「“第二の試験”通過おめでとう!!」

 合格者たちを前にして、試験官のみたらしさんが言った。最後列でそれを聞く私。白銀はなぜかシカマルの頭の上だ。また彼の髪の束で遊んでいる。白銀のせいで微妙に目立つシカマル。だけど、私と将軍もそこそこ目立ってる。私たちだけ長方形から飛び出てるから。ほら、十班と八班だけ四人一組だし。

 並んでいる面々を後ろから見渡す。あれだけの受験生がいたのに、今ここにいるのは七チーム。木ノ葉から五班、砂と音から一班ずつ。木ノ葉のルーキーは全員合格したようです。よかったねと言っておこう。

「………」

 日向さんからすごい視線を感じる。さっきまでサスケを見てたくせに。もっとサスケに興味を持っててくれていいんですよ。言いたい。言えないけど。火影様の大事な話の最中だしね。でも私えらい人の話って苦手。

 まとめると、里の代表っていう自覚を持って自分の力を最大限出し切って闘ってくださいってことらしい。もっとまっすぐ直球に言ってほしい。たとえばシノみたいに。彼の話は聞いてて楽だ。だいたい最初に結論を言ってくれるから、そのあとを聞き逃してもなんとかなるって意味で。

 そんなことを考えていると、周りが騒ぎ出した。これから予選をやるって言われたから。なんでなんでと詰問する受験生たち……ほとんどが木ノ葉のルーキーなんだけど。彼らの質問に、審判の月光ハヤテさんが説明をする。

「えー、今回は第一・第二の試験が甘かったせいか、少々人数が残りすぎてしまいまして……中忍試験規制に則って予選を行い、“第三の試験”への進出者を減らす必要があるのです」

 辞退する者は申し出るよう指示して、月光さんは受験生を見渡した。予選はこのあとすぐに行われるらしい。また、ここからは個人戦になる旨も告げられる。

「あのー、ボクはやめときます」

 丸眼鏡の人が挙手をした。一次試験の前にナルトたちと一緒にいた人だ。引き止めるナルトに苦笑して、自分の左耳は聞こえてないのだと言う。私は彼へ目を向けた。……もしかして原作に登場する人だっけか。忘れたけど、なんか怪しい。

「えー、では……辞退者はもういませんね」

 確認したあと、月光さんが次の説明に入った。受験生のあいだに緊張が走る。白銀が欠伸をしたのが見えた。他人事だと思ってる。のんきすぎる。

「えー、ちょうど二十二名となったので、これから十一試合行うことになります。それぞれの試合の勝者が“第三の試験”に進出できます」

 細かいルールはなし。対戦者のどちらか一方が、負けを認めるか試合の続行が不能になるか。それで勝敗が決まる。シンプルなぶん残酷だ。一応、むやみに死者を出さないため、審判が試合を中止する場合もあるらしいけど。

「……ではさっそくですが、第一回戦の二名を発表します」

 月光さんの言葉を聞いて、全員が電光掲示板に注目する。私も目を向ける。そして、映った文字に瞬きをした。

 ガアラvsイブキ・ヤマブキ

「……嘘だろ、おい……」

 将軍が呟いた。横目で見ると、将軍の頬が盛大に引き攣っていた。マジ本気で遠慮したいんですけどって顔。こういう表情は昔から変わらないなぁ。なんて場違いに思う。

「では、掲示板に示された二名は前へ」

 月光さんが急かすように指示を出した。将軍は一拍ほど無反応(という名の足掻き)を見せたあと、のそっと歩きはじめた。その際ちらっと視線を向けられたので、拳を構えてFightと囁いておいた。泣きそうな顔をされた。解せない。

 無駄に発音をよくしたのが気に入らなかったのかな。なんて考えつつ、ほかの受験者たちと一緒に観覧スペースに移動。

「それでは、試合開始!」

 ザッと音を立てて、将軍が我愛羅から距離を取った。つまり後退した。一拍置いて、ナルトが「テメェ山吹ー! 逃げてどうすんだー!」と叫んだ。「うるせぇ逃げてねぇよ戦略的撤退だ!」将軍が怒鳴り返した。そのまま巻物を広げて、親指を噛む。

「口寄せの術!」

 ドォン。音を立てて、カンガルーが出てきた。身体の色は黒だけど。ところどころ鎧と雷まとってるけど。将軍より三回りくらい大きいけど。それでも見た目はカンガルー。でもこの世界にカンガルーって概念はないんだよね。みんな驚いてる。はたけさんですら「……なにあれ」って言ってるもん。

「おっし、行くぞ、ユータ!」

 将軍がカンガルーに声をかけた。あのユータって名前、由来を聞くとガッカリするんですよ。カンガルーは有袋目だって情報から、ユータって取ったんです。そのせいで、女の子なのにユータ。将軍のネーミングセンスが壊滅的すぎて泣けてきます。嘘です。冷ややかな視線を送っただけです。

「ユータ、go!」

 将軍の指揮でユータが動いた。ビュンってね。速度はある。鎧まとってるし図体デカいし重そうなのに速いってどういうことですかね。この世のものじゃないから理科的な法則は通用しないってことですかね、なるほど分かりました。ズルいそれ。

 ドガッ!とユータの蹴りが砂に阻まれる。そのまま砂がユータを捕縛しようとする。けどユータはすばやく身を引いた。体勢を立て直して、さらに迫る。砂が防御。エンドレス。かと思ったら違った。

バチッ!
「!」

 雷が砂の盾を貫いた。我愛羅の頬を掠り、一筋の血が流れる。おおーっ!と歓声が木ノ葉陣から上がる。砂の人たちも驚いてるみたいだ。我愛羅はひたすら無言だけど。ただ眉……ないけど。眉のあたりに皺を寄せて、将軍を見ていた。

「……ふぅん」

 ユータがまとってる雷は死ぬ気の炎だ。属性は雷。我愛羅が操るのは砂……チャクラの性質でいうと土に近いのかな。それなら雷は優位。だから貫けたのかな。でも次からはそう易々と攻撃は決まらないはず。

「ユータ!」

 将軍が叫ぶ。ユータの目がキラッと光って、スピードが上がった。おぉ速い。我愛羅がついていけなくなって、ついに直撃。砂のガードが追いついてない。また歓声。隣のいのが身を乗り出した。

「すごいじゃない、山吹!」

「いや、すごいのはユータだよ、いの。将軍なにもしてないから」

「厳しいな魔王様!」

 将軍からコメントが飛んできた。私小声で言ったんだけど、なんで聞こえたの。地獄耳なの? 気持ち悪い。「ひどい!」また将軍が反応した。こわ。「いやおまえけっこうデケェ声で言ってっから」「ごめん将軍、濡れ衣だったー」シカマルに指摘されてしまったので、とりあえず謝罪しておいた。棒読み? 知ってます。

「……ヤバいな……」

 砂の黒いひと(カンクロウだっけ?)が呟いた。下のフィールドをガン見してる。私もフザけるのをやめて意識を向ける。我愛羅の顔から砂が剥がれて、口元が見えていた。“嗤う”って表現はこういうときに使うんですね勉強になります。

「……オート防御の次は絶対防御とか、ズルいわー」

 我愛羅が砂の鎧をまとい直したところで、将軍が呟いた。言葉とは裏腹に、口元にはかすかな笑み。だけどやっぱり顔色は悪かった。

自動と意志の予選第一戦
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