小説

マズイことになった。行方不明者を探す為に派遣された術師と補助監督までもが行方不明になる、とんでもない案件。頭を抱えた上層部がお鉢を回したのは、特級呪術師の五条さんだ。しかもこの呪霊、やっかいなことに出現条件がある。必ず男女ペアでないと、姿を表さないのだ。補助監督のスケジュール表に書かれた女性補助監督の氏名を追うが、いかんせん人手不足。更に女性となると数が限られる。
「ふぅー。ココの任務を私と入れ替えれば」
「なにしてんの?」
「ご、五条さん!?」
いつの間に背後に立たれていたのか、全く気づかなかった。任務の指示書とスケジュール表を交互に見た後、ニヤリと上がる口角。背中を嫌な汗が伝うが、私にできることはやりました。ナマエさん、ごめんなさい。





* * *





「無事で良かった、お怪我はありませんか?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
「・・・本当に大丈夫ですか?さっきからフラフラしてるように見えま「ほ、ほんとに大丈夫!ちょっと腰が痛くて!」
顔を真っ赤に染め上げて大げさに否定するナマエさんに、ほんの少し違和感を覚える。なにより、ナマエさんを見つめる五条さんの口元がニヤニヤとニヤけている。
「ナマエちゃん、どうして腰が痛いの?僕がさすってあげようか?」
「結構です!ほっといて下さい!」
はて、この二人。こんなに仲が良かっただろうか。五条さんの口からナマエさんの話が出る度に、彼女に厄災が降り掛からぬよう小細工をしてきた。この任務だって、他の女性補助監督と私の予定を入れ替えて当てがう予定だったのを、五条さんに脅され無理矢理変更したのだ。

「つれないなー。僕たち付き合っ「わー!!伊地知くん、早く高専に戻ろう!ねっ!」
仲睦まじい二人を眺めながら、一体任務中に何があったのか。知りたいような知りたくないような、複雑な感情を抱えたまま車へ乗り込む。
数時間前、ナマエさんが運転できないという理由で、五条さんからピックアップの連絡が入った。できるだけゆっくり来るよう言われたが、高速を飛ばして駆けつけたのだ。怪我でもしたのかと心配したが、あまり詮索しない方が身の為だ。

「それでは、高専へ戻ります。行方不明になっていた方々も見つかり、一安心ですね」
「あっ!全員見つかったんだね、良かったー!」
「ナマエさん、ご存じなかったんですか?」
「ナマエちゃんは眠っちゃったもんね」
「そ、それは五条さんが・・・!」
後部座席でヤイヤイと戯れ合う微笑ましい男女。ルームミラー越しにその姿を眺めながら、一番気になっていたことを口にする。
「ところで、呪霊の正体はなんだったんですか?」
「エッt「な、なっ、なんだったんだろうねー?ははは、ほんと、世の中イロンナ呪霊ガイルンダヨー、フシギダネー」
ガバッと五条さんの口を塞いで大量の汗をかいているナマエさんに、これ以上聞いてはいけないと察して身を引く。五条さんが真面目に書くとは思えないが、報告書を見ればある程度は分かるだろう。

それから数日間は、満面の笑みの五条さんが『本当の報告書、読みたい?』と耳打ちしては、なにかを察したナマエさんが烈火のごとく怒るのが日課となっていた。だから頬を染めて打ち明けられても、なにも驚きはしなかった。

私たち、お付き合いすることになったの

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