「ギャッ!」
醜い断末魔を上げて消えた呪霊。今ので恐らく最後だろう。無駄に広い病院中を歩き回り、もうクタクタだ。玉犬は落とし物を見つけられただろうか。ふと、帷の降りた窓の外を眺め、時間を確認しようとポケットからスマホを取り出し、愕然とする。
メッセージ 1件
不在着信 1件
そうだった、この人のことを忘れてた。
途端にバクバクと音を立てて暴れ出す心臓をなんとか落ち着け、任務中であることも忘れ、ロックを解除して五条悟の文字に触れる。既読にならなかったから確認で電話したんだろうか。いや、伊地知さんのことだ。きっと事細かく報連相しているに違いない。まさか、実家のこと?背中をイヤな汗が伝う中、鳴り続けるコール音に生きた心地がしない。
『はい』
「あっ、五条さん、気づかなくてすみません」
『あー、ナマエ!おつかれサマンサー!』
「お疲れ様です。その、なにかありました?」
『んー?別に大したことじゃないんだけどさ。先週、中間テストあったんでしょ?どうだったかなーって』
マズイ、非常にマズイ。
担任が腹を立てて連絡したのだろう、五条さんはどこまで知っている?点数までバレてる?正直に話すべきなのか、なんとか誤魔化してみる・・・?、どうする!?
『黙ってるってことは赤点取ったんでしょ。お前、昔っから勉強嫌いだもんね』
「再テストは頑張ります」
『先週、じじいから電話があったんだ。ナマエ、自分の立場分かってるよね?本気でやらないと「大丈夫です、心配しないでください。ちゃんと・・・ちゃんとやりますから」
噛み締めた唇から血の味がする。
自分の人生なのに、他人に手綱を握られているこの感覚。いい加減、うんざりする。さっさと終わらせて帰らなきゃ。徹夜してでも頭に答えを叩き込まなきゃ。
「恵に教えてもらえばいいじゃん」
「へ?」
「お勉強、教えて?って可愛く頼めば、お前でも理解できるように丁寧に教えてくれるだろ」
「私のことバカにしすぎじゃないですか?」
「ははは!まぁ、成績不審を理由に実家に連れ戻されたくないなら、ツンツンしてないで誰かに甘えないと。僕が教えてあげたいのは山々なんだけど忙しいからね!」
ほんっと性格悪いんだから。
勢いで通話を切り掛けたが、残った理性でなんとか堪える。わざと煽ってる事だって分かってる、そのくらい本気でやらないといけないんだ。実家も高専入学前に連れ戻そうと本気なのだろう。悔しいけど、私一人の力では迫りくる手から逃げ切ることはできない。
「私は・・・絶対に戻りません」
『分かってるよ』