サスケと我愛羅の試合の最中、将軍に呼ばれた。そして今、里の外壁の上に立っている。まったくもって状況が分からない。 「……こんなところに立って何がしたいの?」 「いや、蛇が口寄せされるはずだから、里の中に入るのを食い止めようかなーと……って、もしかして魔王様、原作知らない?!」 「ほとんど知らないね」 ガッデム! 将軍が崩れ落ちた。無駄に感情表現が豊かでうっとうしい。そう思った矢先、派手に煙が発生した。口寄せ独特の煙だ。将軍が素早く立ち上がろうとしたところに足払いを仕掛けて、私は棍を真一文字に薙ぎ払った。 「―――………ッ!!!」 一拍のち、断末魔の叫びが轟いた。同時に煙が晴れる。上下に真っ二つに裂けるような感じで。晴れた視界で、蛇の頭が九つ、胴体から切断されて地面へと落下していくのが見えた。一つ残さず結界で包んで灰と化す。 「……何してんの魔王様……」 「あんな大きなものが落下したら振動がヤバいと思って」 「そっちじゃない!」 尻餅をついた体勢の将軍が、呆然と呟いた。かと思ったら、私の返しを聞いてキャンキャン吠える。 「なに一瞬で片づけちゃってんのって聞いてんだよ! オレの出番どこいった?!」 「これからあるでしょ」 外壁へと跳躍してきた忍たちを指差す。結界に激突させて追い返すけど、数が多い。 将軍が親指を噛む。ドォンッ……横に着地音。首根っこをつかまれて、足が地面を離れる。 「おまえたちはまだ最前線で迎撃するような役じゃないぞ」 「……神庫様」 なんでここに。ポカンと見つめると、フッと笑われた。 「木ノ葉最強の我らが里を守らんでどうする」 ……この人も『紬は木ノ葉最強』論者か。場違いなことを考えた。 「それより神庫様、将軍の首が絞まってます」 「おお、すまん!」 「ゲホッ!」 急に酸素を取り込んだ将軍が苦しそうに咳き込んだ。 「一流、おまえは御影を止めろ」 「え?」 「こういう戦が起こるとあいつは興奮してな。どうにも止められん。おまえの結界は御影の攻撃を受け止められる類稀な強度をもってるから、少しは止められるだろう」 「……そんなにしっかりとは止められませんが」 「なんだ知らんのか? 我ら紬の結界でも、あの御影の攻撃は基本的に止められん。たいてい結局は斬られる。御影の攻撃を完全に防げるだけの強度をもつ結界が使えるのは、俺とおまえ……あと、多少のダメージで済む樋代くらいだ」 衝撃の事実を聞いてしまった……。そういう地味に貴重な人材扱いやめてほしい。何かと巻き込まれるやつ。思わず遠い目をしてしまった私。けどたぶん神庫さんは見てないんだろうな。 「というわけで頼んだぞ」 けっこう乱暴に放り投げられた。宙に。 将軍が慌ててハリーを口寄せして、トゲを引っ込ませたボールの上に着地した。私は結界の上に乗って、将軍とアイコンタクト。ほぼ同時にため息をついて、それぞれ足場から飛び降りた。 ゴーグル型の結界を目の前にセットして、御影さんを探す。でも、見つけたところでなかなかたどり着けない。というのも、途中途中で音忍や砂忍たちに出くわしたり見かけたりするからだ。できるだけ素早く倒していくけど、御影さんの移動スピードが速すぎて何度も見失う……。フットワーク軽すぎだと思う。 「あのさ、どっかで待ち伏せたほうが早くね?」 息を整えながら将軍が言った。私は瞬く。 「御影さんの行き先が分からないんだから意味ないよ」 「いや行き先ってアレでしょ。強いやつ」 「だれ?」 「大蛇丸とか……」 「……どこ?」 「本選会場の物見やぐら」 「ふーん」 相槌を打って、参考までに本選会場のほうへ視線を向けてみる。 「……いた」 「さすがオレ」 意味の分からないドヤ顔を浮かべる将軍を結界で包んで、本選会場へとテレポート。足が地面につくまえに、慌ててテレポート。降り立とうとしていた場所に天井が落ちるのが見えた。 「御影様、攻撃範囲を調整してください……!」 樋代さんの悲痛な声がした。結界ゴーグルを通して見てみれば、客席に結界を張っていた。幻術で眠っている人たちを御影さんの斬撃から守ってるらしい。御影さん、眠っている人と戦っても当然つまらないから狙いは定めないけど、巻き添えを食らおうと知ったことじゃないとも思ってるからな……。樋代さんが苦労する羽目になるようだ。かわいそうな樋代さん。 「!」 結界を紡ぐ。はたけさんとガイさんの手前で、なんとか斬撃を掻き消す。将軍も雨の炎で膜をつくっていた。「山吹、イツル?!」夕日さんの驚く声が聞こえた。 「どうしてここに……」 「いやあの、ホクラ様?から、ミカゲ様を止めろって指示されて……」 将軍が何やらしゃべっているのを無視して、御影さんをなだめにかかる。 「御影様、斬るのは音と砂の人たちだけにしてくださいね」 「斬られる場所にいるやつが悪い」 さすが御影さん安定の俺様。まったく反省しない。いっそすがすがしい……。思わず遠い目をしてしまった。そのあいだに、最後の音忍が斬られる。モブというか雑魚キャラなせいか、ずいぶんあっさり殲滅。 地面は一面、湿っている。血の色に。そして転がる死体。どれも首・肩・胴のどこかで綺麗に切断されている。かなりのグロ。さすが御影さんだ。木ノ葉の忍が軽傷で済んでいることについて、樋代さんを褒め称えたい。 「ぎゃあ?!!」 将軍が悲鳴を上げた。彼の目の前を斬撃が通り抜けたからだ。地面に対して垂直な斬撃ってなんとなく威力すごいように感じられて怖いですよね。そんなこと考えてる場合じゃない。私と樋代さんの結界が、はたけさんとガイさんを守った。 「御影様、」「おまえらそこそこやれるんだろ? 俺の暇つぶせ」 暴君降臨。今の状況を四字熟語で表すとしたらこれだろう。四字熟語で表す意味はとくにない。強いて言うなら現実逃避願望の表れです。だってこれ止めるのめんどくさい……。 「……ヒマつぶし、って……」 はたけさんが呟いた。信じられないという顔で。心中お察しします。御影さんはキングオブ自己中戦闘狂です。申し訳ないと私が謝るまえに、ガイさんが吠えた。 「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう、ミカゲさん! 火影様が大蛇丸と闘っているというのに!」 「バカ、ガイ!」 はたけさんが諌めるけど、遅かった。御影さんの目の色が変わって、凶悪な笑顔が浮かぶ。ビリビリと空気が揺れる。殺気だ。木ノ葉の忍が何人か後ずさる。 「……クソ蛇がいるのか、ここに」 樋代さんの努力が水の泡だ。御影さんの意識が物見やぐらにいかないように結界を張っていたのに……。とっさに物見やぐらへと視線を向けたガイさんを眺めたまま、御影さんが無造作に軻遇突智を一閃させる。私が結界を紡ぐ。樋代さんの結界が割れた。 「御影様、っ!」 私の結界も破られた。ついでに斬撃も食らう(邪魔したから怒ったんだろう)。新しい結界で防いでいるあいだに、御影さんは物見やぐらへと飛んでいた。私は慌てて瞬身で追いかけた。 大蛇と忍衆の急襲 |