第16話・アクション







「空軍仕込みの運転頼むぜ、坊ちゃん」
「ジャックだ」
「ああはいはい」
『覚悟おし!誰も祝ってくれやしない船出よ!』

ディーンさんの通信に引っ張られるようにして、俺達は裏口を飛び出した。
立て付けの悪い戸を開いた先で表通りから皆を隠すように、小ぶりでアンバランスな防弾仕様を施された車がエンジンを吹かしていた。

扉は全てロックされ、中には誰も乗っていない。ディーンさん、と俺が呼ぶか否かのところで酒場の2階から鈍い音が立て続けに降って来た。慌ててドーリィを引き寄せて音が止むのを待つ。
何事かと俺を眺めるウェンルーを掠めるように、ディーンさんが物騒な手荷物を広い背に乗せ、生身の人間にしてはとてつもない轟音を立てて落ちて来た。

「さっすが、帝国警察も蹴散らす悪辣のディーンだな!レジスタンスと軍のハイブリッド野郎の方が量産サイボーグ坊ちゃんより信用できるかも、あいでっ」
「誰が野郎よ!せめて姉御とかもうちょっとテキセツな呼び方あるでしょ!それ出発!」

ウェンルーの頭部からも相当な衝撃音が聞こえた気がしたが、奴はただ肩をすくめて応えた。あと数ミリでディーンさんの下敷きだったと言うのに嫌に軽妙で、俺は何故かこいつとの場数の違いを感じた。
場数。俺だって一応徴兵経験はある。しかしこいつの場合は、誰もが死ぬか生きるかなんて考える暇のない街を一皮剥いた先、文字通りの裏社会で培ってきた修羅の経験に物を言わせ動いているのだ。

「ジャック、テキセツっぽいルートのテンプレだ。頼むぜ」

そして頭をさすりながら仕事もきちんとこなす。
この酒場から海尊街を突破して港にたどり着く為のルートだ。電脳に送られてきたそれには既に検問がいくつも書き込まれている。しかし言葉の壁も厚い他民族のるつぼが幸いして、未だ政府の手が追いついていない区画もこの街なら多少は残されている。要は検問を敷くまでの手間が侮れないのだ。
地図にも載らないような裏路地まで利用し尽くした道筋はピンクの線で示されていた。

「どうよ。俺もこの街で長らく仕事してた甲斐があったってもんだね」
「その結果が首チョンパでしょ?隅に置けないヤクザモンだわ全く」

ディーンさんの拳が唸る前にとウェンルーは助手席に乗り込む。後部座席はディーンさんとドーリィだ。俺はドーリィにブランケットを渡して銀の目としっかり視線を合わせた。

「今は俺が君を守る番だ。船に乗ったらゲームの続きをやろう」
「<今度は負けない>」
「ああ、君が勝つまで続投だ」
「良いじゃない、3人でやるゲームも教えてあげましょ」
「え、俺は?」
「ヤクザに点数稼ぎゲームやらせてどーすんのよ」

ディーンさんが俺に強烈なデコピンをしてから小指を立てた。ウェンルーまでやんやとはやし立てる。少なくともドーリィとはそういうもんじゃないんだけども。多分まだ。

ディーンさんがブランケットで彼女を包んで乗り込むのを確認し、俺はアクセルを思い切り踏み込んだ。戦地で乗ったジープより軽く、ここまで来る足にした二輪より重い。
電脳を接続してエンジンをかける。防壁、反応に問題なし。GPSはあらかじめ追跡防止の為切ってある。
道路にせり出す無秩序で派手な屋台をガンガン蹴散らしながら、俺達は港を目指した。
隣でウェンルーがわいわいはしゃいでいる。本当に何だこいつはというか、言及のしようがないと呆れているところに、あいつは何ら調子を変えずに俺を呼んだ。

「見直したぜ、『キトゥン・ブルー』も伊達じゃねえな」

ギアはトップのままだ。前方を向いたまま俺はウェンルーの胸倉を掴んだ。かろうじて呼吸が出来る程度に握力を抑えたのは我ながら上出来だったと思う。

「二度とその名称で呼ぶな」
「分かった、分かったよ、空軍仕込みの運転で頼むぜ坊ちゃん」
「ジャックだ」
「へいへい」

解放されたウェンルーはぜいぜいと荒ぶる呼吸を抑えるのに必死だ。ラフなスウェットの首元はぐにゃぐにゃとほつれ、指の形そのままに穴が空いていた。
とりあえずバックミラーでドーリィを確認する。右目は前方、左目は後方に向けてみたら、しっかりとディーンさんの睨みとかち合ってしまった。

「めっ」
「すみません」
「そのアクティブ過ぎる目ん玉もやめなさい」
「了解」

ディーンさんはブランケットで隠したドーリィをぽんぽんと叩く。窓から見えぬよう伏せて、姉御の膝にしっかりと掴まりバランスを取るあの子が垣間見えた。

「ドーリィ?」

ハンドルを目いっぱい切ってカーブを曲がる。車一台がぎりぎり通れるほどの裏路地だ。ここから暫くは壁を擦りながら無茶をするしかない。
ドーリィの青白い腕がブランケットからすーっと伸びて、遠心力と悪路にパタパタ揺れた。かと思えばディーンさんに軽く叩かれて引っ込む。

「掴まってろよ」

また伸びた鱗の光るその手はピース。心配はなさそうだ。
GPSを切っているので、網膜に広げたウェンルーの地図を文字通り頭に叩き込みながら俺は走った。路地を抜け、表通りで屋台を蹴散らし、たまに脂っこいジャンクフードを窓に受け止めながら。
助手席で拗ねている経済ヤクザの選定した道筋という時点でかなり癪だし、安全も危険もあったものではないが段々と屋台や店が海鮮を扱うそれに移り変わっていく。海が、港が近いのだ。初めて活路らしい活路に手ごたえを感じる。
しかしハンドルを握り直し、再び裏路地に入り込んだその時だった。

『CAUTION』
『DANGER』
『EMERGENCY』

機械の目が真っ赤な警戒に染まった。反応は視界上部に集中。近い。近過ぎる。
俺は目いっぱい自分の体を窓に張り付け、隣で何か叫んでいるウェンルーを突き飛ばしてドアに叩きつけた。
俺のジャケットの肘辺りが当然のように裂けた。いっそ美しささえ感じる切り口だった。すぐに手はひっこめたつもりだったのだが、予想以上に速い。でも確かに捉えた。
上だ。爪。複数本の刀と言っても良い。
それなりの装甲を施した屋根をパンか餠のようにあっさり貫通、音もたてず屋根の上へ戻っていった。

「あ、わりぃ、やっぱこれ俺狙い?」
「黙ってろ」

透視の邪魔だ。
屋根に空いた猫の目のような裂け目は見るも鮮やかだ。その向こうに繁華街のネオンと、そして明らかな人影が鋭く覗いている。
サーモセンサーでの感知はヒットだ。四つん這いの人間、無駄にボディラインを乱す装甲もなく、先ほどのスピードにも合点がいく。そして奴も俺と同様、体表温度が極端に低い。

全身サイボーグ。ますます猶予がない。

「ウェンルー」
「あいよ」

言うや否や、運転の主導権はウェンルーの電脳に移っていた。物分かりが良過ぎるのも癪に障る。しかしこれもドーリィを無事海に送り出し、俺が妹のもとに駆け付けるためのプロセスだ。
ウェンルーではなく俺の座るサイドの窓が砕け散る。外からだ。敵の踵が弓のようにしなり屋根に消えたのが辛うじて確認できた。
来い、ってか。窓の破片が俺達をはやし立てるように降り注ぐ。

「めちゃめちゃ読まれてるじゃねえか、頼むぞ」
「だからお前は黙ってろ!ディーンさん!」
『車内は任せなさいな!お行き!』

俺の目は透視モードのまま車内を走った。全員のバイタルサインを反射的に確認してしまう。味方の暖色で染まるシルエットの真上で掠める、青く冷たい人もどきの影。

そこだ。

俺は大きく外へと乗り出す。手持ちの中でも大振りのナイフを空へ向け突き上げた。
「切れ味バツグン」で言えば俺も良い勝負だ。
こちらのナイフも火花を散らし、奴の爪も盛大に刃こぼれを起こした。
花火のように散っていくセラミックやチタンの破片の、その1個1個が見える。
俺の目なら補足できる。

そして俺もまた、退役直後のサイボーグだ。

ナイフを咥えた俺の体は片腕を軸に車窓から躍り出る。全てがコマ送りのようだった。
屋根の縁が俺の手に合わせてひしゃげる。公用車に立てられた旗かアンテナのように俺の全身がしなり、はためいた。
敵とて無論それを見逃したりはしない。5本の爪が恐ろしく精密で素早く俺の急所に迫った。
俺はボンネットに身を翻し、それらをやり過ごした。こいつも俺と同様に、性能のうえでは劣るかもしれないが義眼を駆使して車内を伺っていたに違いない。その分、読みが容易い。

『武具:絶縁仕様』
『フロンティア・セラミック製』
『敵頭部・腹部:パラノイア・セラミック装甲』

そんな事は見て分かる。チタンのように重い金属を使っていたならあんな奇襲は不可能。それにぱっと見はアジアからくり出した武人のようだ。海尊が好んで開発、使用するフロンティア・セラミックは当然のように多用するだろうし、顔を守るゴーグルなど赤白のエキゾチックな仮面デザインだ。

『ジャック!前が見えねえよ!』

ウェンルーがケタケタ笑いながら、それでも正確に交差点を突っ切った。
同時に仮面サイボーグの攻勢。両手の爪が縦横無尽に空を裂く。

『DANGER』

「視野と体幹の同期、開始」

『承認:Set』


マット仕様の10本の爪が明確な殺意に熱を持つ。中々機能的で良く考えられたフォルムだ。この本数で両手を覆い、このスピードを奴は実現する。
俺の髪が数本捕まり、空しく宙を舞った。
潮時だ。


「Action」


俺はロボットじゃないし、この義眼も義体も声での認証は必要としない。しかしこれが俺のルーティン、宣戦布告の合図だ。
その時、俺は笑っていたと、ウェンルーに何かとからかわれるようになったのは大分先の話だ。



いつ聞いても凶悪な音がするものである。
大振りのククリナイフが爪と爪を割り開くように噛んだ音。車内に聞こえやしないかと少し気になったが、仮面男が犬歯を剥き出して俺の雑念を許さない。
弾倉で出番を待つ鉛玉のように次の一手。また次。連続で複雑な射線を描く刃。
車はまた急カーブに身を任せ、遠心力は奴にも俺にも味方する。

「透視済みだ!」

人型に成型されたサイボーグの弱点といえば、ジョイント。
ボンネットから跳ね上がる勢いに任せ。敵のモーションを人間の処理速度ギリギリまで鮮明に解析する眼を辿り。

ヒットだ。
突き出された両手、10本の刃をすり抜けてククリナイフが指の間にめり込む。

俺の細身にデザインされた上腕で、人工筋肉がエネルギーを充填したのが分かる。
一気に一点にそのエネルギーを込め、薙ぎ払った。
軍でも採用されている硬質な刀身は仮面男の爪を、指ごと破断した。
あと、6本。
右手にぶら下がる小指の1本はカウントしなくて良いかもしれない。

「次は、手首」

俺はボンネットから屋根へと滑るように飛び乗る。サイボーグ特有の潤滑油や人工の血液が俺の顔にも飛んできた。

『CAUTION』
『ヘモグロビン強化血清』

派手な見た目にそぐわず痛覚を切っていなかったのか、奴の口が見えない悲鳴に引き攣る。

「諦めて降りてくれるならこの場でやめにするんだけど」

猛スピードで駆ける車からネオンの1つ1つを読み取る事ができた。あの中の1つを指定して正確に叩きつけるぞ、とでも脅しても効果はあるだろうか。
しかし、男のブーツはいつの間にか変形し、鋭いスパイクを車にめり込ませてバランスを補助していた。
俺は小さく溜息を吐いた。グサ、グサ、と装甲を貫く音は耳障りだ。
こいつに言葉が通じているのか分からないし、通じていてもこの場で仕留める他はなさそうである。
ブーツに装着した刃、もとい小型ナイフ。素材は…

『チタン:やや粗悪』

仮面男の片足がぐっと力に滾る。
俺と同じように人造の筋肉は正確にエネルギーを充填、繰り出した蹴りはやはり速い。

スパイクとしての機能も兼ねた小型ナイフの群れはワニの口にそっくりだ。
無論、口は舌を絡め取り、切り裂き、喉奥まで貫く。閉じられない口は一直線に切り開かれる。
踵の骨をなぞるように、捌いた。
こいつ、俺が太ももにも細身のダガーを仕込んでいる事に気付いていなかったのだろうか。

いい加減痛覚を操作したのであろう仮面男は、未だ闘志を弱らせた様子はない。
ならばここで本物の口を割ってもらう必要がある。

『ジャック!銃撃!』

ディーンさんの通信は唐突だった。
仮面男より俺のククリナイフがコンマ数秒上回り、奴の防護のすき間にガッチリ食い込む。
スパイクがメリメリと屋根から剥がれる。防護からまた人工血液が噴き出す。
俺は制御を失い脱力した仮面のサイボーグ体を被った。
一瞬遅れて間断無きブーイングのような銃声。

銃弾はほぼ仮面男にめり込んで止まった。あの素早さにしては強固な義体だ。
すぐ後方に張り付いていたのは大振りの改造車だった。ここまで無理に運転して痕跡を沢山残してきた為か、街に慣れたギャングの手合いは流石、迅速だ。

『いけますか』
『任せなさいって言ったでしょ〜!』

俺が仮面男の残骸を蹴り落とすのと、ディーンさんがトランクを開くタイミングはほぼピッタリだった。
戦地で見慣れた重機が顔を出す。車に合わせて無理やり頭身を低く改造されたそれは、青紫色の粘っこい液体を正確に噴射した。

改造車は無論、避けようとハンドルを切った。だが液体は車の右半分を仕留め、スリップする間も与えない。
緋色の炎が軌跡の全てを覆い尽した。


割れた車窓から口笛の音が鳴り止まない。

「姉御ー!派手過ぎて惚れそうなんだけどどうしよー!」
「馬鹿言ってんじゃないわよ!このロン毛の頭でっかち!あんたが呼んだお客さんでしょに、これじゃ私たちがどこで何してるか丸分かりじゃないの!」
「心配ないって、ありゃ多分俺の実家と喧嘩してる組の奴らだ。そんなに立ち回りの上手い連中じゃねえよ!」

何が心配ないのか、さっぱり分からん。
口角泡を飛ばすディーンさんとウェンルーの間に滑り込むように、俺は運転席に戻った。軽口を叩きながらウェンルーが接続をシフトし、俺にハンドルを返す。
またバックミラーを確認してみた。
ドーリィ。
ブランケットから白く細い足が零れ落ちている。しっかりと折り畳まれたそれは微かに震えているように見えた。
戦闘ともなればこの目の精度は大変なものなのに。こういう時にはまるで役に立たない。


俺がアクセルに足を乗せた頃合いで、車は既に港のコンテナ街に差し掛かっていた。遮蔽物には困らない難所。俺は間を空けずにウェンルーへ運転を代わって鉄の箱ひとつひとつに目を走らせた。

「ジャック、あんまりやり過ぎると目が」
「でしょうね、いつもフォローしてもらって助かります」

狙撃銃なら人数分ある、と言いかけたディーンさんが鋭く周囲を確認した。

「見なさい、あれ。もうこの辺は大丈夫そうよ。すっごい気に食わないけど」

2時の方向だった。ディーンさんの武骨な指先が示す先、派手に刺繍を施された旗がピンと張って堂々とコンテナを睥睨している。
俺は思わず二度見した。

「ウェンルー、お前、何で先に言わなかった」
「あの時点で言ったって俺がそっちの血縁だなんて信じたか?お前」
「言ったら言ったで追い出したと思う」
「だろ?」

こんな所で見る筈のない集団の象徴、海尊でも生粋の大家が掲げる旗だ。そんな所の血縁者を連れて海に出るなんて自殺行為に近い。
ブランケットに包まったドーリィもいい加減起きてきて、何事かと辺りを見回している。
その視線がふと俺に留まり、縋るように手をさ迷わせてからぐっと両手を組み、握りしめた。
血が通っている。あの子の手は青く血の気を失ったり、力が抜けたところから繊細に血の気を取り戻したりと忙しい。

「ドーリィ、ごめんな」
「<怪我は?>」
「この目がある限り、俺は不死身だよ。君は?」
「<研究所で見た実験より怖くない、大丈夫>」
「かっこいーね、あんちゃん」
「お前は黙ってろ、いや、今すぐ降りてあの旗の持ち主と合流しろ」

ところがそうもいかない、とディーンさんが似合わない溜息をこぼした。
コンテナは例の大家によって制圧されたらしく、あちこちに血しぶきや血痕が遠慮なく散っている。

「ウェンルーの一族もやっぱり他の海尊と同じく、共和国やらその他の国での運輸が主な仕事でね。こっちに貴重な船を回す余裕がないってのと、…どうやらうちの組織の一部もこの子のお得意様だったのよ…」

ウェンルーは親指をぐっと立てて得意げだ。勝手にしろ、と言うべきか、ここで海に沈んだ方がお前も苦しまずに済むと凄むべきか。
つまり、こいつを一族に引き渡して万が一「オトシマエ」を付ける流れになっては、ウェンルーの握るグラディウスの情報が流出する恐れがある。それを避ける為の護衛も兼ねての結託だったというわけだ。

「お前の同行に目をつむるのもディーンさんへの恩だからな、あくまで」
「分かってるよ。何なら俺もジャック坊ちゃんへのお返しに、投資とかでドンと有り金増やしてやるくらいはできるぜ」
「所持金を金塊に変えて海に沈めた方がまだ有益だな」
「かもな、って、おい、無理に割り込むなよ」

半ば無理やりウェンルーからハンドルを取り返した。旗のたもとで待機する人員はどんな奴らだろうか。

「ジャック、意外と電脳の扱い上手いな」
「そりゃどうも」

なるべく静かに慎重に、船がアイドリングする「目的地」に停車する。ウェンルーから受け取った地図がパッと色を変え、電脳に投影した映像に花吹雪が散る。せめて出航してからにしろ、このヤクザモノめ。

『…パチモンではないですよね、あの旗』
『疑ってるヒマはないわ、乗り込むわよ。あたしが先に船内調べるから、ドーリィを抱っこしておやり。風邪でもひかれちゃ悪辣のディーンも名折れの骨折りよん』

ディーンさんがドスドス歩いて海尊系の組員達に会釈する。
会釈というか牽制というか、派手なスーツを着込んだ連中はウェンルーの姿を確認して明らかにホっとした様子だった。素早く1人が何処かに連絡を取り、他の数人はあの経済ヤクザに一礼する。

「ばあちゃんには『仕事のケリはキチンとつけてから顔出す』って伝えといてくれよ」

ウェンルーの背は心なし勇ましかった。


ディーンさんが橋を踏み抜くような勢いで乗り込む。あいつもそれに続いた。
残るは彼女。
後部座席を恐る恐る確認してみると、ドーリィが綺麗に畳んだブランケットを傍らに置いて俯いていた。流石に怖かったろうか。どこかに怪我は。潮の香りが車内に流れ込み、俺はあの水族館をぼんやりと思い出した。
ドーリィのバイザーがゆっくりとこちらを向く。

「<腰が抜けちゃったみたい…>」

若干熱を持った俺の義眼がバイザーに映り込んだ。自覚は無かったが、まん丸に見開かれている。

「<でも、今度こそ海では私が貴方を守る>」
「ああ、頼むよ」

ドーリィの顔は心なし恥ずかし気に紅潮していた。


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