【伊吹山吹】 「オレさぁ、カカシ先生のこと好きなんだよね」 「……大丈夫、私は偏見もってない。性別と年齢の壁が分厚く高いとは思うけど、応援するよ」 「待ってぜんぜん大丈夫じゃない。誤解。ラブじゃなくてライクとかリスペクトって意味だから」 真顔で親指を立ててきた魔王様に慌てて訂正する。魔王様は「……ふーん」と呟いた。一気に興味が失せたって感じの顔。白銀が欠伸をする。 「ところで、なんで唐突にはたけさんの話?」 「いやぁ、ちょっと、こんな人前では大声で話せない内容なんだけど、」「話す気ないなら帰っていい?」 「聞いて!」 踵を返す魔王様の腕をつかんで引き止める。魔王様は呆れたようにため息をついた。 「……どこ行くの?」 「え」 「なんだかんだ結局は助けたいんでしょ」 さすが魔王様、オレの性格をよく分かっていらっしゃる。 ** 「たしかに写輪眼を持っていれば、この“万華鏡写輪眼”に多少の対抗はできる……しかしこの特別な写輪眼の瞳術、幻術“月読”は破れない……」 魔王様の結界で現場に到着したとき、ちょうどイタチさんが“月読”を発動する手前だった。「魔王様!」オレが叫ぶより早く、魔王様がイタチさんの側頭部めがけて蹴りを放っていた。 「!」 イタチさんがギリギリで避けた。それどころか、魔王様の足首をつかむ。イタチさんの“万華鏡写輪眼”が魔王様の目を見据える。魔王様がまっすぐ見返して、イタチさんが魔王様を離して後退した。魔王様が水面に降り立つ。はらり、イタチさんの髪と、黒衣の切れ端が風に舞う。 「……たいした結界だ……オレの“万華鏡写輪眼”を無効化したばかりか、オレを切り裂こうとするとはな……」 「あなたこそ、よく私の蹴りを避けましたね。感知できないよう結界を利用したのに」 なんかカッコいい。イタチさんと魔王様のやり取りを聞いて思った。オレもそういうカッコいいシーンほしい。「ふざけてないでよ、将軍」「ごめん」魔王様に謝罪して、バシャッとカカシ先生たちの前に着地(地面じゃないけど)ハリーのトゲボールを展開しておく。そのうちの一個に、白銀が器用に乗る。 「……一流、山吹……どうしてここに」 「助けを求める人のところに必ず現れるものですよ、正義の味方って」 呆然としてるカカシ先生に、ウインクで返す。「気持ち悪い」「魔王様ひどい」魔王様は安定の辛辣だった。ちょっとふざけただけなのに。 「……イタチさん。何者です、この少年少女」 「正義の味方です!」 「………」 「ノッてよ魔王様! オレだけポーズ取って恥ずかしいじゃん!」 「最初からやらなきゃいい話でしょ」 「正論が胸に突き刺さった」 「……実にふざけた方々ですねぇ」 鬼鮫さんが殺気立った。“鮫肌”に手をかける。やべぇ調子に乗りすぎた。オレが反省したとき「鬼鮫」イタチさんが鬼鮫さんの名前を呼んだ。 「あまり甘く見るな……“刹那の災禍”の娘と、伊吹一族きっての天才発明家だ」 鬼鮫さんが魔王様とオレを順番に見た。思わず背筋が伸びる。そんなオレの後ろから「探しものは、サスケのことか?」カカシ先生の声が聞こえた。イタチさんが無言で目を細める。 「いや……四代目火影の遺産ですよ……」 カカシ先生たちの空気が変わった。アスマ先生が「こいつらいったい……?!!」と吃驚する。そのあとに続けるように、カカシ先生が「狙いは、ナルトのなかの九尾か……」と剣呑な声を出す。ヤバいカッコいい……鼻血出そう。不謹慎ですいません。 「動いてるのがおまえらだけじゃないのは知ってる……組織名は“暁”だったか?」 イタチさんたちの雰囲気が変わった。 「鬼鮫! カカシさんは連れてく。そのほかの方には消えてもらおう」 迫ってくる鬼鮫さんのまえに、魔王様が滑り込む。 「!」 「木ノ葉剛力旋風!」 「!!!」 魔王様がオレの横に着地(地面じゃないけどな)。すんででガイ先生の巻き添えを回避したらしい。さすが魔王様だ。オレは鬼鮫さんが吹っ飛んでからしか戦況判断ができなかった……速すぎて何が何だか分からんぜ……初代霧の守護者様の魔レンズ的なアイテムがほしい。今度つくろう。蚊帳の外状態のオレは思った。 そんなこと考えてるあいだに「木ノ葉の気高き碧い猛獣」→「珍獣の間違いでは?」→「あの人を甘く見るな」のくだりが終わっていた。ガッテム。思わず呟いたら魔王様に足を踏まれた。すいません緊張感なくて。オレは真剣にごめんなさいした。魔王様は足をどけて「アスマ先生」と振り返る。 「いつまで目を瞑ってるんですか? 幻術はぜんぶ無効化する結界を全員に用意したから大丈夫ですよ。あ、はたけさんと夕日さんとガイさんも、両目でしっかり敵を見ていただいて大丈夫です」 「おっま……、待て、おまえ大丈夫なのかよ、負担とか」 パチッと目を開いたアスマ先生が魔王様を見た。魔王様は「……たぶん?」のんびり首をかしげた。「おまえな……」アスマ先生が半眼になった。 「……あの少女、厄介ですねぇ……」 鬼鮫さんが“鮫肌”を構え直した。視線はまっすぐ魔王様を見てる。「彼女に危害は加えさせんぞ」ガイ先生が一歩まえに出て体術の構えを取った。カカシ先生たちも瞬時にガイ先生の横に並んで、それぞれ構える。カッコいい。 「……鬼鮫、やめだ」 不意にイタチさんが言った。みんながイタチさんに注目する。 「オレたちは戦争をしにきたんじゃない……残念だがこれ以上はナンセンスだ」 帰るぞ。そう言われて、鬼鮫さんは歯を食いしばった。「……せっかくウズいてきたのに……仕方ないですねぇ」言葉を言い終わらないうちに、二人は姿を消した。 原作とは違ってカカシ先生がダメージを食らったわけでもないのに、みんな追いかけないのか。疑問に思ったとき、頭をつかまれた。 「……で? なんであなたはここに来たのかしらぁ?」 視界いっぱい紅先生の笑顔。ヤッベェ超怖い。「いや……あの……」冷や汗をかくオレの耳に「イツルもだぞ」アスマ先生の声。思わず目を向ける。魔王様が首根っこをつかまれてた。と思ったら、アスマ先生の「あ」とともに魔王様が拘束を抜けた。 ずれたジャージを正して、魔王様がアスマ先生を見上げた。 「アスマ先生……子どもだけど忍ですよ、私も将軍も」 「……おぉ……そうか……」 嘘をつくこともなく一言で納得させた魔王様はすごい。感嘆するオレの足元で、白銀が後ろ足でわしゃわしゃ首筋を掻いていた。 瞳術と忍刀の迎撃 |