「へ?」
「お風呂・・・みたいだね。一緒に入る?」
「なっ!入りませんよ!変なこと言わないでください!」
スキップでもしそうな勢いで出現したドアに向かったナマエちゃん。恐らく出口ではないだろう、こんな簡単な指令をクリアしたところで出口が出現するとは思えない。引き止めようと声を掛けたが遅かった。開かれた扉の先には、シャワーと浴室。先程のメモといい、この部屋が何をさせようとしているのか、容易に想像がつく。
「お風呂がご褒美・・・ってこと?」
頭上にクエスチョンマークをいくつも浮かべている彼女を後目に、一人思考を巡らせる。一枚目のメモにあった指示は"名前を呼ぶ"。そして、二枚目のメモは"キスをする"。一枚目とは異なり、特に細かい指示がなかった為、どう対処するかしばらく悩んだ。付き合ってもいない、ましてや接点もほとんどなかった僕に突然キスを迫られたら恐怖でしかないだろう。
物は試しと、抱きしめて良い香りのする髪へ口付けを落とせば、扉は出現した。ナマエちゃんが想像以上の反応を見せたのだけは、予想外だったけどね。
「どこかに次のメモがないかな」
早く解放されたいのだろう、出現した浴室へ恐る恐る踏み入れ、洗面器の下や椅子の下までくまなく探している姿を見守る。メモ探しは彼女に任せるとして。この呪霊の意図が未だに読み取れない。過去に派遣された窓や術師の行方も知れぬまま、気づいた時には僕も、この真っ白な部屋に迷い込んでいた。推測するに、メモに書かれた要求をクリアし続ければ出られるのだろうが、内容が内容だ。一枚目と二枚目のメモで指示が異なるように、三枚目のメモも異なる指示があるのだろう。そして恐らく、いや、確実に要求はエスカレートする。
「あ、あった!ありましたよ!五条さん!」
まるで宝探しで宝物を見つけたように、嬉しそうに喜んでいるナマエちゃんを見つめる。僕の推測が正しければ、次に要求される内容は・・・。
「どうする?また僕が確認しようか?」
「いえ、今度は私が確認します」
「・・・そう。いいよ、任せる」
どこか強い意志を孕んだ瞳で見つめ返され、両手を上げて降参のポーズをとる。僕はキミの為を思って言ったんだけどね。静かにメモを開く様子を観察すれば、目を見開いた後に真っ赤に染まる顔。
「なんて書いてあった?」
「・・・い、言えません」
「じゃあ見てもいい?」
「だ、だめ!絶対にだめ!」
メモを後ろ手に隠して後退りするナマエちゃんを、ジリジリと追い詰める。どうして?教えてくれないなら見せてよ、なんて、わざと言葉にすれば羞恥心から小刻みに震えた身体と、目尻に溜まった生理的な涙にゾクゾクする。
ドンッ
壁まで追い詰めた彼女の顔の横に手をつけば、観念したように差し出されるメモ。つい数分前までは気遣える余裕があったのに、なぜか急に加虐心を焚きつけられ、自分でも違和感を感じながらもメモに目を通して納得する。
振り返った背後には甘い香りの小瓶