今日の昼ご飯何にしよう。テキトーに店に入るか、家で調理か。そういえば朝から散歩に出かけてる白銀は何か食べたのかな。また雑草とか山菜とか食べてるのかな。そして視線で穴が開きそうとはこのことか。体現ありがとうございます。

 そんなことを考えて現実逃避。しかしエンカウントして目が合ってから二十秒経過したので、そろそろ挨拶くらいしようと思います。

「……こんにちは」

「! ……ああ」

 びっくりして思わずなのか何なのか知らないけど、いきなり白眼発動するのやめてほしい。心臓に悪い。忍たるもの驚かせても驚かされるなっていう教訓ですか勉強になります? ……落ち着け私。

「……何かご用ですか?」

 見つめてくるってことは用があるんだろう。とりあえず聞こう。例の因縁バトルじゃないといいなぁ。さすがに大通りはバトルフィールドにならないと信じたい。しかし常に最悪を想定するのが忍。……よし。いざとなったら結界で逃走だ。もしくは「怖いお兄さんが絡んでくる」と泣きまねして周囲に助けを求める。

 このフブキさん譲りの見た目なら、きっと心優しい人たちの同情と庇護欲を駆り立てるだろう。自己防衛と平穏のためなら、日向さんの風評を害することも厭わない。なにせ今日はオフ。つまり、修行も任務も約束もない休日。多少の犠牲を生もうとも、休日を悠々自適に謳歌する権利はあるはずだ。

 思考を完結させたところで、日向さんが口を開いた。ちなみに彼も、私と同じくらい時間をかけて何かを考えてたようだった。

「昼は食べたか」

「? いえ、まだです」

「……そうか」

 質問を質問で返されてしまった。そして答えに対して沈黙。……何これ会話終了? 私の質問に対する答えはどこへ。闇の中ってことですか。なるほど解せない。どうしようか悩むまえに、日向さんがまた口を開いた。

「にしんそばは好きか」

「……食べたことないので、分からないです」

「……そうか」

 再び沈黙。どうしよう会話むずかしい。日向さんが何を意図してるのか分からない。青春班かシカマルなら「にしんそば」というワードから日向さんの結論まで光の速さで導き出せるかもしれない。でも私には無理だ。経験値も知能も足りない。

 憂鬱を感じはじめる私。日向さんがまた口を開いた。

「時間はあるか」

「……ありますね。今日は晩までフリーです」

「じゃあ、ついてきてくれ」

 どこに? 疑問に思いつつ、たぶん答えてくれないので、とりあえず大人しく従ってみる。連れて行かれる先に何があるのか、それを判断してから対応を決めよう。バトルフラグが立ったら逃げます。


「えっと……イツルちゃんは、どうしてここに……?」

「それはね、ヒナタ、私も知りたい」

 連れてこられたのは蕎麦屋。席に案内されたらヒナタと遭遇。びっくりする余韻もなく、とりあえずヒナタの横を指定されて着席。「にしんそば三つ」日向さんが独断で注文して、それからようやくヒナタが先の発言。

 どういう経緯でここにいるかと問われれば「日向さんに連れてこられた」だし、どういう意図でここにいるかなら「私も知らない」だ。日向さんを見てみれば、眉間に皺を寄せられる。

「……にしんそばを食べたことがないと言うからだ」

 どうしよう会話むずかしい。ヒナタを見る。ヒナタも困惑していた。ダメだ日向さん難易度が高すぎる。試練なんだろうか。情報を聞き出す忍者スキルを磨けと。なるほど解せない。

「……紬イツル」

 唐突に日向さんが私を呼んできた。「はい」背筋を伸ばして見つめる。日向さんがゆっくり瞬きをする。

「……一方的に敵視して勝手な手合いに巻き込んで、すまなかった」

 頭を下げた日向さん。私は瞬きを数回。「……大丈夫ですから顔を上げてください」とりあえずこう言うしかないよね。気まずいし。紬の女の子が日向の男の子に頭を下げさせてるーとか噂が流れたらイヤだ。ただでさえ両家の仲はよろしくないのに。

「困惑と憂鬱はありましたけど、怒ってないです。唐突かつ一方的に勝負を挑まれることが今後なくなるなら、私はそれでいいです」

「……そうか……ありがとう」

 日向さんが雰囲気を緩めてほのかに笑った。眼福ですね分かります。ありがとうございます。

「……ネジ兄さんとイツルちゃんが仲直りできてよかった……」

 ヒナタが安堵の息を吐き出した。へにゃっと笑っている。実にかわいらしい。眼福です。思わず頭を撫でてしまった私は悪くない。不可抗力です。しかし日向さんに凝視されたので、すぐ引っ込めた。

「お待たせいたしました」

 店員さんがそばを運んできた。……魚が乗ってる。にしんって単純に鰊のことだったのか。前世でも現世でも食べたことがなかったから、漢字変換ができなかった。いろいろ考えながらそばを見つめていると「……イツルちゃん?」ヒナタに声をかけられた。ハッとして視線を向ける。不安そうな目とかち合った。

「あの……にしん、苦手だった?」

「ううん。はじめて見るものだったから、つい観察しちゃってただけ。食べ物の好き嫌いはとくにないよ」

 強いて言えば昆虫食というジャンルが苦手だけど、置いておく。たぶん言う必要はないだろう。とりあえずヒナタは笑顔になってる。

 いただきますと三人で手を合わせて、一口。「……おいしい」さすが日向さんのチョイス。木ノ葉きっての和風一族、和食に関して外れなしってことですね。偏見ですが。

「……おいしいね、イツルちゃん」

「うん」

 お花を飛ばしてる(比喩)ヒナタにうなずいて、鰊をほぐす。あとからヒナタが教えてくれた余談ですが、向かいでは日向さんがホッとしたように笑ってたそうです。あとにしんそばは日向さんの好物らしいけど、あんまり興味はない。

 とりあえず、ひたすら敵視されるフラグが無事に回避できたので、良しとします。

蕎麦と和解のフラグ修正
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