小説

「ナマエさん、お疲れ様です。あの後、大丈夫でしたか?」
五条さんに無理矢理押し付けられた映画を観終え、足早に高専へ戻ればフラフラと寮へ向かうナマエさんの姿に足を止める。
振り向いた表情は一見いつも通りだが、目が赤く腫れている。それに・・・
「首元が赤くなってますが、虫に刺されました?」
「へっ!?あ、ああ!こ、これ?そうなの!」
「複数箇所刺されてるようですが、大丈夫ですか?よく効く薬がありますよ」
「だ、だ、だ、大丈夫!ほら、たまに悪い虫が出るんだよ!今度見つけたら、パチンって一思いに」
「へー?悪い虫が出たら一思いにどうするって?」

サーッと音を立てながら血の気が引いたナマエさんに、なぜか他人事とは思えなくて同情する。ワタワタと慌てて言い訳を始めた姿に、朝とは少し異なる印象を受ける。
五条さんもナマエさんの首元を触ったり、髪を撫でたり・・・この二人、距離感おかしくないか?
「あ、伊地知。映画どうだった?」
「へっ、あっ、ああ、大変良かったです。さすがにカップルの中に一人紛れて観るのは心苦しかったですが・・・」
「カッ、カップルシート!?」
なぜナマエさんがそこまで驚くのだろう。目を大きく見開き、何度も瞬きをしながら見つめられ惨めさが増す。

「どうせ思い出せないなら大した事じゃないって思ったんだろ。僕はお前とゆっくり映画観ようと思ってたのに」
「うっ・・・、その節はどうもすみませんでした」
「伊地知、映画の感想、ゆっくり聞かせてよ。もちろんナマエも一緒にこのまま聞くからさ」
ニッコリと笑った五条さんはナマエさんを後ろから抱きしめ、逃げないように拘束している。対してナマエさんは嫌がる素振りも見せず、顔を真っ赤に染め上げてほんの少し俯いている。
あれ、もしかしてこの二人って・・・。

見せつけは他所でやってください

- ナノ -