「まあ俺も使役して戦うのが主流だし、動かない傷つきにくいって意味ではアンタと似てるかもだけどさー」 ため息混じりに言って、将軍は首の後ろを掻いた。どうすっかなーって内心で考えてるときのクセだ。将軍は焦るときほどよくしゃべる。ふざけてるときもペラペラしゃべるけど。あれ、結局いつでもしゃべってる? まぁいいや。いま関係ない。 「……俺の周りにある、この透明な水みたいなものは何だ?」 「!」 観戦してる面々が「え?」と目を丸くした。まぁはじめて見るとそうなりますよね。むしろ透明だから気づかない人も多い。仕掛けられれば気づくだろうけど。なにせ速度が遅くなる。 「……雨の炎って言えば分かりますかね」 将軍がヘラッと笑った。我愛羅の眉間あたりに皺が寄る。ふつうに考えて分からないと思う。分かったら私たちと同類ってことだし。アスマ先生とはたけさんも「雨の炎?」「アスマ知ってる?」「いや」と交わしてる。 「……山吹独自の忍術よ。火遁とはちがう炎を操るの」 夕日さんが説明してくれた。そういえば彼女は将軍の班の先生だったっけ。それなら任務とかで見たことがあるのかもしれない。ヒナタやシノを見ると、さして驚いてない感じだった。じゃあ彼らも知ってるのか。詳細までは知らないだろうけど。 「炎を操る?」 「おそらく伊吹一族の形成創生能力でつくり出したものだと思うわ。彼の操る炎にはいくつか種類があって、たとえば雨の炎の機能は低速化」 「! それで我愛羅の砂の防御の速度を落としてるってことか……!」 アスマ先生が感嘆した声を上げた。その声を拾ってか、我愛羅が目を細めて将軍を見た。「なるほどな……」剣呑な視線が将軍を貫く。 「道理で、いつもより身体が重く感じる……」 「悪い悪い。俺自身の戦闘レベルって低いからさ、こういう方法で攻めるしかなくって。……でもアンタも似たようなもんだし、おアイコってことで」 ヘラリ。また将軍は笑う。よっぽど余裕がないみたいだ。ペラペラしゃべるし、ヘラヘラ笑うし。まぁ相手が悪いってことですかね。「将軍がんばれー」棒読みで応援。「応援する気あんのか?」シカマルが聞いてきた。ノーコメントで。 「それよりなんで白銀がシカマルの頭の上で寝てるの? 誘拐やめて」 「こいつが勝手に寝てんだよ。そんな言うなら引き取れよ、重ぇし」 「白銀が選んだ寝床なら仕方ない。やっぱりシカマル預かってて」 「おい」 シカマルの眉間に盛大な皺。漫画でいう怒りマークまでこめかみに浮かんでるし。 「重ぇっつってんだろ」 「失礼な。白銀は天使の羽根のように軽いよ」 「はあ?」 意味不明って顔をされた。某ランドセルの名前だっりするけど、知らないよね。 とか話してる間に、フィールドでは将軍ががんばっていた。具体的に言うと、ユータに我愛羅の相手をさせて、その間に口寄せをしていた。ボンッ! きゅう。ハリネズミの登場。 「ハリー! 君に決めた! そして戻れユータ!」 某携帯獣の名ゼリフをパクるのはやめたほうがいいと思う。思うけど、今それを言えるタイミングじゃないので保留にしておく。ぶっちゃけ私と将軍以外の人には分からないだろうし。 そんなことを考える私をよそに、下ではハリーが増殖していた。いま言うのもアレだけど、ハリーのネーミングも残念だ。ハリネズミだからハリーって。将軍のセンスってほんとダメだと思う。ひどい。 「……邪魔だ」 静かな声がして、ハリーのトゲボール(って将軍は呼んでる)がほとんど消えた。詳しく描写すると、大量の砂に呑み込まれて、消えた。たぶん圧死、みたいな。将軍は緊張した顔つきで、我愛羅を見つめる。私は思わず身を乗り出した。 ドゴオッ!!! 「……!!!」 我愛羅の真横に回ったユータが、嵐の炎をまとった拳を我愛羅の腹へと叩き込んだ。炎の性質で砂の鎧が分解されたらしく、我愛羅は衝撃を食らったみたいだ。小さく呻き声を上げて、身体を折る。そこにユータがすかさず追撃。ついでとばかりにハリーのトゲボールが集中砲火。将軍も必死だ。 「……あのハリーって子の増殖は囮だったってわけね」 「我愛羅が大量の鉄球を処分する隙を突いて、戻しておいたユータを我愛羅の横に出現させるとはな……けっこう頭使ってやがる」 はたけさんとアスマ先生が実況した。おおむね正解。一つ指摘するとすれば「いや、戻してなんかなかったよ」はたけさんが否定。「ええ」夕日さんがあとを引き取る。 「ユータは戻すと見せかけて、ただ姿を見えなくしただけ。一種の幻術ね。そのまま静かに我愛羅の真横に移動させて、攻撃が決まった瞬間に幻術を解いたのよ」 さすがです夕日さん、はたけさん。内心で拍手を送る。アスマ先生が「マジか……」と視線を将軍に向けた。私も視線を戻す。将軍はクソまじめな顔で渦中を見ていた。その額から汗が落ちる。そろそろチャクラの限界かも。と思ったとき。 将軍が慌ててユータを手元に戻した。夜の炎まで創生してんの? 半端ないな。なんて瞠目する私である。そんな私の視線の先は、将軍ではなくて我愛羅なんだけれど。 にいと歯を見せて、我愛羅は将軍を見据えていた。周りにはハリーのボールの残骸。砂によって無残にも破壊されたものだ。その砂はというと、すごい勢いで将軍に迫っている。将軍が慌てて夜の炎をまとってワープする。なるほどそうやって逃げるために夜の炎を創生したわけか。納得。 「すんませんギブアップで!」 砂のないところに現れた将軍が両手を上げて叫んだ。すごい青い顔。必死さが伝わってくる。月光さんが「えー、では……」と言いかけたところで血相を変えた。月光さんが「試合終了です!」と駆け出すと同時、私が結界を紡いだ。 「……!!」 ぴたりと将軍の目の前で止まった砂に、月光さんも将軍も瞠目する。止めるべく瞬身でフィールドに現れていた夕日さんとはたけさんも同じく。我愛羅も目を見開いていたけど、それも束の間だった。すぐに眉間あたりに皺を寄せて砂を動かそうとする。やめてほしい疲れるから。私はため息をついて、柵を乗り越えて飛び降りた。 視線を感じる。目立つのは好きじゃないんだけどな。内心でやれやれと思いつつ、まっすぐ私を見てくる我愛羅を見つめ返す。 「将軍は負けを認めたよ。だからあなたの勝ち。砂で攻撃する正当な理由はない」 「………」 「砂、しまって。君が自主的にしまわないなら、私がしまうよ」 強引に砂を操ってみる。キッツい。ぜんぜん動かない。ツラい。私がしまうよーって大口たたいておいてコレとか私かっこ悪いな。なんて思いながらもがんばっていると、我愛羅が口を開いた。 「……なぜ助ける」 「なぜって、大事だからだけど」 私が必死にがんばってるときに、変な質問をしないでほしい。気が散る。そう思ってざっくりテキトーに返す。ていうかなんでそんなこと気にするんだろう。聞いてみようかと思ったとき、ふっと負担が減った。 「……やめだ」 砂が瓢箪のなかに戻っていく。どうやら我愛羅は戦意を収めてくれたらしい。私は安堵の息を吐いて、踵を返す。面倒だけど階段で帰ろう。チャクラもったいない。そう考えて歩いてたら、ふと頭のうえに何かが乗った。見上げる。はたけさんの手だった。 「一流ちゃんはいい子だね」 「? どうも」 テキトーに会釈して、足早に去る。はたけさんと長く接触してるとアスマ先生がうるさいんです。嫌ってるわけじゃないんですよ。 増殖と沈静の予選敗退 |