チョウジがリーさんにあっさり負けて、ついに予選が終わった。

 本選は一カ月後、トーナメント形式で行われるらしい。気になる順番は、くじ引きで決まった。第一回戦がナルトと日向さん。第二回戦が我愛羅とサスケ。第三回戦がカンクロウとシノ。第四回戦が私とリーさん。第五回戦がシカマルとテマリ。

(……緑タイツさんかぁ)

 向こうのモチベーションがすごい。やる気満々だ。理由は知らないけど。因縁とかじゃないといいなぁ。爽やかタイプだし、違うと信じたい。静かにため息をついたところで、解散の号令をかけられた。ナルトがサクラにはたけさんの居場所を聞いて、返事を聞くや否や慌ただしく駆けていく。

「……騒がしいヤツ」

「元気がナルトの取り柄だしね」

「あんな予選のあとだってのに元気ありあまりすぎだろ……」

「シカマルはすでに疲労困憊って感じだね。やっぱりスタミナの問題?」

「自分の試合自体はそんな疲れてねーんだけどな。ほかのヤツらの試合が、見てるだけで疲れた」

「ふーん……そんなヒヤヒヤする試合あったっけ」

「山吹のとか」

「……あぁ」

 みんなが三々五々立ち去るなか、私もシカマルと並んで話しながら、いのとアスマ先生のところへと歩き出す。

「そういえばシカマルの相手、また女性だね。がんばって」

「……イツルも、がんばってチョウジの仇討てよ」

「え……一ヶ月のあいだに私“肉弾戦車”習得したほうがいい?」

「だれもチョウジの技で討てとは言ってねーだろ」

「そのほうが雰囲気あるかと思って」

 軽口を叩きながら歩いていたら、通りすぎざまに日向さんに鼻で笑われた。

「……おまえ、マジで嫌われてんな」

「そうだね」

 私は何もしてないというのに、まったくもって解せない。男と女は分かり合えない生き物だって聞いたことがあるけど、そういう感じかな。ちがいますか。そうですか。

「あ、シカマル、イツル! 焼肉、明日になったわよー!」

「がんばったから全員におごってくれるって!」

「チョウジは三人ぶんまでだからな! いいな!」

「えー、アスマ先生ってばケチくさーい」

「うるせぇ」

 第十班は今日ものどかだ。安定のマイペースさ。非常に落ち着く。私は頬を緩めて、三人のもとへと足を速めた。ちなみにドス(復活した)がじっとりと視線を送ってきていたけど、きれいにスルーさせてもらった。

**

「やあ、おかえり。そして本選出場おめでとう、一流。相手はあのマイト・ガイの生徒だってね。ずいぶんと体術が得意な子のようだけど、そこまで緊張しなくても大丈夫、余裕だよ。そりゃあもちろん油断は禁物だけど、でも正直、本選出場メンバーのなかでは下位の実力な気がするよ。しょせん剛拳だしね、日向の柔拳に比べたらたいしたことないよ。日向といえば一流、森の中で日向のクソガキと出くわしてたね。負けなかったばかりか、奴の頬に傷をつけて、偉いよ一流。よくやった」

 紬の敷地に入った途端、非常に長い挨拶をいただいた。にこにこ笑顔の樋代さんは今日も滑舌がいい。一ターンの発言のなかに話題がたくさん詰め込まれていて返事に困る。とりあえず最初と最後の言葉に対応する言葉を言っておけばなんとかなるけど。経験上。

「ただいま帰りました、樋代兄さん。試験も見守ってくださり、ありがとうございます」

「いいんだよ、ついでだったから。ほら、僕は今日まで里の外で任務だったんだけど、暗殺対象がヘボすぎて、とっても退屈だったんだ。だから結界を使って一流の試験をのぞいてみたら想像以上におもしろくて。感謝してるよ、すごくいい暇つぶしだった」

「お役に立てたなら何よりです」

 任務中に何してるんだこのひと。思ったけど、私は黙っておいた。沈黙は金で雄弁は銀なんですよ。覚えておきましょう。

「それで、一流、本選まで一カ月あるけど、もちろん修行するんだろう? そう言うと思って、神庫様と僕とでカリキュラムを作成しておいたよ。ささ、さっそく読んで確認してみるといい」

「……ありがとうございます」

 キラキラ期待に満ちた目に逆らえず、差し出された紙の束を受け取る。私が何も報告しないうちに、私のあずかり知らぬところで勝手に話が進んでいる。非常に解せない。しかも内容がえげつない。筋トレと体術が中心って、なにゆえ。

「だって、本選には日向のクソガキも出るんだろう? 今度こそ奴の矜持をへし折ってもらわないとね。なにせ紬一族より日向一族のほうが格上だとか抜かしてたし。これは許されざる所業だよ。思い上がりにも程がある。どう考えたって木ノ葉最強は紬に決まってるのに」

「………」

 こういうセリフを聞くと、樋代さんも紬の人間だなーと思う。他人のことを「思い上がり」とか言えない気がする。でもたしかに日向さんよりは強いので、日向さんをクソガキ呼ばわりしても許されるとは思っている。

 ほかにもサスケやら我愛羅やらの名前を出してディスり出す樋代さん。話を聞き流しながら、私は空を見上げた。ちょうど夕方で、夕焼けがきれいだった。現実逃避です。

(……シカマルはシカクさんに修行つけてもらうんだっけ……いいなぁ)

 結界を使って回復できるから、睡眠や食事は三日おきくらいでも平気。とか素で思ってる一族って怖い。まったく休息の時間が記載されてないカリキュラムを思い浮かべて、私はため息をついた。

 準備期間について、火影様は「公正と公平を期すため」云々言ってたけど、ぜったい公平じゃないと思う。

公正と公平の準備期間
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