本選の第一試合はナルトが華麗なる逆転勝利を収めた。その次の試合はサスケの遅刻で延期になって、その次の試合はカンクロウが棄権。というわけで、今から私の試合です。非常に解せない。本選に出場する面々はなぜこうも自分勝手なんでしょう。 「オイ、もう一人! 早く降りてこい!」 ため息をついていたら、試験官の不知火さんに催促されてしまった。リーさんが秒でスタンバイしてるせいだ。すごいやる気満々のワクワク顔で。なんでそんなにモチベーションが高いんだろう。解せない。 「憂鬱……」 「イツルちゃん、出番だってばよ!」 「がんばってこいよ」 「次が自分だからって、私に棄権させまいとしてるよね、シカマル」 「オレは五番目の出番のつもりで来てんだよ。二番目になってたまるか」 「私だって四番目のつもりだったんだよ」 「……イツル、とやかく言ってないで行くべきだ。なぜなら、」 シノが口をはさんできた。サングラスが光る。 「自分の意思に反して出番がなくなった側は、空虚な気持ちになるからだ」 「……行ってくるよ」 ついさっき相手都合で出番がなくなってしまったシノに言われると、なんとなく気まずい。白銀をシカマルに預けて、柵を乗り越えてフィールドに降り立った。リーさんと向かい合う。 不知火さんが「始め!」と合図を出した。間髪入れず「木ノ葉旋風!」蹴りが飛んでくる。一歩うしろに下がって避ける。今度は拳。続いて蹴りが二連続。手刀。顎を狙った蹴り上げ。回し蹴り。ぜんぶ避けたうえで、棍でリーさんの頬をかすめる。一瞬リーさんの身体が跳ねる。その隙を突いて棍を振るって、また身体をかすめる。繰り返し。 「……っ」 リーさんが撤退した。肩で息をしながら見つめてくる。私はちょいと首をかしげてみせた。リーさんは微笑んだ。 「その棒……いったい何を仕込んでるんですか? 先ほどから身体が痙攣するのですが」 「ただの熱と静電気ですよ」 地味に痛いやつ。致命傷を与えることはないけど、相手の動きを鈍らせるには充分って感じの。ただの試験だし、相手は木ノ葉の先輩だし、むやみに怪我させたくない。 「リー! 外せ―――!!」 唐突に声が降ってきた。観客席にいるガイさんだ。周りの観客たちも吃驚している。「ガイ先生!」リーさんが敬礼のポーズで声を張り上げた。 「しかしそれは、大切なひとを複数名守る場合のときじゃなければダメだって……!」 「かまわーん! オレが許す! 相手はあの紬ミカゲさんの娘だ! 全力でいけー!」 御影さんの娘=強い=手加減するな全力で潰せ。的な方程式やめてほしい。私あんな人外の強さ持ってない。文句を言おうとしたら「よーし!」リーさんが重りを外した。そのまま何気なく重りが隅へと投げ捨てられる。 ドゴォッ……重い音と土埃が発生。地面に穴が開く。「……ムダな破壊行為ですね」「あとで直します!」軽口を交わして、蹴りを棍で受け止めた。もう片足の蹴りを避けて、右拳をいなして、左拳を避けて、回し蹴りを避けて、棍を腹部に叩き込んだ。 「!!!」 リーさんが後方へと跳ぶ。けどすぐ体勢を立て直した。「速いですね……」相変わらずの笑みが口元に浮かんでいる。メンタル強いなぁこの人。 「私の父のほうがずっと速いですよ」 チャクラを足に集めて、瞬時に接近。右肩めがけて棍を振るう。途中で棍を手離し、チャクラをまとわせた右手で、右肩を引いたことで前に出てきた左肩を打つ。リーさんが呻いて、それでも右拳を私の脇腹めがけて突き出してきた。加減して食らいつつ、回し蹴りを側頭部めがけてお見舞いして、避けられたところで再び左肩を狙う。いなしたリーさんが痛みに顔をゆがめる。その頬に遠慮なくチャクラをこめた拳を叩き込もうとしたら、リーさんが後ろへと跳躍。さりげなくばら撒いておいた撒きびしに気づいたリーさんが空中で態勢を無理やり変えて、地面に倒れ込むように着地した。 「すげぇ……」 「攻撃が速すぎて目で追うことすらむずかしいな……」 ナルトとシノの呟きが耳に届く。……格の違い的なものを見せつけてる感じになってたらイヤだなぁ。考えてたら、元気な声で呼ばれた。 「なにチンタラしてんのよー、イツルー! シャキッとしなー!」 視線を上に向ける。いのがブンブンと手を振っていた。ぱちくり瞬いていると「がんばれってばよ、イツルちゃん!」ナルトが叫ぶ。その横のシカマルは無言で拳を向けてきて、シノはただ見つめてくる。「イツルもリーさんもがんばって!」サクラの声が聞こえてきた。 「ちょっとデコデコ、どっちかにしなさいよ!」 「いいや、よくぞ言ってくれた! リー! がんばれ! このオレが見てるぞー!」 いのとサクラから離れたところにいるはずのガイさんが反応を示した。……にぎやかだな、木ノ葉って。ぼんやり思った。砂の人たちが「なにこいつらウゼェ」って顔をしてる。でも私個人としては、キライじゃない。 「……好かれてますね、君」 起き上がって構え直したリーさんが笑う。「あなたこそ」と返せば、大きな目がパチクリした。小動物みたいだ。チャームポイントってことですかね。違いますかそうですか。 リーさんは照れくさそうに笑ったあと、ガイさんとアイコンタクトを取って、手の包帯をほどきにかかった。 「女性に手荒な真似をしてしまうことを許してください」 真剣な表情で言ったあと、リーさんが移動。下だ。 とっさに棍で蹴りを受け止める。もう一発くる。さすがに足が地面から離れた。その隙を見逃さず、さらなる連撃。身体が浮く。リーさんが背後に回って、彼の包帯が身体に巻きついてくる。……何をするつもりだろうか。気になったので、ひとまず成り行きに任せてみる。ところですごい密着してるけど、セクハラとかですかね。違いますよね濡れ衣失礼しました。 くだらないことを考えているあいだに、ぐんと視界が回る。頭が下になり、高速で回転しながら地面へと向かっていく。地面に激突させるのが狙いらしい。 「……なるほど」 「?!!」 呟いて、結界を紡ぐ。適当な空中に転移。慣性の法則に従って回転する身体も、結界を利用して落ち着かせる。のんびり浮遊する私とは対照的に、リーさんは、抱きかかえるものがなくなってバランスを崩したらしく、派手に地面へと倒れ込んでいた。 手荒な真似をして申し訳ない。でも不可抗力ということで。内心で言い訳をして、地面へと降り立った。 →(2) |