小説

「・・・煽ってるの?」
「違います!服がなくなってて!」
「犯人は僕じゃないよ」
「・・・ベ、別ニ疑ッテマセンヨ」
バスタオル一枚で浴室から出てきたナマエちゃんに、思わず目を見開く。口を尖らせ、視線が泳いでいる。完全に僕を疑っているんだろうが、誓ってなにもしていない。突然部屋や物が出現する空間なのだ、反対に消えるものがあっても不思議ではない。そして消えるのが"モノ"だけとは限らない。指示に従うしか解決法がない今、あまり時間はかけない方が良いだろう。
「これ、どうする?」
メモを持ち上げてチラつかせれば、忘れてたと言いたげに、ゲッと歪む顔。それもそうだ。今回の指示はさすがの僕でもキツイ。

「"自慰をする"。一応聞くけど、僕がするしかないよね?」
「ッ!そ、その・・・できればお願いしたい・・・ですけど」
「僕はナマエちゃんがするのも全然アリだと思ってるんだけど」
「えっ!?わ、私が!?」
「冗談だよ。でも、"協力"はしてくれるよね?」
一瞬、青ざめた表情が困惑の表情へ変わり、小さな声で呟かれた了承の言葉に口角が上がる。さすがに僕だって、この状況下でオナニーしろと言われて簡単に勃つ自信はない。目の前の彼女を見やれば湯冷めの為か、バスタオルから覗く白い足がモゾモゾしているのが少し気になる。
「寒いなら、布団入る?」
「そ、それはダメでしょ!超えたらダメな一線!」
「じゃあ僕がするの、そこで見てる?」
わざと目の前でズボンに手を掛ければ、顔を真っ赤に染め上げ、布団へ飛び込むようにすっぽり隠れてしまった。笑いを押し殺しながら静かにズボンだけを脱ぎ、シャツと下着一枚で布団へ入る。

「五条さん・・・その・・・」
「んー?」
「お、お手伝いって、具体的にはなにをしたらいいんでしょう」
僕に自慰をさせることに後ろめたさがあるのだろう、風呂上がりのほんのり蒸気した顔と、潤んだ瞳で見つめられ、下半身が熱を持ち始める。
「んー、とりあえず勃たないと始まらないからさ。見てもいい?」
「ダ、ダメ!」
「じゃあ触るのは?」
「もっとダメ!」
当然の拒否反応にどうすべきか、黙ったまま思考を巡らせれば、モゾモゾと僕に背中を向けはじめたナマエちゃん。
「見るのはダメ、です。ちょっと触るだけ・・・なら」
語尾につれ声が小さくなり、布団の中で小さく身体を丸めてしまった姿に、少しずつ興奮が蘇る。メモを確認した後に出現した、ピンクの液体が入った小瓶。甘ったるい匂いが鼻を掠めた瞬間、抑えきれない強い性衝動に駆られたが、あれは恐らく媚薬の一種だろう。匂いだけであれ程の効果があるのだ、飲んでしまえばどうなるか、想像に容易い。テレビもスマホもないこの空間で、行為が進みやすいようにと出現したであろう媚薬に、決して手をつけないよう釘を刺して正解だった。
「本当に触っていいの?」
「き、聞かないで!」
髪の隙間から覗く耳は真っ赤で、身体は小刻みに震えている。本気で嫌がったら、あの媚薬を飲んで一人で済ませようとは思っていたが、性衝動がすぐに治るとも限らない。本人も勇気を振り絞っての進言なのだ、気持ちを汲むのも優しさだろう。
右手でそっと肩に触れれば、ビクンッと大きく跳ねる身体。少し大袈裟な反応の気がするが、怖がらせないよう、優しく肩を撫でれば次第に荒くなる呼吸。
「ナマエちゃん?本当に大丈夫?」
明らかに様子がおかしい彼女へ声を掛ければ、今にも泣き出しそうな瞳と目が合う。

五条さん、助けて・・・

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