ある日突然、死亡と誕生を一気に連続で経験しました。

 ……いや、ちょっと待って。何が起こったんですか。落ち着いて私。冷静に、ここに至る過程を見ていこう。

 授業を終えて学校を出た。帰路の途中、トラックに轢かれた。こけて道路に倒れ込んだ将軍を庇おうとして庇い切れてなかった姫を、将軍もろとも庇ったから。なんとなく気まぐれで。たぶん、気分が乗っていなかったら、二人とも見殺しにしていただろう……あれ、こんなこと言ってる私って最低ですかそうですか。ちなみに「将軍」「姫」は、私の友人たちのあだ名です。

 ……で、おそらく即死。ああ、死んだなーって実感した。将軍、姫、長生きしてよーって思った。

 そのあと、ふと気づけば赤子として生を受けていた。そして今に至る。

 ……おかしくない? 途中経過いろいろとぶっ飛ばしすぎじゃない? 死んだと思ったら赤子になるって。何ですかそれ。どうなってんですか。死んだと思ったら実は仮死状態で、すぐ生き返った……とかなら、まだ分かる。けど、これはない。理解の範疇を超えている。

 俗に言う『転生』『生まれ変わり』ってやつですか。聖書とか小説とか漫画とか、創作物の中だけのものかと思っていた。だけど、どうやら本当に存在していたらしい。驚きを通り越して感嘆する。貴重な経験ですよね分かります。

 やや現実逃避をしていると、人の話し声が聞こえてきた。あまりよく聞こえないのだけれど。聴力が弱いのだ。だって赤子だから。でも、なんとなく聞き取れる。

「……ほんとうに残念でしたわ……」

「ええ……ミカゲ様の御子であられるから、てっきり……」

 何ですかね、この会話。まったく意図が読めないんですけど。まず「ミカゲ」ってどちら様ですか。文脈からして、今の私の父親ですかね。だって「ミカゲ様の御子」は私のことでしょうし。

 ということは何でしょう、私は残念がられてんですか。なにゆえ。五体満足に生まれてこれなかったとか、そういう感じですか。ぼんやり他人事のように思う。すると、誰かが私のそばに来て、見下ろしてきた。

「……なぜ、黒髪黒目なのかしら……」

 威圧感が半端ない。目が冷え冷えとしている。なぜそんな目で見られるんでしょう。黒髪黒目いいじゃないですか。純日本人らしくて。ていうか、それで失望してるんだったらぶっ飛ばしますよ。

 心の中で毒を吐いて啖呵を切って、私は目を閉じた。周りの大人を視界に入れないために。声は仕方ない。どう頑張っても遮断できない。できるだけ聞き流すけど。

(……厄介なことになったなぁ……)

 夢なら醒めて、なんてことは思わない。これがれっきとした現実であることは理解している。それくらいの分別はある。とりあえず『今の私』が何者なのか知りたい。大人たちの声を、何か手がかりとなる情報がないか注意しつつ聞き流しながら、そんなことを思った。



 ……という生誕のときから、三年が経過。

 私はすくすくと成長しております。いろいろと苦労をしましたが。詳しくは言いません。諸事情による割愛です。気になる方は勝手に想像して察してください。

「一流。集中なさい」

「……はい」

 ぴしゃりと叱責が飛んできた。私は小さく返事をして、文字に意識を向け直す。いまの状況を簡単に説明すると、読書をしています。具体的に言うと「忍術の使用の基本」について、本を読んでいる。

 ツッコミを入れるのは諦めました。普通は絵本じゃないのかとか。三歳児がそんな本を読むのはおかしいとか。思ったけど諦めた。言ってもどうにもならないから。

 険しい表情で私を監視している女性……フブキさん。つまり私の母親は、私にスパルタ(似非英才)教育なるものをしたいらしいのだ。

 事の発端は、私の出生時に遡る。

 その前に、まず私の生まれた紬〔つむぎ〕という名の一族について説明をしたい。

 この一族は、ある特殊な超能力を持っているらしい。一言で言うと“結界術”だ。

 自らの意思一つで、術者以外には(基本)感知不可能の結界を自在に創り出すことができる。そしてその結界は、形状はもちろん、性質、機能、能力、条件などを、自由なタイミングで際限なく自在に設定することが可能とされている。

 ゆえに、防御、捕獲、攻撃、囮に目くらまし……用途は多岐にわたる。術者の発想力と技術次第ってことですね。

 それから術者の力量も問題になる。結界の規模(与えた能力とか持続時間など)に見合うだけの力……つまりチャクラ量が足りなければ、結界の使用が制限されてしまうから。たとえば、あまり能力を与えられないとか、そもそも結界を形成できないとか。

 また、特に意図のない結界は充分な効力を発揮しないのだとか。抽象性、曖昧さは厳禁。具体的かつ明確に設定をしなければならない……。いろいろと難しい。

 余談だが、一族曰く結界は「紡ぐ」ものらしい。私が使った「創り出す」や「形成する」ではなく。それが紬という名字の由来になっているらしい。本当どうでもいい。

 ……とか考えてる間に、本を読み終わる。最近、複数の作業を同時にこなすことができるようになった。私ってすごいと思う。ひとまずノルマ達成だ。ちょっと心を弾ませた私の前に、本が現れた。

「読み終わったのでしたら、次はこれをお読みなさい」

「……はい」

 有無を言わせないフブキさんに、黙って従う。いま読み終えたものよりも分厚く字が細かい本。辟易しながらも私は読み始めた。フブキさんの熱意に応えるために。

 ……あ。そう。どうして彼女が私にスパルタ(似非英才)教育をするのか、だ。答えは簡単。私に、紬の特殊能力の才能がないから。これは出生時に分かっていた。ゆえにフブキさんは、躍起かつ必死に、私に教育をするのだ。

 もう少し詳しく説明します。

 紬一族の結界術を使用できる者は、灰色の髪と空色の瞳を持って生まれるらしい。逆に言うと、その外見的特徴のない人間は紬の特殊能力を扱えないってことですね。

 私の出生時に大人たちが「黒髪黒目か……」とがっかりしていたのは、これが起因してるみたいです。私の親戚方は妙にプライドが高いようで、由緒ある紬の“血継限界”能力を受け継いでいない私が許せないらしいです。なんとも面倒な方たちですよ。

(……けど、なぁ……)

 実際問題、無能力者であるというのは、きつい。それではこの世界で生きていけないかもしれないから。

 いまさらだけど、ここはNARUTOの世界であるらしい。最近ようやく気づいた。某少年漫画雑誌に掲載されていた、某忍者バトル漫画の世界っぽいと。といっても、私はその漫画を好んでいたわけではない。好んでいたのは将軍と姫。しかし彼らのおかげで、私は話の内容を漠然と、所々詳しく知っている。そしてわりとしっかり覚えている。昔も今も、私は記憶力がいいから。

(……舞台は、木ノ葉の里だったっけ……)

 親戚たちが着用している額当てを想起する。中央に木の葉のマークが刻まれていた。ということは、私は物語の中心地にいるのか。面倒……というか不安だ。

 なにせ私は、一族の“血継限界”どころか、この世界で基本となる忍術、それから幻術の才能までないらしい。これ何の死亡フラグですかね。何もできないとか、野垂れ死ねってことですか拷問ですかそうですか。

 フブキさんからの風当たりが強いわけだ。一族の人間としても、里の忍者としても、落ちこぼれですもんね。母親にとったら恥ですね分かります。

 ……はてさて、落ちこぼれのレッテルを張られてしまった私。なんとかして力を手に入れたいと思っている。まず何よりも、自分自身の生存率向上のために。親孝行は二の次だ。というか、ちゃんと連動するので問題ない。私が能力を開花すれば、必然的にフブキさんの体裁と名誉も挽回できるだろうから。

(……しかし、先が長い……)

 まず能力を手にするところから始めなければならないとは。なかなかひどいスタートだと思う。ほんとうに何なんですかね、この仕打ち。もし仮に神とやらがいるのなら、ぶっ飛ばしてやりたいです。

 なんて、けっこう物騒なことを考えながら、私は今日もせっせと知識の吸収に励むのだった。


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 文字量が多くてすみません。
 分かりやすい説明になってるのかな。なってませんね。申し訳ない。読んでくうちに分かるかと。


唐突と疑問のはじまり
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