楽しみにしてますよ。…それに、いつもの砂糖漬けとは少し味が違った。花を変えたでしょう?」
「…え、分かるの…!?」
「もちろん。あなたの作るものですから」

いつものふわりと甘いローズも絶品だか、今日のは特に。ほどよい甘さと高貴なハーブの香り。なによりあなたの味と混ざり合ったのを直に味わったのだから。ふわふわと揺れる髪を揺らして見上げるラブラドールの、まだ少し潤んだ瞳とぶつかった。

「この独特の風味はクローブですよね。とても貴重な花だ。食べるのが楽しみです」

その時は是非、またあなたの味と混ざり合ったものを。ぼそりとラブラドールの耳元で囁いたら途端に頬をバラ色にするあなたが可愛くてカストルはまたくつくつと笑うのだ。













(クローブ 花言葉:高貴、神聖、貴重さ)

20101217





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