第15話・不確定ギャング







うす汚れた天井をぼんやり眺めていると、頭も丁度良いくらいにぼんやりしてくる。
大事な事は何だろうか。明日の事、妹の事、ドーリィの事、レジスタンスとの交渉。何処かにとっかかりを掴む為、俺の電脳は俯瞰を続けた。

ディーンさんが外を張ってくれている間に1時間ほどの仮眠は取れた。この時ばかりは機械の身体と目を有難く思う。脳を休めれば後は事足りるので、戦地でもこの人工的な体質は有利に働いたものだ。
時刻は日付が変わって間も無い。とっくに夜明け前かと思っていたのに、あれだけ濃密な時間を過ごしたせいか体感時間とのずれを感じた。でも昼間より頭はむしろスッキリしている。嫌なくらいに今後の懸念がハッキリと脳裏を駆け巡るが、まだ俯瞰モードでそれらを直視するのは避けたい。
そもそも多くの人に助けられ、足掛かりを用意してもらったうえで状況をある程度打破する事が出来たのだから、彼らの庇護から離れ、その足掛かりを最大限に自分はどこまで利用できるのか、それを考えるには視野を広く保たねばならないのだ。

俺はもがくように寝返りを打った。衣擦れの音に呼応するように、シーツで作った仕切りの向こうが急に明るくなる。

「ドーリィ?」

万が一寝ていても良いようにと小声で呼んでみた。音もなくシーツがたわんで、あの子がにゅっと顔を出した。銀の髪がうすぼんやりとしたパッドのブルーライトを受けてキラキラ輝く。こうして見ると雲母の細工物を固めたような多重構造の瞳はやはり、人間のそれではない。

「<ジャックが起きるまで待ってた>」

パッドにメッセージが浮かび上がる。

「まさかずっと起きてたの」

ドーリィはこっくりと頷いた。心なしふわふわとしたその動きが気になって仕方がない。

「君も相当疲れてる筈だ。俺が見張りをしてる間くらいは横になった方が良いよ」

彼女は動かない。パッドを両手に抱えて、ただでさえ表情の乏しい顔をこちらに向けたまま動かない。何を待っているのか、期待しているのか。休む事が最優先の筈なのだけど、仕方がない。俺を待っていたというならそれに付き合うのが妥当だ。

「少し、聞いても良いかな。君の事」
「<私が分かる範囲であれば>」
「もちろんだよ」
「<ジャック、それ、もっと飲む?>」

ドーリィは半分ほど中身を残すビール瓶をコツコツ叩いた。あの桜に青みを加えたような綺麗な爪が折れないかと、少し心配になった。

「いや、今は良い」
「<味見して良い?>」
「駄目。どうみても君は飲んで良い年齢に見えない。いや、幾つかは知らないけど」
「<16歳は、飲んだら駄目?>」
「駄目」

16歳の頃と言ったら自分は軍で水代わりに酒をあおってた気がするが、機械の肝臓あってこその荒業だったのでそれは言わないでおく。
どうして駄目なのか、と食い下がるドーリィに、俺はアルコール飲料のキツさをとつとつと説明するはめになった。この店の大概の飲み物にアルコールが含まれると聞いてあの子は心なしか青ざめ、

「<失明><有毒>」

と空恐ろしい単語で俺に訴えた。

「それはメチルで、飲用はエチルだよ」
「<どっちもパパやおじさんと燃やして遊んだ。あれが飲めるなんて思わなかった>」
「エチルね、エチル。メチルまで触らせてもらってたとは知らなかったけど」

先ほどからドーリィは落ち着かない様子でビールを見つめている。どうしたのか、と聞く前に彼女は、

「<それは燃える?>」

と不安げに訊ねてきた。本当に外の世界を直に体験する機会が少ないか、ゼロに等しかったのだろう。そんな彼女にこの世界を、闇に覆われた領域の方が広いようなこの社会を見せて良いものか。気おくれする余裕はないが、彼女を外の世界に慣らしていくのもきっと俺達の役目だ。

「燃えるような種類の酒は俺も得意じゃないんだ」

ドーリィは目をまん丸にして周囲の空き瓶を見渡した。その慌てふためく様子がおかしくて可愛くて、俺は俯瞰モードの思考をやっと現実にシフトする事ができた。

「あれから塔一おじさんからメッセージとか来てない?」

ドーリィは首を振った。俺も、偽造IDを使っているからには仕方ないが誰からもメッセージを受け取っていない。今後の指針は特になしか。にしても、「塔一」という名は発音しにくい。古い名前なのか、あの男のモンゴロイド系の風貌から察するにアジア系独特の名づけなのか。はっきりはしないが、海尊で見かける姓名とは少し響きが異なるように思えた。

「<ジャックもメッセージ、来てない?>」
「君の事を頼む、っていう手書きの伝言が最後だったよ。水族館で君と会った時に受け取ったきりさ。…ドーリィ、おじさんは研究所で何をする人だったの?」

あの子はゆっくりと俯かせて考えた。見るからに眠そうで、水族館で恐れも何も見せなかったキメラと同一人物に思えない程、幼い印象が増す。

「<難しい研究>」
「…研究員だったんだね、あれでも」

ドーリィは青白い指先を滑らせる。パッドはシティ全体の地図に切り替わり、スムーズに北の方角へスライドしたかと思うとある施設を素早く拡大した。

「軍直下…研究連携施設」

嫌な予感がまた的中してしまった。彼女のようなキメラを作り出せるレベルの施設といったら、帝国内ではここしかない。あの男が政府に噛んでいるのはこれで明白だ。
軍直下研究連携施設とは、『良家』の居住区内で古くから運営されてきたブラックボックス統合研究所と文字通り連携して、手広く軍の技術革新に携わる施設だ。『良家』と帝国が同盟により、居住に適した清浄な領土を守るべく手を結んでから設立されたと聞かされている。
恐らく、研究所や施設の上層、下手をすれば中間にあたる層の人間まで、安濃津がどこから来るのか当然のように把握していたに違いない。ダンクルを「作る」研究はほぼ公然としたものだったのだ。知らされていないのは末端の、それこそアレクさんのようなポジションの者だけで、襲撃のたびに多くの人間が無駄に踊らされていたに違いない。

「1人でここから出てきたの?」
「<おじさんの作ったホールで水族館まで送ってもらった。おじさんにもその距離を転送するくらいのエネルギーしか残ってなかった>」
「ホール…」

ホール。または中継空間路。またきな臭いものが絡んできたものだ。
あれはワープと言ってもいいかもしれない。『良家』の中でも相当に権力を持った御家でなければ使用権限のないツールだ。俺がその名称を聞いたのも研究所、もとい『良家』の敷地への出入りを許可されてからだが。
ますます、あの男の立ち位置が怪しくなってくる。『良家』の人間のルーツは言うまでもなく極東の亡国だが、混血が進んで稀に赤子に蒙古斑が出る程度しか血統の名残は残されていない。その『良家』の中でも上の上で、あの海尊と見紛う容姿を保っていたあの男。
…だんだん、昼間に嫌というほど対峙した嫌味な笑いを思い出しながら推論を組み立てるのが嫌になってきた。

「ドーリィ、君の事が聞きたい。君自身が知ってる事で良いから」
「<私の事>」
「…あー、研究所でずっと暮してたの?」
「<今日、初めて外に出た。外のお話だけはおじさんが勉強を教えながら時々聞かせてくれた>」
「……おじさんって、何でもできたんだね」

あの子は不意に首を振った。

「<あの人も、施設から殆ど出してもらえない人。いつも図書館で本を読んでた>」
「あんなに強そうで、ホールを使う権限も持ってたのに?」

ドーリィの視線が初めて俺から逸れた。少し、失くした筈の心臓にすき間風が入ったような気分になった。

「<決して、怖い人ではなかった>」

ドーリィはどこを見ているのかは分からない。もしかしたらここではないどこかに、何か大事な物を忘れてきたのかもしれない。彼女の生い立ちからして、それを元々持ち合わせていたかどうかも定かではないが。
良く見ると彼女の肌には薄く淡い、透明な鱗が見えた。肩口に向かうほどそれは密になり、エラを仕舞う為の間隙に沿って美しい彫りを描く。その微細な肌がここに至るまでに乾燥したり、変にひび割れてしまったりしないか不安になったが、流石に直に触るのは憚られた。

「<本当は、私は私の事をあまり良く知らない。貴方は私を知る鍵だと、あの人は最後に教えてくれた。今を逃したら知る機会はもう来ないかもしれない>」

急に彼女が俺に向き直った。危うくパッドにビール瓶をヒットさせそうになった。
ドーリィなりの告白。俺はそのように捉えた。

「<私はどうやって作られたのか、どうして作られたのか。ジャックがきっと知りたかった事は、私自身もまだ知らない>」
「…それを明らかにする為にも、俺の事を助けてくれたってわけか。それは俺も一緒だよ。自分や妹の未来を切り開く為に君を助けようと思った」

ドーリィは微笑んで、俺に右手を差し出した。咄嗟の事にまた俺がまごついていたら、その白い手は俺の湿った頭をくしゃくしゃ撫でた。

「<実は、水族館で貴方がジャックだって判断する前に、ああして『行動』に出た。貴方がジャックで良かった>」

俺は顔が赤らんでいるのが彼女に見えやしないか、それだけが気になった。
頭の上で踊る手を捕まえて、俺は今度こそ彼女と固い握手を交わした。
「文字で嘘を吐くなんて器用だな。あの時の君の目は絶対、俺の事を分かってた」

彼女は虚をつかれたのか、少し目を丸くして微笑みを深くした。
ごく薄い鱗が手のひらで知覚され、網膜に「解析結果:魚鱗に近い被膜」と表示された。ドーリィに関する情報をインプットしておいたせいだろうか、やたら語彙選びが詳しい。


ドーリィがあんまり眠れないとごねるので、パッドで手ごろなボードゲームを広げていた時。突然、天井のハッチが開いて鋭い光が地下室に走った。ドタドタと足音も聞こえる。ディーンさんか、はたまた追手か。俺はスタンロッドを腕から抜き出そうと身構えた。
ハッチからぬっと顔が突っ込まれ、遅れて髪が一束重力に任せて垂れさがる。

「お楽しみかい、坊ちゃんども」

聞き覚えのある声だった。腕の変形や展開を途中で止めてしまうくらい俺は驚いた。下手をすればここ2か月、1番聞き慣れた声かもしれない。今日の昼間にカフェで一緒にコーヒーをあおったばかりだ。その時のコーヒーの味まで覚えている。

「…ウェンルー」
「もうちょっと派手にリアクションしてくれても良いじゃねえか。久々の再会だぜ」
「昼間会ったばかりだろ」
「だからもうちょっと、もうひと押しリアクションを」

鈍い音と共に奴は吹っ飛び、危うくこっちへ落下かというところでひっつめた黒髪をリードのように掴まれ、ずるずる上半身が地上に戻っていった。


「ディーンさん、何でそいつ…」
「まずは上がって来なさい。思ったより時間が押してるのよん。こういう時にエマージェンシー突っ込んでくるのが海尊クオリティよね、全く」

エマージェンシー、ウェンルー。
まだまだ事態は俺の知らないところで勝手に展開を進めているらしい。


ドーリィを後に連れて地上に戻った先、背中にくっきりとディーンさんの靴跡をつけて、ウェンルーは何やら話し込んでいた。耳に手をあててじっと無言を保つ。電脳で通信か処理を行っている事を周囲に示すジェスチャーで、電脳が普及してから自然と世界に定着したしぐさだ。大概の人間は通信中なら僅かに口が動く。

ディーンさんはウェンルーが顔を上げるや否や、首根っこを掴んで無理やりこちらに前身を向けた。

「こいつも同行する事になったわ。あんた達、こいつのせいで思ったより事態が変な方向に向かってるから、今すぐここを出て港に向かうわよ」

精神まで筋力の塊かと思わせるほどに豪胆な、あのディーンさんの顔が苦み走っている。その横でウェンルーはにやりと気味の悪い笑いを浮かべた。

「よろしく頼むわ」
「何で」
「ルームメイトがジャックだったからバレなかったんでしょうね〜…気をつけなさい、あんた達。こいつ結構なタヌキボーイよ」

だんだん、先ほどとはまた違った嫌な予感が足元から上って来る。笑いを堪えながら頷くウェンルーをじっと睨むも、彼の雰囲気その他諸々はこの2か月見てきたそれと何ら変わりない。
俺と歳はそう変わらない筈なのに、会った当初からどこか大人びていてそこが好印象だった。だったのだが、あれは大人というより、老獪からくる落ち着きだったのかもしれない。

「いやー、実は、ごふっ」

みぞおちにディーンさんの拳がめり込んだが、俺の元ルームメイトはまだ笑っている。どうやら俺の周りは研究所に入った当初から不穏な予兆でいっぱいだったみたいだ。

「こいつのつるんでたギャング内で着服がばれてね、命からがらって奴。本当なら手を貸す義理はないんだけど、依頼が海尊の超ド級VIPから来ちゃったのよ。このガキ、結構ヤバイとこの血縁らしいわ」
「ギャング、着服…」

しばらくむせていたウェンルーがくっくと笑いながら間に入った。

「こ汚い単語には疎いね、ジャック坊ちゃん。要するに経済ヤクザやってて足がついちまったんだ。このままじゃ首切りどころじゃ済まない。というわけで、金ならあるから連れてってくれ」
「…正確には金しかないんじゃないか?」
「ところがコネもかなりある」
「そっちのコネを使って逃げれば良いじゃないか」
「使い道と使い時があるんだよ、コネってのも。今回で言うならプルゴ・グラディウスのボスとのコネが一等逃亡手段にピッタリだったってわけ」

俺は精一杯嫌悪を顔に出したつもりだった。俺の背後ではドーリィが興味深げにウェンルーを眺めている。彼女にはできれば、いや、絶対に近づけたくない人種だ。

「<おじさんとちょっと似てる。髪の色とか>」
「多分おじさんの方が物分かりが良いと思うよ。あと品格みたいなものが違う」
「<品格>」
「…おじさんも結構暴れ者だったけども、こいつよりマシだった」

俺達白人から見る分にはアジア系や黒人は風貌の区別が付きにくいのだが、名の響きが安濃津とウェンルーでは若干異なる気がするし、ウェンルーの血縁そのものも明らかにギャング寄りだ。
前に出ようと興味津々のドーリィをけん制していたら、案の定ウェンルーが彼女よりもっと目を輝かせてこちらに接近を試みた。そこにディーンさんが首を折る勢いで襟首に手をかけ、引きずり倒す。
流石、踏んできた場数が違うのだろう。ウェンルーは顔を目いっぱい床にぶつけてもどこ吹く風でドーリィから目を離さない。

「えらい上物のキメラ捕まえてきたじゃねえか、お前もすみに置けないな」
「そんなんじゃない。第一、君、研究員って安定した地位も得ておいて何をやってたんだ」
「あー、つまんない事ほざくのはほんっと変わんないねえ。分かるだろ、安定しててそんなに収入も目立たねえジョブじゃヒマ死にするぜ?マネーゲームほど実益バッチリのゲームは無し、ってな」
「そのヒマを潰した結果が逃亡じゃ、元も子もないだろ。優秀なルームメイトだと思ってたのに」
「平和ボケしてつまんねえ同居人に見せるにゃ、もったいない表の顔だったかもな?」

次第に、俺の声が意に反して押さえつけたように低くなっていくのが分かった。俺は怒り、失望しているのだ。こんな男と長らく寝食を共にし、ゲームをやったり同じ課題を片付けたり、共同研究をしていたなんて。
ディーンさんが幅広の体でウェンルーを俺の視野から隠してくれなかったら、拳骨の一発でもかましていたかもしれない。

「…ジャック、やっぱり私もついてくわ。あんたに拒否権は無し。すぐに支度するけど、夜食でも包んで待ってなさい。ドーリィがこんな綺麗なキメラって時点で今回の危険度はそれなりだったから、こんくらいの事なら心配ないわよ。組織の本部ですぐ決着つけたげるわん」
「この子を傷つけたくないんだ。お願いします」

ディーンさんは満面のスマイルと共に、力こぶをバシっと叩いた。その手に揺れるのはドーリィのバイザーだ。まさかこれを解析したのはウェンルーだろうか、と疑念が過ったがウェンルーが横からかすめ取らんばかりに興味を示したので、ディーンさんに限ってそれは無さそうだ。
綺麗に磨かれて戻って来たバイザーを受け取ったドーリィは、無表情なりにとても嬉しそうだった。


先に「俺も含めて外の世界の人間はあんまり信用しない方が良い」と、ドーリィに教えておくべきだったかもしれない。何かにつけてあの経済ヤクザはドーリィに接近を試みる。何度も肩口に触ろうとするし、流石に首元で揺らぐ彼女のエラを引っ張ろうとした辺りで遂に俺の頭が沸点を超えた。

「その子、皮膚とか臓器とか目とかばらす方が売れるクチじゃね?」

彼は人を怒らせる天才のようである。このような一面は流石に2か月程度の同居生活では分からない。俺はそう自分に言い聞かせた。

「君も本当なら生体パーツに加工されて売られるはずだったんだろう、ウェンルー」
「そんなヘマしねえよ。第一最近は培養物の方が格安かつ高品質。お勉強はしただろ」
「彼女に妙な真似をしたら、グラディウスのコネを失う前に君の指は全部カットされる筈だ」
「お前のその機械の手でへし折られるんだろ?」

柳に風、カエルに水だ。政府からの追手よりもこいつの方がタチが悪いんじゃないだろうか。

「君はディーンさん率いるレジスタンスの中で何の使い道があるんだ?」
「言うね。俺は自分で自分の脳みそに鍵をかけてんだ。誰にも解けないような複雑な奴をな。解いたらあちこちの学者やら貴族やら、お高くとまった資産家のゴシップが手に入る」

それがこいつの言う「コネ」か。話すほどに呆れるような真実が湧くので、俺の眉間は皺を刻んだまま一向に戻らない。

「それくらいしねえと面白くねえんだよ、ゲームってのはな。キメラのお嬢ちゃんなら分かるだろ?駆け引きだよ。俺にはこの暗号化された電脳があるから組織と取引ができる。お嬢ちゃんは恐らく、DNAとかその宝石みたいな目ん玉とかがウリだ」

ドーリィは首をかしげるばかりで、ウェンルーの悪意ある真意には気付いていない。
始めこそ彼女も俺の不機嫌な様子を気にかけていたものの、時折聞こえる耳慣れない言葉に段々と関心を奪われ、時々俺をつついて解説を求めた。バイザーは足がつかないようにオフラインにされているため、検索ができないらしい。それでも聞かせるにはあんまりなスラングを訊ねに来るので、どうにもしようがなくなってきた。それをウェンルーはゲラゲラ笑いながら酒のつまみにする。何だこれは。どういうわけで俺は、深夜にヤのつく男に酒を飲ませているんだ。

俺がいい加減ウェンルーにスピリタスでも注ごうかと考え始めた頃、やっとディーンさんから通信が入った。外に手ごろな車で乗りつけたらしい。
予想より時間がないと言うには随分装甲のしっかりした車種を手配してくれたようだ。アイドリング音が腹の奥にまで響いて、俺は少しだけ戦場の匂いを思い出した。

「<凄い音。ヘビー・メタルみたい>」
「まあ、言う通りの『重い金属』だろうな。ジャック、お前運転しろよ。俺は助手席で…お、良いウィスキーあるじゃん、ドライブに最適だな」

言われなくても、こんな奴に今後のハンドルを握らせる筈がない。
俺はこういう奴らからドーリィや妹を守る。それだけだ。


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